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旅に出て1週間、私と勇者はラームという街にいた。

大急ぎて旅の支度を整え、アレックスと王宮騎士を他に二人連れて王の執務室を出ようとした私たちの元に勇者と聖女はやって来てこう言った。「この国に俺より強いやつは他に居ない、魔障や大穴に誰よりも詳しいし、仮にも婚約者が他の男を連れて旅するのを国民はどう思う?」と。

確かに正論であったが、はじめ、私とアレックスは抵抗した。

しかし結局は押し切られた。


この面倒くさ……愛し合う2人と旅なんて最悪だ、と思ったがなんと旅に出るのは私と勇者だけらしい。でもまあ、それはそれで最悪に近かった。


まず、言うまでもなく私たちはお互いを好ましく思っていなく、考え方が違うにも程があった。

どうやら私は本当に箱入り娘で、王都から出たことがなかったから、馬車で1時間も走ればもう平民達が暮らす街があるなんて知らなかった。

それから、予想していたよりずっと勇者と聖女の平民人気が凄まじかった。


勇者の顔は知れているし、私の顔も知られていたから、私は平民の人たちから物凄く睨まれ、お付きや護衛がいないと見ると石まで投げられた。カーリーやアレックスに知られたら大変なことになりそうだ。


平民出身の勇者と聖女は彼らのヒーローとヒロインで、私はその二人の仲を引き裂く悪女らしい。


最初は陰口を言われ石を投げられる私を、勇者はさぞ善人らしく庇った。神託の為に仕方がないことなのだと、悲痛そうに目を伏せて。

民衆は更に勇者に同情し、聖女のことを褒め、私を罵った。

はじめ、勇者はその一連の茶番を満足そうな顔で見ていたが、私が投げられた石で額を切ったある日、面倒くさくなったのか飽きたのか、「人前ではこれを外さないように」とひとつの面を渡してきた。


「髪もまとめて外に出さないでください。あんたは駆け出しの冒険者で俺の弟子ってことにするんで」


「困ります。この旅は王族である私が巡礼する事に意味があるはずです。これではわたしだと分かりません」


「チッ、知らないですよ。そんなん。じゃあもっと上手くやってくださいよ。何を言われても物を投げられて怪我しても、あんたはただ立ってるだけで怒るでもなく泣くでもなく。だからみんな調子に乗るんですよ。ミレイはもっと上手くやってたぞ。とにかく、もうめんどくさいんで」


勇者は言いたいことだけ言うとさっさとどこかに行ってしまった。


幸い、王都から離れれば離れるほど王女が巡礼に出ているという話を知る人は減り、それどころか勇者の婚約者がどうこうという話も聞かなくなった。

随分王都から離れたこのラームという街まできたが、新聞や噂を聞く限り、今の所不都合は起きていないようだ。


勇者曰く、大多数の平民は王族のゴシップなんてどうでもいいらしい。

何故なら一生関わることもないような遠すぎる存在のことを考える暇があるなら、少しでも多く今日の糧を得る必要があるから。



しかし、私は依然として勇者の弟子を名乗っていた。

王女でない自分でいられるのは存外に気楽で過ごしやすかった。


こうやって、平民だらけの酒場で2ギルもしない酒を立ち飲みできるのはこの姿あってそこである。




「お、ディート! ディートじゃねえの! 勇者様! よぉディート! お前お貴族様になったっていうのに、まだこんな町にいんのかぁ?」


「フリック! 久しぶりだな。お前こそなんでこんなとこにいるんだ? 都会の支社に移動になるっていってたろ」


「あっはっは、その都会の支社がラームなんだよなぁ。まあ確かにメリフェよりはどこだって都会よな。本当はメリフェの東の方に移動んなる予定だったんだわ。ほら、エーデルは都会じゃん」


「あー、ああ、まあな」


「そうそう、そう。でもエーデルはもう今あれだからさ。東ん方はほんとダメだな」


だからここ。


フリックと呼ばれた青年はそう言って肩を竦めた。





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