第五話 勇者と魔王の邂逅
「ま、魔王……⁉︎」
悠真は唖然とした。
目の前にいるのは、どう見ても妖艶な美女――
そんな彼女が、セリシアが命を懸けて戦った“あの”魔王なのか?
「おお、懐かしいのぉ。我が敬愛せし勇者セリシアよ。…ふふ、あれ以来じゃの」
「目的を答えなさい。異界に何の用があるの⁉︎」
セリシアの聖剣に力がこもる。だが、ルシアはまるで緊張感のない様子で立ち上がった。
「まぁまぁ、そんなに構えるでない。我はな、争いに来たわけではないのじゃ。…ただの好奇心よ」
「好奇心…?」
「うむ。あの時、我が展開した転移陣――あれが、何かの影響で術式が不安定での。面白そうだったゆえ、傷も癒えたこの機に様子を見に来てみたら、まあ、面白い世界に出たものよ」
その時――
クンクン
ルシアの鼻が動く。まるで獣のように。
「……この匂いは……⁉︎」
「ま、待ちなさい!勝手に動かないで!」
セリシアが制止の声を上げるも、ルシアはまるで聞いていない。
ずんずんと店の方へ進んでいき――
そして、唐揚げの皿の前でぴたりと止まった。
「これじゃ……! この香り、この熱……間違いない!」
「ま、まさか……⁉︎」
ヒョイッ。
その手が器用に動き、唐揚げをひとつつまむと――そのまま口へ。
サクッ、ジュワッ。
「う〜〜ん‼︎ 何じゃコレは⁉︎ こ、この味……! カリカリでいて中はふわっとジューシィ……! こんな食の悦楽、我は生まれて初めてじゃぁ‼︎」
「――あーーーーっ‼︎ 私の唐揚げぇぇぇーーっ‼︎」
セリシアの絶叫が居酒屋中に響き渡る。
「ん? 何をそんなに怒っておるのだ?」
何故か首を傾げる魔王。
(いやいや、そりゃ怒るだろ……)
悠真は額に手をあてた。
「そ、その唐揚げは私の癒しなの…! 今日一日頑張った自分へのご褒美なの! そ、それをよくもっ!」
声を震わせ、まるで宝物を奪われた子どものようなセリシアの抗議に、悠真は苦笑いを浮かべながらセリシアの両肩に手を置いて宥めようとした。
「セ、セリシア? と、とりあえず一旦落ち着こう?」
そこへ、さらに唐揚げをもう一つ摘み口の中に放り込む。
「ん〜? 食べ物如きでそんなにイライラしては、女子力が下がるぞ? それとも、この唐揚げとやらは高級料理なのかのぉ?」
ニヤリと挑発的に笑いながら、ルシアは口元を彩る黄金色の唐揚げをサクッと噛んだ。
「〜〜っ!」
セリシアが声にならない悲鳴を上げ、肩を震わせる。
その様子に悠真がヒヤヒヤしながら仲裁に入ろうとしたところ、ルシアがふいに言った。
「おい、そこの男。酒はないのか?」
「えっ?」
「酒じゃ、酒。これは間違いなく酒と共に味わうべき料理と見た」
「そ、それは確かにそうなんですけど……」
悠真が戸惑いながらも頷くと、ルシアは満足げに笑みを深め、すっと腰を組み替える。
「この料理に合う酒を、用意してくれぬか? 特別な夜に相応しいやつを…ふふっ♪」
その色気を帯びた声と仕草に、悠真は思わずドキリとした。
横で怒りを噛み殺していたセリシアは、限界寸前だった。
「ゆ、許せない…私の唐揚げ…、唐揚げ…!」
「セリシア、落ち着いて。大丈夫、まだ材料はあるから……」
それから数分、セリシアを宥めるのに悠真はかなり苦労した。
⸻
「ぷはっー! この“ビール”という酒、唐揚げと驚くほど合うのぉ〜!」
満面の笑みでビール片手に唐揚げを頬張るルシア。その姿はどこか無邪気で、凶悪な魔王の面影は感じられない。
一方、セリシアは少し離れた席で背筋をぴんと伸ばし、むくれながら賄いを食べていた。視線は完全にルシアをロックオンしている。
「店主よ、お主、なかなかの腕じゃな」
「は、ははっ…。そう言われると恐縮です」
(魔王って言ってるけど…あれ? なんか普通に人間っぽいんだけど)
「ん? 我のことをそんなにジロジロ見おって。もしかして、我の美貌に惚れたか?」
悪戯っぽくウィンクするルシアに、悠真は耳まで赤くなった。
「い、いや、なんというか…魔王って聞くと、もっとこう……角があったり、巨体だったり、異形ってイメージでして」
「確かに、我の前の魔王達はそうであったよ。だが、我は違う。魔族の中でも“人に近き種族”の末裔じゃ。見ての通り、美しく儚げで可憐…とは言いすぎかの?」
「そ、そうなんですね…魔族にも色々な種族がいるんですね」
「その通りじゃ、まさに人族と同じじゃよ。のぉ、勇者?」
話を振られたセリシアは、唐揚げを摘みながらも軽く頷く。
「ええ、彼女の言っていることに嘘はありません。私たちの世界でも、エルフやドワーフなど、さまざまな種族が共存していましたから」
「え、エルフいるの⁉︎」
妙にテンションが上がる悠真。
「と、まぁ…我の容姿については納得したかの?」
「ええ…、まぁ」
その瞬間——。
ドンッ!
重たい音と共にテーブルが揺れた。音の主は、怒りに震えるセリシアだった。
「そんなことより……貴女の目的は何なのですか⁉︎」
鋭い眼差しをルシアに突きつける。
ルシアは、そんなセリシアを一瞬見つめた後、ふわりと笑った。
「目的のぉ? 特にないわ」
「……は?」
「強いて言うなら、“好きに生きてみたい”。それだけじゃ」
「な、何なんですか、それは⁉︎ あなたは…あなたは、私たちの世界を、私たち同胞の命を……!」
セリシアの目に、怒りと悲しみが浮かぶ。
「セリシア…」
悠真が思わず彼女の名を呼ぶが、かける言葉が見つからない。
「確かに、お主が怒るのももっともじゃ。我が行った事は……償えるようなものではない。だが、お主もまた、我と同じじゃろう?魔族を殺め、領地を奪った。そして、その魔族にも家族が、恋人がおり、大切な場所があったのじゃ」
「そ、それは……!」
「終わったのじゃよ、すべては。過去は変わらぬ。ならば今をどう生きるか——それが我の選んだ道じゃ」
その瞬間、ルシアはグラスを掲げ、静かに言った。
「店主、生ビールをもう一杯頼む」
「あ、はい…」
魔王の前に再びビールが現れる。
「くっ……!」
セリシアはそれ以上言葉を発せず、そのまま店の外へと駆け出していった。
「セリシアっ!」
悠真が追いかけようと立ち上がる。
だがその背中に、ふとルシアが呟いた。
「なぁ、店主よ……人は、そして魔族は、過去を背負って生きるものじゃ。じゃが、それに潰されることなく進める者だけが、次の物語を紡げるのじゃよ」
「ルシアさん……一つ、聞いてもいいですか?」
悠真の声は、どこか迷いを含んだ、けれど抑えきれない思いを押し出したものだった。
魔王ルシアは、静かにゴクゴクとグラスのビールを喉に流し込む。
空になったジョッキをカウンターに置くと、紅い瞳を細めてこちらを見る。
「……なんじゃ?」
「どうして……人間と魔族は、ずっと戦争をしてるんですか?」
沈黙が、空気を変えた。
厨房から漏れる湯気の音すら遠く感じるほど、店内の空気は張り詰める。
ルシアはしばし考えるように目を伏せ、そして言った。
「――分からん」
そのあっけない返答に、悠真は言葉を失った。
「え……わ、分からないって……」
「本当に、分からんのじゃ」
ルシアは言葉を選ぶように、低く、ゆっくりと語る。
「人族と魔族の争いは、もう何百年も前から続いておる。始まりがいつだったかすら、今となっては記録も記憶も曖昧じゃ。我が生まれた百二十年前にはすでに戦火があったし、魔王の座もまた、代々戦いの只中にある者が継ぐものだった」
「じゃあ、理由もないのに……?」
「理由なら、探せばいくらでも見つかろう。領地の奪い合い、資源、文化の違い、宗教、あるいは単なる恐怖と偏見……だがの、戦争というものは、一度始まればそれ自体が惰性となり、やめる理由の方が見つけづらくなるのじゃ。」
ルシアの表情は、どこか遠くを見ているような――戦争の果てに立ち尽くした者のものだった。
「倒れた勇者の後に新たな勇者が現れ、滅んだ魔王の後に次の魔王が立つ。それがあのラグノスという世界の歴史だった」
「それじゃ、セリシアや、あなたも……」
「――ただの駒よ」
その言葉には、怒りも、悲しみも、激情すらない。
そこにあったのは、戦いの渦の中で命を燃やしてきた者の、深い諦観。
「我は、魔王であった。ただそれだけのこと。望んだわけでも、選んだわけでもない。ただ、なってしまったのじゃ。そして人族に倒されるべき存在として扱われた。それが『役目』だった。それは勇者も同じじゃ。魔族からは倒すべき存在として扱われていたからの」
悠真は、言葉を失っていた。
(魔王も……セリシアと同じように……)
どちらも「選ばれた者」ではあった。
だがその実、彼女たちは“選んだ者”ではなかったのだ。
ふと、ルシアが苦笑する。
「……それより、店主よ。勇者を放っておいてよいのか?」
「――あっ、セリシア!」
悠真ははっとして立ち上がり、店を飛び出す。
去っていく後ろ姿を、ルシアは静かに見送った。
そして、独り言のように呟く。
「魔王と勇者……立場は違えど、所詮はどちらも誰かの“英雄譚”のための使い捨ての駒。皮肉なものじゃのう……」
紅い瞳が揺れる。
その瞳に映るのは、戦場の残骸か、それともあの頃の夜空か。
「――じゃが、もう駒では終わらん」
⸻
夜の街を、悠真は一人駆けていた。
「……いない。どこへ行ったんだ、セリシア……!」
焦りと不安が胸を締めつける。見慣れた街のはずなのに、今日ばかりは無限に広がって見える。
ふと視線を巡らせた先、公園の街灯が柔らかく照らす一角で、ブランコに腰掛けた金髪の少女の姿が目に入った。
「……セリシア」
静かに歩み寄り、彼女の隣のブランコに腰を下ろす。
「大丈夫……?」
声を掛けるも、セリシアは何も言わなかった。金の髪が夜風に揺れ、その横顔には、怒りと哀しみが入り混じった表情が浮かんでいる。
やがて彼女は、ぽつりと口を開いた。
「私……魔王を、許せなかったんです。私たちの世界を、大切なものを……あの人たちは、全部壊していった。家も、家族も、仲間も……何もかも。」
「……うん」
「でも、魔王に言われてしまいました。『お前たちも同じだ』って。私たち人族も、魔族を倒し、彼らの土地を奪った。……その通りでした。だから、私は言い返すこともできなかった……。」
その瞳に涙がにじむ。
「ずっと心のどこかで分かっていたんです。自分もまた、大切な誰かの世界を壊していたこと。でもそれを認めてしまったら……勇者としての自分が崩れてしまいそうで、怖くて……。使命にしがみついて、見ないふりをしていたんです」
「セリシア……」
「この世界に来ていなかったら、きっと今でも私は、あのままでした。魔王の言葉に耳を塞いで、自分は正しいと信じて……自分を守るために、誰かを責めていたと思います」
静かに言葉を紡ぐ彼女の声は、震えていた。けれど、確かな強さがそこには宿っていた。
「でも、今は違う。私はこの世界でたくさんの人に出会って……悠真にも出会って……。知らなかったこと、見ようとしなかったことに、ちゃんと向き合おうと思えるようになった。だから……この世界に来て、本当に良かったと思っています」
彼女はそう言って、微笑んだ。けれどその笑顔はどこか寂しく、切なさを含んでいた。
悠真はゆっくりと手を差し伸べ、セリシアの手を包み込んだ。
「俺は……セリシアのそういうところが、本当にすごいと思うよ。怖くても、ちゃんと前を見て、立ち止まって、自分を見つめようとする。簡単にできることじゃないよ」
その言葉に、セリシアの瞳が揺れる。
「……ありがとう、悠真」
ふたたび夜風が吹き、ブランコの鎖がきぃ、と静かに鳴った。ふたりの沈黙は、どこか心地よい。誰かと哀しみを分かち合える――それが、これほど嬉しいものだと、セリシアは初めて知った。
店の灯が柔らかく揺れる頃、セリシアと悠真は静かに扉を開けた。
入った瞬間、奥の席に座っていた人物がふいに立ち上がる。
「おお〜戻ってきたか。二人とも無事そうでなによりじゃの」
魔王――ルシアが腕を組んで、ニヤリと笑った。
セリシアはその笑みを真正面から受け止め、数歩前に出てから深く頭を下げた。
「ごめんなさい!」
ルシアが少し目を丸くする。
「セリシア…?」
「私は、何も見えていなかった……いえ、本当は見えていたのに、見てないフリをしていた。そして……あなた達、魔族を……傷つけた。誇りも、大切な人も。ごめんなさい」
その声は震えていたが、目は真っ直ぐにルシアを見据えていた。
少しの沈黙の後、ルシアが重く口を開いた。
「謝る必要などない。あれは戦争じゃ。誰か一人の意思でどうこうできるものではないわい」
一転してその表情に、どこか翳りが落ちる。
「……だが、あの戦争はただの戦争ではない。勇者と魔王が“生まれるべくして生まれ、戦うよう定められていた”——そんな気配がある」
「……?」
セリシアも悠真も、わずかに眉を寄せた。
「多くの思惑、欲望、祈り、支配。いくつもの“意思”が絡み合い、ラグノスの戦争は形を成した。……我らは、その中心で踊らされていたのかもしれぬな」
どこか、何かを知っている目——だがそれをあえて言わないような目だった。
「……勇者と魔王の犠牲で成り立つ戦争……」
セリシアが呟くと、ルシアは不意にいつもの調子に戻ったように、手を打った。
「ま、今はそんな重い話はええわい!店主、酒じゃ、酒!それと何かつまみも頼むぞ!」
「あ、ああ……」
「セリシア、そこの椅子に座れ。ほれほれ、今日という日は“勇者と魔王が再会した記念日”じゃ!派手に祝おうではないか!」
困惑しながらも、セリシアは恐る恐る席に着く。
「店主、セリシアにも酒を!」
「え、私は……だ、大丈夫ですっ」
「なんじゃ、お主成人しておらぬのか? それとも酒が飲めぬ口か?」
「いえ、そうではなく……この世界では、20歳からじゃないと飲んではいけないそうで……私は、まだ18で……」
「なぬ!? なんとも融通の効かぬ掟じゃのう……」
(――それ俺も驚いたんだよな。セリシアが18歳って聞いた時。てっきり20歳は超えてると思ってた。異世界って本当に、年齢の感覚も違うんだな)
「ふむ……ならば、仕方ない。なら最高の料理で祝おうぞ!」
悠真は軽く頷き、厨房に戻ると、すぐに手際よく準備を始めた。
そして最初に運ばれてきたのは——
「刺身の盛り合わせと、冷酒を」
料理とお酒がデーブルに置かれる。
「ここに箸とフォークもありますので、お好きな方をお使い下さい。」
「すまぬな」
そして魔王が選んだのは箸だった。
「あ、貴方、箸をつかえるのですか⁉︎」
「当たり前じゃろ。我は魔王じゃぞ?」
そう言うと、魔王は箸で刺身を摘み上げる。
「これは…生の魚か? ほう、みずみずしい見た目じゃのう…」
「それはマグロの刺身で、トロと言われる非常に脂が乗っている部分の物です。そちらにある醤油とワサビをつけ食べてください。ワサビは非常に辛いので少しの量でのお勧めします」
「ほう、ショーユにワサビか……」
ルシアが箸でマグロの刺身を醤油とわさびをつけて口へ運ぶ。瞬間、赤い瞳が見開かれた。
「――これは……!? んんっ……! 甘い!? いや、旨味の層が深い……。これは魚の…脂じゃな? それと、この白い糸のようなものは何じゃ?」
「それは大根のツマですね。口の中をさっぱりさせてくれるんです」
「さっぱり…? ほう…さすが異界。食の奥深さに驚かされるばかりじゃ」
続いて、冷酒のグラスを持ち上げる。
「この透明な水のようなもの…香りがすごいのう。ひと口……んんっ、これは……。花のような香りのあとに、舌の上を滑る柔らかな甘味…そして喉の奥でキリッと締まる……! 完璧じゃ…!」
魔王が本気で感動している様子に、悠真は少し安堵し、セリシアもふと微笑む。
「そうじゃ、店主」
「ん?」
「我はここに住むぞ」
「——え、はいっ⁉︎」
「はっ⁉︎」
「ここの世界の料理と酒は、まことに美味じゃ! ならばここに住むのは必然というものじゃろうて。なにせ、食と酒を楽しむ場なのじゃからな。しかも、主ら二人のそばにおれば、退屈せん日々が待っておりそうじゃしのう!」
「え、えっと……」
戸惑う悠真の隣で、セリシアが苦笑しながらも真剣な目でルシアを見る。
「まぁ、タダで住ませろとは言わん。代わりに、この店に来る客どもに酒を薦めて、一緒に飲んで、この店を盛り上げてやろうではないか!」
(それって……実質タダで住んで、飲むだけじゃ……?)
悠真が目を細めていると、セリシアがテーブルを軽く叩いて声を上げた。
「そんな勝手、許すわけにはいきません! ここに住むなら、最低限“働く”ことが条件です!」
(……あれ、俺の意思どこ行った?)
「おぉ、真面目よのぉ~。さすが勇者、堅物すぎて石像になりそうじゃの」
「ふふっ、それ勇者への褒め言葉なんですか?」
セリシアの頬が少しだけ緩み、ルシアもまた楽しそうに笑った。
「ねぇ、悠真。魔王はお酒が好きみたいですし……このお店の“バーテンダー”として働いてもらうのはどうですか?」
「バーテンダー、か……まぁ、本人がやる気あるなら、俺はそれでもいいけど」
ルシアはふむと顎に手を添え、得意げに頷く。
「うむ、仕方ないの~。一旦はそれで手を打つとしよう」
「じゃあ、ここでひとつ。うちに住むなら“仲間”として接する。それが条件だ。だから、ちゃんと名前で呼び合おう」
悠真が静かに言ったその言葉に、二人は一瞬目を見開いた。
セリシアが小さく頷く。
「確かに……そうですね。これから一緒に働く仲間ですから。——これからよろしくお願いします、ルシア」
ルシアの瞳がやや驚きに揺れた後、ふっと和らぐ。
「……ああ。我もよろしく頼むぞ、セリシア」
かつては剣を交え、互いを討とうとした勇者と魔王。
だが今は、灯りのともる小さな居酒屋で、同じ時間を分け合う仲間となっていた。
ほんの少し、不器用でぎこちない。
でも確かに、温かい新たな関係が、今、始まった——。