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捨てられた妻は迷惑剣尊を拾う  作者: 小閑


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9/10

縁談

 後で藤露(テンルー)堂主に縁談前の顔合わせだったと知らされ、沐雨(ムーユー)は腰を抜かすほど驚いた。


 堂主は機嫌が悪かった。(シエ)家が事を急いだため、自分の弟子のことなのに直前に宗主から知らされたらしい。それでも一通りの説明をしてくれ、ようやく事情が呑み込めた。


(本当に、そんなことがあるなんて)


 謝翰(シエハン)の様子からは、病を抱えているとは思えなかった。優雅ではあっても柔弱さは微塵もなく、目は澄み、動きは整っていて力を感じさせた。


 そんな事情なら、あの丁重な態度も納得が行く。でも、もし自分が命の危険にさらされていたら、あんなふうに泰然として他人を気遣うことができるだろうか。


(あんなに完璧で、何もかも持っている人なのに。何かできるものなら、してあげたいけど) 


「お前、どうしたいの?嫌ならさっさと断りなさい。まったく、人を薬扱いして」

 

 いらいらした調子で言われ、(ユー)は我に返った。実際の話、いくら早々に道侶が必要とはいえ、謝翰(シエハン)が自分などで納得するとは思えない。「縁があればうれしい」というのは気遣いの言葉だろう。


 堂主本人から聞いたことだが、陰の気の強い男性は確かに少ないものの、極めて珍しいというわけではないという。(シエ)家の人脈を使って徹底的に探せば、もっと良い相手が見つかるだろう。


 どちらにせよ、家格の差を考えれば、こちらから断ることなどできないのではないか。あちらが縁談を進めようとしなければ、それで終わりなのでは。


 恐る恐るそう口にすると、堂主は怖い顔で(ユー)を見ていたが、手を振って下がらせた。


 

 翌日は何もなかったのでこの話は済んだと思っていたら、さらに翌日、なんと仲人がやって来た。

 

 一段と険しい表情の堂主にまた呼び出され、そのことを告げられた(ユー)は呆然となった。


(シエ)家が格上だからって、断れないなんてことはないのよ。嫌なら遠慮なく言いなさい」

「わかってるの?男に嫁ぐことになるのよ。自分にできるかどうか考えなさい!」


「今日は仕事はいいからじっくり考えて明日返事するように」と言い渡され、(ユー)は部屋に戻ってへたりこんだ。


(考えたら、ぼくなんかを見に来る前に、ずいぶん探してるはずだ。いい相手が見つからなかったのかな)

(もしかして本当に、ぼくでもいいということ?)

(ぼくが本当に......あの人の道侶に?まさか、でも)

(ぼくと縁があればうれしいと言っていた......)


 後になって振り返れば、いくら(陰の気の強い相手が必要、それだけだ。ぼくなんかが気に入られるわけがない)と自分に言い聞かせていても、結局すっかり舞い上がっていたのだとわかる。物語に出てくるような貴公子に、突然目の前に現れて優しくされ、有頂天になってまともに考えることができなくなっていたのだ。


 (ユー)はもう、自分が女性に恋愛感情を持てないとわかっていた。


 かといって、愛読する小説の主人公のように、自分を愛してくれる同性と巡り会って結ばれる、というのも不可能に思えた。現実にそんなことがあるのを見たことはないし、あったとしても自分の人生に起きるわけがないという気がずっとしていた。


 叶わない夢を見ても辛いだけだ。

 

 でも謝翰(シエハン)は現実にいて、自分を恋心から求めるのではないにせよ必要としてくれている。あれほどの人のそばにいられるなら、それだけでも大変な幸運ではないか。その上愛してほしいなど欲張り過ぎではないか。


「この人との縁を逃したら、もう自分の人生に同性の相手と結ばれる機会はない」という思いもあった。


 住み慣れた(テン)家を離れて見知らぬ家に入るのは不安だ。だが正直なところ、屋敷にいても心の底にはいつも不安と寂しさがあった。家族と呼べる相手はいないのだ。


 (ヨウ)と離れるのは辛いが、彼ももう十六歳。いずれ妻を娶り、今のような関係ではいられなくなるだろう。医修となって屋敷で確かな立場を築いたとしても、自分は孤独に年月を重ねて行くのだ。


 次の日、(ユー)は堂主に縁談を受けると告げた。彼女が本当に心配してくれていることはわかったので、心から感謝の言葉を述べた。


 堂主は何と言ってよいかわからないという表情でしばらく黙っていたが「それなら宗主に申し上げておく。これからは何事も慎重にして、健康にもいっそう気を配りなさい」と言い残し、ふいっと行ってしまった。




 その夜(ユー)はなぜか、雲晧(ユンハオ)の夢を見た。

 

 夢の中の剣尊は、数年前に会ったときよりさらにやつれた様子だった。衣は破れ髪は乱れて、どこかの山奥をさまよっているように見えた。


 噂によれば、認魂琴を直せる者は結局見つからなかったという。だがその仕組みを見抜いた高名な器修が、修理には霧素石というほぼ入手不可能な材料が必要なうえ、たとえ手に入ったとしても天匠の細工を完全に再現することはできないと説明したらしい。


 霧素石が手に入らないのは、もともとこの世界に存在するものではなく、秘境から持ち込まれたものだからだ。


 沃原には、何年あるいは何十年かに一度、一定の期間だけ秘境と呼ばれる別の世界への入り口が開く場所がいくつかある。入り口は現在四か所確認されており、近くの仙門が管理している。


 秘境には珍しい動物や植物、鉱物などが存在し、貴重な薬や法器の材料になるというので、大昔から修仙者たちが我先にと採取してきた。その結果、西の秘境にあった雲素石も採りつくされたという話だ。


 あったとしても修理は不可能と言われたわけだが、雲晧(ユンハオ)は三年前に西の秘境に入ったという。その後彼の姿を見た者はいない。


 西の秘境が開くのは五年に一度、ひと月のあいだだけだ。剣尊はまだ中で雲素石をさがしているのか、それとも――


 自分にできることは何もない。夢から覚めた(ユー)は、重苦しい気分を追い払うかのように頭を振った。

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