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プロローグ

 

あなたは神様をご存知だろうか。



そう、多分誰もが今まで生きてきた中で一度は聞いたことがあるであろうあの神様だ。


しかし単に神様と言っても実に多くの神様がいる。

それらは神話やゲーム等を通して私達の身近にその存在を感じることが出来る。



軽く例を挙げるならばキリスト教の教祖イエス・キリスト、ギリシア神話のゼウス、北欧神話のオーディン、インド神話のガネーシャなどがいる。

日本神話で言えば、伊耶那岐命(いざなぎのみこと)伊耶那美命(いざなみのみこと)をはじめ、天照大御神(あまてらすおおみかみ)や、その弟である建速須佐之男命(たてはやすさのおのみこと)などが有名である。


特に日本では古来からこの世のすべてのものに神が内在しているという考えがあり、俗に八百万(やおよろず)の神と呼ばれている。



それらを信じるか信じないかは人にもよるのだが、俺は信じていない。



……いや、信じていなかったの方が正しいか……。 






とある夏の日。うだるような暑さの中俺は自転車にまたがり汗だくになりながらも、それはそれは長い坂を登っていた。



「はぁっ、はぁっ、くそっ……なんでっ、毎回こんなっ、くそ長い坂をっ、登らなければならないん……だっ!!」暑さのせいで朦朧としてきた意識を何とか保ちながら、そう毒づく。


今日で入社して二年目になるからと言って新調したばかりのスーツもすでに自分の汗でびしょびしょに濡れてシワだらけになっており、とてもじゃないがキマっているとは思えない。



「はぁっ、はぁっ、だがあともう少し……もう少しでこのくそ長い坂も終わる……」



そう言って最後の力を振り絞り残りの坂を一気に登りきる。

坂を登りきったところで得られるものと言えば大量の汗に少しばかりの達成感ぐらいなもんなんだがな。



「はぁっ、はぁっ……やっと着いた……」



息切れのせいか肩で息をする俺の目の前には、かなりの大きさの商業ビル……ようするに自分の職場がそびえ立っていた。



「いちいちこんな所に建てなくてもいいのに……」



ハァ、と大きなため息を一つ漏らすと俺はビルの近くに設置されている駐輪場へと向かった。









「あっ、河上くん!待って!」



駐輪場に向かう途中、誰かに呼び止められたので歩くのを止めて振り返る。


あ、ちなみに河上とは俺の苗字だ。名前は正則。

特に珍しい名前というわけでもなく、平凡な名前だが俺は気に入っている。


まぁそれは置いておくとして……案の定俺を呼び止めたのは顔見知りの奴だった。



「ん……あぁ、香奈か。おはよう」



「お、おは……よう……」



少しくせっ毛のある栗色のロングヘアーを揺らしながら息を切らして走って来たのは、高校からの腐れ縁で何かと問題を引き連れて来る……トラブルメーカーの岡本香奈だった。



 

 

「それにしても何でそんなに息を切らしているんだ?」



膝に両手をつけて肩で息をしている香奈に向かって尋ねる。

が、当の本人はというとまだ呼吸が整わないのか片手を胸に、もう片方の手の平をこちらに向けて「ちょっと待って」のポーズをとっていた。

それを見て俺は深呼吸をするように促す。

しばらくして、ようやく呼吸が整ったのか香奈が口を開いた。



「あ、ありがとう……。あのね、遅刻しそうだったから走って来たの……。それにしてもこの坂キツイ……」



なるほど、と頷く。まぁ、だいたいの事は予想出来ていたんだがな。



「香奈が頑張って走って来たってことは分かった。だけど、遅刻って言うには少し大袈裟すぎやしないか?」



俺の問い掛けに対し「そんなはずはありません!」と声を荒げてきた香奈だったが、どう言われようが俺のケータイに表示された時刻は正常だった。


それでもまだ信じようとしない彼女に、ケータイの表示画面を見せてやる。



「ほら、まだ朝の朝礼まで20分もあるぞ?」



「そ、そんな!?でも私の時計ではすでに遅刻してるはず……!!」



そこまで言うと香奈は自分の手首に着けている腕時計に目をやる。

そして何があったのかは知らないが、わなわなと震え始めた。



「そ、そんな……」



「やっぱり俺が合ってただろ?……ってどうしたんだ?」



「私の腕時計が……腕時計が……」



そう言ってとても悲しそうな顔をする香奈。

その顔は今にも泣き出しそうな程だった。 

 

「ちょっ!?いきなりどうしたんだよ!?腕時計がどうかしたのか?」



いきなり泣き出されそうになり焦った俺は、とりあえず状況を説明してもらえるように促す。

すると香奈は無言のまま腕時計をしている方の手を俺に差し出して来た。



「ん?……あ~~……壊れたのか……。言っても随分古かったもんな」



「河上くんから貰った大切な腕時計だったのに……」



そう言って、しゅんと肩を落とす香奈。


あの腕時計は俺が高校の時に香奈にあげたものだった。

というのも、一時のノリで「誕生日にお前が喜ぶとっておきの物をくれてやるよ!」と言ったのは良いものの、当日までその事をすっかり忘れておりその場しのぎの為に自分が今まで使っていた腕時計をあげたのだ。



我ながら酷い奴だったといつも思う。



「てかまだ着けてたのか、それ……」



「当たり前じゃないですかっ!!」



目に涙を溜めながらそう叫ぶ香奈。

それにしても身長の差的に自然に上目使いになるのは反則だと思う。



「日頃どれだけいい加減な河上くんでも、私との約束はちゃんと守ってくれました!この腕時計はそんな河上くんがくれた私の“とっておきの物”だったんです!!」



いや、うん。そこまで大事に思ってくれてたのは正直嬉しいんだが……素直に喜べない。

さりげなくけなされてるし……。



「いや……それって褒めてるのか?それとも、けなしているのか……?」



「少しけなしてます!!」



「いやいや……そんなに力強く答えられても……」



はぁ……、っと俺は大きなため息を一つつくと香奈に背を向け再び歩き出した。



「ほら、いつまでもこうしていたら本当に遅刻になっちまうぞ?」



「あっ、待ってくださいよぅ!!」



そう言って俺の後を香奈がとてとてと小走りで着いて来る。


この時の俺は今日一日で俺の人生が180度変わってしまうなどとはこれっぽっちも思ってはいなかった。

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