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杖を振り向かってきたピグミーの群れをなぎ倒し、私はもう何度目かの疑問を口にした。



「どうしてこんなに魔物がいるんですか?」



グードヴォルンの胸骨から作られた杖は私の魔力を吸うと金色に輝く。これは私が初めて魔法師試験に合格したお祝いにアレックスが贈ってくれたものだ。

「俺がいない時は俺の代わりにこの杖が君を守る」そう言って渡されたこの杖の貴重性は魔法師なら誰でもわかるはずだ。

グードヴォルンは三本の角の生えた巨大な魔獣で、長い背骨が1本、胸骨が4本あり体は普段は透明で海に溶け込んでいる。とても慎重で滅多に捕まえられない。

王都の博物館にすら完璧な標本は置いていない。

その角は海を割く鋭さを持ち骨は自分の体の1部のように驚くほど馴染み扱いやすい。

一体いくらしたのか、どんなに問いつめても彼は答えてくれなかったが、王宮騎士になる前の見習い騎士の給料でそれを買うのがどんなに大変だったことだろう。彼の事だから家のお金は使っていないに違いない。

その当時は嬉しさのあまりしばらく杖を抱いて眠っていたっけ。

「まあ、俺が傍に居れず君がこの杖だけに頼らなければならない事なんてあって欲しくないけどな」

アレックスはそう言ってはにかんだけれど、残念ながらそういう状況に陥って既に1週間が経つ



「さあ? どうでもいいんで、さっさとそこ片付けてもらっていいですか。腹減ったんですけど」



聖女に向ける時に比べて半分くらいしか開いてない赤い瞳は、こちらを見るでもなく、背後から突進してきたディーピーを拳で吹っ飛ばし、心底面倒くさそうにそう言ってダラダラと先に進んだ。


アイツ……、と噛み締めたようなセリフはどうにか口から出ていくことを諦めてくれたが、そのあとから際限なく遥か先に見える長身の赤髪への文句が湧いてくる。


「これじゃ、すぐにでも文句を言ってしまいそう。カーリーに怒られるわね」


「は? なんですか? 終わりました? 終わったならさっさと来てくれます? 王女ってほんといっつもタラタラしてますよね」


「失礼しました。独り言なのでお気になさらず。モンフィス卿は脚が長くて羨ましいわ」


「王女って独り言多くないっすか? ちょっと引くんですけど」


「ハハ……」


溜息をつきながらそう言ってスタスタ歩いていく勇者にいつか後ろから魔法をかけてしまいそうな自分が怖いけれど、私はアレックスからもらった大切な杖を握りしめてどうにか気持ちを落ち着かせた。



「……大丈夫、大丈夫よジリアン。この旅はすぐに終わるわ。終わったらあの男とはさよならよ。……永遠にね」



この旅に出て本当に良かった。

聖女様、教会の大神官様そして陛下。

皆様に心より御礼申し上げます。




あの男と何があろうとも結婚するものかと、そういう決意を決められたから。








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