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せっかくのオベリア産の花茶はすっかり冷めきっていた。
ついでに私たち3人の視線も冷め切っていたし、なんなら呆れすぎてもうどうでもいいかな、とすら思い始めていた。
「いや、良くない。ジル、しっかりしてくれ」
ばん、と机を叩いたアレックスはもともと年齢よりも落ち着いて見えるのに、なんだかちょっと老け……いや更に大人に見えるほどだった。
「あの……ジル様? 全部お口から出ておいでですわ」
「まあ、わたしったら」
「老……」
あらまあ、と口に手を当ててはみたが、疲れすぎて酷く平坦な声音になってしまった。
でもそれも仕方が無いと思う。
「あの聖女、気が触れているのか……」
「私の姪っ子ですら、もっと理性的に会話できますわ。6歳ですけれど」
「まあ、勇者様の心にとっっても良く刺さっているようだったから、別にいいのではなくて」
どうでも。
と、付け加えた私にアレックスとティリアは本日何度目かのため息をついた。
すでに聖女様と勇者様は退出しているが、泣き出した後の聖女様の言いたいことはつまりこうだった。
「王女様は、私が神託を授かったことをお疑いのですね。確かにロエリーア様の泉で授かったわけではありません。ですが、この国を救うため命を懸けて旅をしていたのです、ロエリーア様はそれをわかってくださっておいででした。私は意識がある間は常に祈っていましたの。だからきっと泉を介さずに私にお話に来てくださっていたのです。でも、そんなこと、私以外の誰が分かるっていうのですか。信じられないお気持ちも分かります。良いのです、ですが、私はこの国のことを思って……、ディートと、離れる事になろうとも……私は……」
それから泣き崩れる白銀のユキウサギと、こちらを睨みつけながら彼女を支える勇者様。
飛んだ茶番だと、私たち3人は白い目をしていたに違いない。
かくなる上は
「王女様はとてもお綺麗でいつも安全な場所でお過ごしでしたもの。きっとおわかりにならないわ。ご結婚相手だって、国中の貴族の方が王女様をお望みですし、ディートでなくたっていいでしょうに、どうして私のディートを……!王女様には私とディートの気持ちなんてきっと分からないのです」
「……いえ、私は勇者様は聖女様と結ばれるべきだと思っています。だから、どうするべきかこうして話し合いを」
「騎士様までお連れになって、私を脅す気なのですね」
「私はジリアン様の護衛です」
「護衛……これからはディートが王女様をお守りすることになるのね……そんな、ああ」
「ミレイ、 そんなわけないだろ! 俺が護りたい女はお前だけだ」
「……ああ、そうですか」
「ディート……、でも、神託が……!神の御心には逆らえないわ」
「俺が神だろうが王だろうがどうにかしてやる」
「……ありがとう、ディート」
「そういうわけなんで、いくら王女様でもミレイに手出したら許しませんから」
「…………はい」
そう言って2人は去っていった。
何の話も出来ていない気がするが疲労感だけはココ最近で1番凄かった。
「もう結婚しちゃえばいいじゃない……」
「全くその通りです」
「災いっていいますけど、聖女と勇者が結婚したら国が豊かになる傾向がありますし、どうにか打ち消せそうじゃないです? もう無視してしまったらどうですか?」
ティリアは冷めた花茶を飲んでからそういった。
本当にその通り。
しかし、うんざりするほどに聖女様が怯え、勇者様が私を警戒するのは一体なぜなのだろうか。
私の評判ってそんなに酷いの?