第18話届かない場所でも
とある店の奥。
薄暗い部屋の中で、元恋人は一人の男と向かい合っていた。
机の上には、半分ほど残った煙草と冷めたコーヒー。
空気は重く、静かだった。
「……で、何が知りたいんだ」
低い声が落ちる。
元恋人は椅子に深く腰かけたまま、ゆっくり口を開いた。
「一人、調べてほしい」
静かな声。
「金髪の男だ」
その瞬間、空気がわずかに変わる。
相手の男が眉をひそめた。
「……あの屋敷のやつか?」
元恋人は何も答えない。
けれど、その沈黙だけで十分だった。
男は小さく舌打ちをする。
「……やめとけ」
短い忠告。
「お前が関わる相手じゃない」
迷いのない声だった。
だが、元恋人は少しも動じない。
「面倒なのは、もう慣れてる」
淡々と返す。
「……ただ知りたいだけだ」
その目が、真っ直ぐになる。
「あいつが玲花の隣にいていいやつかどうか」
静かな声だった。
けれど、その奥には抑えきれない感情が滲んでいる。
「守れてるなら、それでいい」
一瞬だけ間が空く。
「守れてないなら——」
そこで言葉が途切れる。
その先は口にしない。
それでも、十分すぎるほど伝わった。
部屋の空気が重く沈む。
「……お前、本気かよ」
呆れたような声。
元恋人はゆっくり立ち上がった。
「本気だよ」
迷いなく答える。
「諦める気はない」
ドアへ向かう。
そのまま手をかけた。
「でも」
振り返らないまま、静かに続ける。
「無理に奪う気はない」
その言葉は、まるで自分に言い聞かせているみたいだった。
「ただ——」
ドアが静かに開く。
「確かめたいだけだ」
それだけを残して、部屋を出ていく。
まだ終わっていない想いを抱えたまま。
――第18話 終――




