好きな人
翌朝の朝食後 弥右衛門、後片付けをしながらマサミとミカエルが話すのを眺めている。
「マサミさんが元気になってよかったです。昨日はきっとお仕事を頑張りすぎたのですね」
ミカエル、マサミをぎゅっと抱きしめる。
「ミカエルの髪、ふわふわしてるね」
「おかしな臭いが取れないのでオーガニックのシャンプーで何度も洗ったのです。やっとマサミさんと同じ匂いに戻りました」
「シャワーはもう怖くないの?」
「ええ、頑張りました。もう目をつぶらなくても平気です。外はいいお天気ですよ。後で公園に行きませんか?」
「でも仕事があるの」
ミカエル、諭すような口調になる。
「三十分だけでもいいのです。マサミさんが疲れてしまうのは、息抜きをしないからなのですよ」
マサミ、うっすらと微笑む。
「わかったわ。じゃあ、ちょっとだけね」
「それではお昼ご飯の前に出かけましょう。11時過ぎに迎えに来ますね」
ミカエルが部屋から出て行くと、マサミ、仕事部屋に入ってドアを閉める。
リューダが弥右衛門に話しかける。
「仲いいじゃないの。マサミとあれだけ会話できるなんて凄いスキルだわ。恋人にはぴったりかもね」
「まさかあんな奴に取られるとは思わなかったが、冷静に考えてみれば今までのスケベ男共よりはずっとましだからな」
「あの子はマサミと『契約』してるのよね。悪魔を僕にするなんて簡単なことじゃないのに、二人も捕まえちゃうなんてマサミも凄いわね」
「あいつらはあれが『契約』だなんて思ってないんだよ。好き同士、ずっと一緒にいようと約束しただけの話だ」
リューダ、弥右衛門の顔をちらりと見る。
「うらやましそうな顔しちゃってさ」
「そろそろ正式に譲ってやらなきゃな」
「本気なの?」
「本気だよ。『好き』だとも言えない男が、いつまでも未練たらしくひっついてるわけにはいかないだろう?」
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マサミの仕事部屋 弥右衛門が湯飲み茶碗を持って入ってくる。
「マサミ、お茶だよ」
「ありがとう」
「お前、ミカエルが好きだって言ったな」
「うん」
「そうか。……なあ、俺なんかよりもさ、あいつと一緒にいたらどうなんだ?」
「……どうして? みんなで一緒にいればいいでしょ?」
「そうだな……」
弥右衛門、しばらく黙っているがまた口を開く。
「でも、好きな男と暮らしたいとは思わないか? こう、一つの部屋に二人でさ」
マサミ、不思議そうに弥右衛門を見上げる。
「私は好きな人と暮らしてるよ」
「ああ?」
「ヤエと暮らしてるでしょ?」
「……お前、俺が好きか?」
「うん」
弥右衛門、赤くなって目をそらせる。
「そ、そうか。それならいいんだ。ミカエルがお前のことを恋人だって言うからさ」
「ミカエルはね、守ってあげなきゃいけないの」
弥右衛門、驚いてマサミの顔を見つめる。
「お前がか? お前があいつを守るって?」
「うん」
「何から守るんだ?」
マサミ、困った顔をする。
「わかんない。でも、ついていてあげなきゃいけないの」
「……まあいいや。お前が自分からそんな事を言い出すなんて、凄い進歩だからな。あいつはお前が面倒見てやれ。俺はもう口は出さないよ」
弥右衛門、マサミの顔をじっと見る。
「なに?」
「これからも俺と一緒にいるつもりなんだな?」
「うん。前にもそう言ったよ。忘れちゃった?」
「そうだったな。すまん、もう忘れないよ」
弥右衛門、マサミにキスするとそのまま強く抱きしめる。
「どうしたの?」
「こうしてると気持ちがいいんだ」
「ヤエはセックスしたいの?」
弥右衛門、赤くなる。
「そりゃ、したいけど、お前は今から仕事だからな。慎んどくよ」
「私はヤエとセックスしたいよ」
「ああ? な、なんだって?」
弥右衛門、驚いてマサミを見る。
「本気で言ってるのか?」
マサミ、不思議そうに弥右衛門の顔を見返す。
「本気じゃなかったら言わないでしょう?」
「だって表情も変えなかったじゃないか。普通はもうちょっと照れたり赤くなったりするもんだろう?」
「しないといけないの?」
「いや……じゃ、じゃあベッドに行くか」
マサミ、時計を見上げる。
「そうだ、11時にミカエルが来るからそれまでに終わらせてね」
「……相変わらず雰囲気もへったくれもないなあ」
弥右衛門、苦笑いするとマサミを抱き上げる。
「大丈夫、時間は守るよ。心配するな」
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同日の午後 鼻歌を歌いながら夕食の下ごしらえをする弥右衛門にリューダが話しかける。
「ずいぶんとご機嫌ね」
弥右衛門、振り返って笑う。
「マサミに好きだって言われたんだ」
「ええ、まさか」
「本人がそう言ったんだから間違いない。もうミカエルなんかには譲ってやらんぞ」
リューダ、仕事部屋のドアを開けるとマサミに声をかける。
「ねえ、マサミ。あなた、弥右衛門が好きなの?」
「うん」
弥右衛門、勝ち誇ったようにリューダを見る。
「ほら、本当だろ?」
「でも、ミカエルも好きよね?」
「うん」
「ジローは?」
「好きだよ」
「じゃ、あたしは?」
「うん、リューダも好き」
リューダ、弥右衛門を振り返る。
「こういうことじゃないのかしら?」
弥右衛門、がっかりした顔で椅子に座り込む。
「……まだまだ俺はマサミを理解してなかったんだな」
弥右衛門、リューダを横目で睨む。
「俺のささやかな幸せを土台からぶち壊しやがって」
「だってマサミが本気で誰かを好きになるなんて信じられないんだもん。はっきりさせときたいじゃない」
弥右衛門、むくれる。
「俺のいないとこではっきりさせればいいだろう? 夢ぐらい見させてくれよな」
「そんなに怒ることないでしょ? ちょっと待ちなさいよ」
リューダ、再びマサミに話しかける。
「ねえ、マサミ。その中で誰が一番好き?」
「ヤエ」
リューダ、弥右衛門を振り返って笑う。
「これで我慢しておきなさいよ。贅沢言っちゃ罰が当たるわよ」
第二幕 -完- 第三幕に続く。




