かなりあ
むかしむかし、ある小さな国がありました。
国は小さくこそありましたが、豊かな緑、様々な動物、それらからなる自然の美さは、国の人たち誇りでした。
丘の上には真っ白なお城が立っていて、国のどこにいても見ることができました。この国の王様の子どもには、クルレフスカという王女がたった一人だけで、国王はそれはそれは王女をかわいがっていたのです。
母親の王妃は王女がまだ幼いころに亡くなり、王妃を失った国王の悲しみ様は深く激しいものでした。しかし、王女が成長するのにつれて、亡き王妃の面影を映し出すようになり、さらに国王はこの王女をかわいがるようになったのです。
今年、十五歳になったばかりの王女は、ジャックと言う名前のオレンジ色のカナリアを飼っておりました。ジャックはきれいな声でさえずり、城の人々の耳を楽しましたものです。
ところがある日、突然ジャックがさえずるのを止めてしまいました。心配した王女や、医師やその他のたくさんの者が、再びジャックがさえずるように、いろいろな方法を試してみましたが、ジャックが再びさえずることはありませんでした。
カナリアは歌を忘れてしまったのです。
だんだんと城の人たちは、ジャックがさえずっていたことを、ジャックのことを気にかけなくなってしまいました。
しかし、王女だけはジャックがさえずることがなくなっても、母に語りかけるように、毎日欠かさず話しかけていました。
ある朝、王女がジャックに水をあげるために鳥かごをのぞくと、中は空っぽで、ジャックはどこにも見当たりませんでした。
驚いた王女が乳母にこのことを聞くと乳母は、
「森に捨てました。歌を忘れたカナリアなど、お忘れになって下さい」
と言いました。
王女はそれを聞いて、ポロポロと涙をこぼして泣きました。悲しみのあまり、食事ものどを通りません。
そこで王女は、勉強を教えてくれている先生に尋ねました。
「歌を忘れたカナリアをどうお思いになりますか?」
「そんなカナリアは、捨ててしまえば良いでしょう」
先生は答えました。
王女はますます悲しくなって、今度は大臣に尋ねました。
「歌を忘れたカナリアをどう思われるでしょう……」
「王様に頼むと良い。きっと、今度は良くさえずるカナリアを下さるはずだ」
大臣はにっこりと微笑みながら答えました。
王女はさらに悲しくなって、最後に国王のところに行きました。
「どうしたのだ、クルレフスカ。……元気がないようだが」
「ええ……お父様……。ジャックが森に捨てられてしまったのです」
王女は、国王ならきっと自分の悲しみを分かってもらえる、とそう思っていました。
「そうか、お前を悲しませるなどとは……、あのカナリアは捨てられて当然ではないか。よし、良くさえずるカナリアを明日にでも買ってこさせよう」
国王は言いました。
王女は泣きながら城から飛び出ると、とうとうジャックが捨てられた森に、自分独りで捜しにいくことにしました。




