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「分かるわ、分かりますとも、お気持ちは! だからといって、あの態度!!」


侍女たちが丹精込めて設えてくれたであろうふかふかのベッドで四つん這いになり、厚みのあるクッションをぼふぼふと殴りつける様は、本来ならば誰にも見られてはいけない。

なぜなら私はこの国の王女であり、ついさっき勇者の婚約者になったのだから。


「ええ、まったくです、信じられませんわ! ジル様に対してあの目! 見まして? わたくし怒りのあまり未だに震えが止まりませんの!」


ほら! と私の付けていたアクセサリー類をさっさとしまい、ぶるぶると震える両手を突き出したカーリーに私は苦笑を返した。


「……カーリーがそこまで怒ってくれたらなんだか、気が晴れたわ」


「怒りますとも! 突然朝に呼び出されたかと思ったらいきなり婚約者だのとのたまいて大急ぎで準備をさせた挙句、どうしてジル様があのような目を向けられなければなりませんの? あれでは、まるで……!」



カーリーは感極まったように言葉を詰まらせて、それからぐっと唇をかみ締めた。


今朝方、血相を変えた父に呼び出され告げられたのは神託によって私が勇者と結婚をしなければならないという事。


我が国は政治と教会が切り離されてはいるがロエリーア神の神託とあっては無視はできない。

それに神託を受けたのは役15年ぶりに現れた聖女でしかも、勇者と共に国を救ったばかりの超人気者だ。

教会としても国王ですらも今や彼女が言うことを無視するなんてありえない。


神託は神の意志であり、国の指針を決める道筋である。

国の繁栄のため、民の活力のためたまにある神託はとてもありがたく、めでたいことであるはずなのだ。



ーーーーそれが国民に大人気の国を救った勇者と聖女のビッグカップルを引き裂くものでなければ。




「はぁ……なんでこんなことに」



彼らは旅が終わると結婚する予定だったらしい。国中がそれを期待して喜んでいたというのに。


朝告げられたのは、神託によれば私と勇者が結婚しなければ大いなる災いが起きるらしい。

もうこの国中に流れる悲惨な空気が十分災いなのではと思うけど。


愛する勇者との仲を神託によって引き裂かれ、そしてそれを自分で告げなければならなかった聖女。

愛する聖女がいながら私と婚約せざるを得なかった勇者。


誰がどう見ても彼らは被害者で、そして何故だか私を責めるような視線が多かった。


「どうしてジル様が責められるのですか!」


悔しそうに叫んだカーリーのセリフには心から同意である。

なぜか私が勇者を奪った悪女のような目を向けられた。

本当に意味がわからない。勇者のあのゴミを見るような瞳も、民衆の責めるような視線も。

それから被害者だと全身で主張する聖女の姿も。



私が一体何をしたというのか。


気持ちはわかるが、なにか釈然としない。

もう一度クッションに顔を埋めたところで扉をノックする音がして、私とカーリーは顔を見合せた。


控えめでとても規則正しいノック音。

いつもの時間ぴったりに現れるのは彼しかいない。




「どうぞ」


ベッドから降りて手ぐしで髪を整え、カーリーが扉を開ける。




「ジリアン様……」


「アレックス……」



どうして私だけが悪者のように扱われるのか。




私だって王女であり、歳ももう19歳になる。

婚約者だってもちろんいたのに………。







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