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ティリアの茶会




「まあ、ジル様!! いらしてくださったのですね」


「ティリア。当然ですわ。お招きいただきどうもありがとう」


「近頃は本当に色々な事がありましたし、わたくしお話したいことがたくさんあるの!」


「私もよ。ついでに、この機会を使わせてもらって話したい人が他にもいるの」


「あら。わたくしのお茶会がジル様のお役に立てるのでしたら嬉しいわ」



栗色の巻き毛を揺らしながら黄色いドレスで走ってきたティリア・ロッツォに私はにっこり微笑んだ。

彼女は目を細めてちらりと奥にいる白銀の髪の少女と背の高い赤い髪の青年へ視線を送った。



彼女は女学院に通っていた頃の友人でレオナルド侯爵家の長子だ。

特に仲の良かった友人の一人で3年前ロッツォ伯爵家に嫁いでからも、定期的に茶会を通して交流していた。


もともとこの茶会は先日の婚約騒ぎ以前から予定されていたもので、聖女と勇者も招かれていたらしい。


ティリアは社交的で情報通、更にロッツォ伯爵家は国で一番のオーディン商会と繋がりが深い。その為、最新の情報が飛び交い流行やゴシップを手に入れるにはもってこいである。


彼女はわざと自身の茶会に広く招待状を出し、そして貴族はこぞって彼女の茶会に参加したがるのだ。


「全く、とんでもないことに巻き込まれましたのね。見てご覧なさい、アレックス・エイブリン様のあのお顔。王宮騎士が聖女に向ける表情じゃなくってよ」


ティリアは扇子で口元を隠しながら小さく笑った。

アレックスは今日、私の護衛騎士として無理やりついてきた。

通常ならば私の護衛騎士であるリオラにお願いするところだが、いつの間にか彼はその役目を奪ったらしい。少し前にリオラが「私が頼りないと思われているようで不愉快です!」と怒っていた。


「でも、アレックス様のお気持ちも分かりますわ。見てくださいジル様、仮にもこの国の王女を侮辱するにも程がありますわね」


「仲がよろしくてなによりだわ」


視線の先には、相変わらず肩を震わせてハンカチを顔に当てる痛ましげな聖女にぴったり寄り添う勇者がいた。


正直、この光景を見すぎて何も思わなくなっているし、それどころか呆れてすらいる。


悲壮感を過分に振りまきすぎというか、アピールが過ぎると言うか、そんな風なら茶会は欠席すれば良かったのでは? と思う。

いや、むしろ、情報が飛び交い情報の発信源となりがちなティリアの茶会だからこそ、わざとああしているのだろうか。

だとしたらなかなか良い性格をしているが、聖女は純粋で心優しく素晴らしい人格者だと評判である。

華奢な肩と儚げな雰囲気の通りの人物なのだろう。


「ええ、まあ。片方があなたの婚約者でなければ」


「婚約者でなくて結構よ」



呆れたように笑うティリアに頷いて、出かけたため息を飲み込んだ。


あの可哀想で儚げな彼女と、身長もありどちらかと言うと冷たい印象の顔つきの私を比べたらどう見たって私が悪者だろう。


ここのところ彼女は見かける度に悲痛そうにしているし、その隣にはいつも守るように勇者がいる。


あの婚約者騒動さえなければ美しい恋の物語のひとつだろうが如何せん、彼は一応私の婚約者であるはずだ。

できれば違って欲しいけど。


すでに、貴族平民問わず、多くが彼女と勇者に同情的で何故か私を敵視しているというのに、今日の出来事がそれに拍車をかけることは間違いない。


「私だって心から祝福してあげる所存よ。彼らが結婚してくれるのならね」


「神託だというくせに、もうこの状況が神を裏切ってそうですよね」


ティリアの言葉に少し離れた所にいるアレックスが視線で同意している。



「本当にそう思うわ。気が進まないけれど、あの二人のところに行かなくてはね。」


「私もお供しますわ」


ワクワクといった表情のティリアと、眼光が普段の倍は鋭い不穏なアレックスを連れて行くのはとても気が重いけれど。








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