表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

心の乱れとは @26

今日は平和だった。

どれくらい平和だったかというと、転校生の自己紹介で「特技はチョップでカニを割ることです」というので毛蟹をそっと教卓に置いたらすごい形相でバッシンバッシンチョップを数十分叩き込んだが全く割れる気配は無く、「これはカニではありません」と半泣きでそのまま別の学校に転校してしまうくらい平和だった。


今日も学校から特に急ぐこともなく家路に着く。


朝からポケットに入れっぱなしにしていた携帯を出して開いた。

――不在着信が一件。

留守番電話サービスに接続、再生してみる。


「お風呂場の湯気を横にしていると、海抜20mと40mの端っこを固めて対角線から見てるみたいだね」


やはり、彼女からだった。


……湯気を横にする?

今までお風呂にはほぼ毎日ペースで入っているが、湯気について真剣に考えたことが無かった。

彼女にすれば湯気にも向きがあるらしい。縦湯気、横湯気。

湯気は単に水が気体になっている状態で、デザインもタイトルロゴも無いのでパッと見では方向を判別できないように思える。

判別できたとしても、垂直方向に長く伸びていれば縦、水平方向に長く伸びていれば横、といった感じだろう。

湯気を直に見ながら考えようと思い、僕は風呂場へ入って浴槽にお湯を入れ始めた。

やがて湯気がもわもわ上がり始める。

それをしばらく眺めていると、これは縦だな、このへんは横だな、と何となく見えてきた。

ある程度の湯気の塊がそういう風に見える。

人間の認識力はいい加減なのか良く出来ているのか、とも思ったが今は他に考えることがある。

この湯気を全部横にする。

縦長になっている、縦湯気を上下からおさえつけるようにすると、一瞬、横湯気の帯になった。

……こういう事か?

今は湯気が少ないけども、風呂場が湯気でいっぱいになっている状態で湯気を上下から抑える、を根気良く続ければ横湯気の帯を作れそうだ。


――こう、横に。


横に。


横の帯に。


そうか。そうだ。


この帯が海抜20mと40mに見立てられているのではないだろうか。

つまり彼女は湯気で2本の線を作っていたのでは。


しかし湯気の線と海抜のつながりは?

海抜20mや40mを専門としている知識人を集めて横に並べるならいざ知らず……。

彼女は湯気を変質させるような資格でも持っているのだろうか。湯気黒帯とか、スチーム3段とか。

いや、しかし細分化が進んだ時代とはいえ、湯気だけの資格は無いか。

スチーム3段だと3層の蒸気が出る加湿器みたいだし。


……待てよ、彼女は湯気自体が海抜を固めたものだとは言ってなかった。

そうしていると、対角線から見てるみたいだといっている。横にする行為を言っていたのだ。

そもそも海抜を固めた、となるとその付近で起こりやすい現象を抽出する、といっていることになるが、

海抜20mは、時々大きな津波で「うわー」となるような気がするし、潮風が結構キツイ気もする。

「ここって海抜20mなんだー」と言う人もいるだろう。

海抜40mの方は「ここって海抜40mなんだー」と言う人がいて、他には、海抜40mの方が20mよりも地中部分が少ない、というくらいしか特徴が思いつかない。

海抜20mと40m、正確にはその端っこだから間の20m部分を抜いて端っこ同士の平行線をくっつけるというイメージだが、当然、くっつけても映像としては不連続になる。

そこにこの世の秩序は無い。

無秩序に流れる映像を、彼女は対角線から見る。

横にした湯気がすぐに拡散して秩序を失うのを湯気の外側から見る。


そういうこと、か?

どこか共通項があるような気がしてきた。


20と40は例として出しただけで数字自体は何でも良かったとすればこの考え方でも悪くは無いと思う。


対角線から見る、となると水深20mと40mの端を集めた場所になり、実際に彼女が見ているのがその位置だとしたら彼女自身も無秩序な何かになってしまうが、別に実際彼女が秩序無視し


ているのではなくて単に秩序から外れているものを見ているようなそんな気分になっていると言っている。そんなところなのではないだろうか。



そこまで考えたとき、居間に置いた携帯電話から再び着信音が響いた。

そして、いつの間にかお湯が溢れて足が濡れていることにも気付いた。

僕はお湯を止め、靴下を脱いで足ふきマットでふいたがそうしているうちに携帯は鳴り止んでしまった。


諦めてゆっくり居間に戻って携帯を開き、不在着信を見る。

それはやはり彼女からで、僕は留守番電話サービスに繋いだ。


「それと、お風呂あがりはやっぱり五ツ矢サイダーだね」


そうだ、お湯も溢れてしまったことだし、もうこのままお風呂に入って、サイダーでも飲もう。

ああ、でも先にコンビニで買ってこないと。



ともかく今日も平和だった。

明日も平和だといいなあ、と思った。


元は別サイトにて不定期すぎる連載をしているものを、

他サイトで何かしらの反応を得られればと思い投稿させていただいた次第です。


元のサイトではこれが第26回目の話なのでタイトル部に@26とつけています。


内容については特筆致しません。

読んで何かしらを思って頂ければ幸い。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ