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ディート





「あの、今メリフェと仰いました?」


「言ったよ。メリフェ。俺メリフェ出身なんだー。最近までメリフェの新聞支社で配達員してたんだけど、もーきな臭いのなんのって。魔物なんかうようよいるし、魔障の影響すげーし、勇者がドゥロティエの谷の穴を塞いでくれたってのにさ、意味わかんねーよもう。王女がなに? なんかしたとか、聖女をいじめたとか? 知らんけどさあ。勘弁して欲しいよまったく。一時はドゥロティエの谷観光ツアーなんてのもあって盛り上がりかけたのにさ、もうダメ。みんないなくなってんよ。東の方はほんとひどい………って」



王女は滅多に話さない。

偉いやつってのは大体、めちゃくちゃ上から目線で話してくるやつか、平民なんかと話したら平民がうつると思ってるらしく全然話さないか、だ。


王女は完全に後者だった。


婚約うんぬんの話し合いの時も、式の間もそのあとも、それから旅に出る前も出てからも、ほとんど話さない。


あんなに民衆に詰られて、石投げられても目を伏せたまま何にも言わないし、怒らないし逃げすらしない。

正直バカとしか思えない。

だから舐められて調子に乗られてどんどん悪化すんのに、馬鹿すぎて腹が立つレベルだ。


これがもしミレイだったら、涙を零し震える声で状況を上手く好転させる。あいつはああいう周りを取り込むことに関しちゃあ天才だからな。



それなのに、王女ときたらいつもツンとすました顔でこちらをじっと見ているか、瞳を伏せているかだ。本当めんどくさい。

たまに1人でなんか言っていることもあるが、聞き返しても無駄だし、何よりそんなに興味が無い。


良く、こんな気ぐらいの高いお姫様が俺との婚約なんか了承したなと思うし、ましてや俺と2人きりの旅になんか出る気になったなと思ったが、噂によると、典型的な貴族で性格も悪いしお高く止まりすぎて貰い手が居ないらしい。

まあ俺も勇者として名は上がった上に爵位まで得たもんだからしぶしぶ納得したんだろうな。


こっちとしては好都合で全くよろしい限りだけど。



「……え、何こいつ」


フリックは今気づきました、とばかりに王女を下から上に見てそれから俺を見た。



「あーー、えっと」


しまった。呼ぶことないもんだから名前決めてないんだった。弟子って設定作ったのはいいけどなんにも決めてないわ。あとこいつの名前なんだっけ。


「リアムです」


「あー、はあ、リアム、さん。どうも。珍しいなお前がミレイとルークとオリバー以外の人間といるの。……あれ、そういえば、ディートってちょっと前になんか……」


リアム、もとい王女は面を付けていてもわかる多分あのすました顔でじっとこっちを見てるんだろう。

俺の事平民だ学がないだなんてバカにして。

まあ、名前咄嗟に言ってくれたのは助かったけど、なんでリアムなんだ? ホントの名前ってそんな感じだったっけ、全然分からん。


「おい、おい!! ディート!! おまえ、まさか!」


うーん、と王女の名前を考えていたらいつの間にか血相を変えたフリックに肩を揺さぶられていた。

どうしたどうした、と目を丸くする俺にフリックは顔色悪く小声で叫ぶとい〜っと歯ぎしりをして、それから笑顔を作った。



「あのー! その、リ、リアムさん? その、俺とディートってば昔馴染みでその、ちょっと積もる話もあるのであの、ちょっと2人っきりで話してきますねー! 」



フリックの冷や汗が半端じゃない。


リアムは面をつけてるからどう思ったのか謎だが、とにかくフリックは有無を言わさず俺を飲み屋の外に引きずり出した。



「おいーー!! お前、あれ、絶対王女だろーー!!!」


「え、なんで分かったんだ」


「舐めんな! 俺一応新聞社勤務な! そりゃ田舎に行けば行くほど王都でのあれやこれなんか誰も気にしねえし、王女がどんなやつかなんて風の噂でしかしらねえよ? でもさすがに俺新聞社勤務だから! お前確かちょっと前に王女と旅に出るとかなんとかいって王都の方じゃ騒がれてたって聞いたぞ! お前がミレイ以下二名以外と旅なんてするわきゃねーし、どう見ても貴族かなんかの服装だし話し方お上品だし!」


「あーなるほど」


「なるほどじゃねえの! 何? あの不細工な面!! 王女あの裏でくっそ怒ってただろ、絶対! なんか王女の悪口言った気がするし、ひぃ、俺殺される……、すみませんすみません悪気はなくって殺すならディートにしてください」


「俺の弟子、女と旅してるってなんか面倒くさそうだから、どっかの貴族の三男坊15歳くらい。名前はリアム」


「な、なにそれ、」


「あいつの設定。今考えた」


「不敬罪すぎる! もうお前絶対絞首刑!」


「大丈夫だろ。あいつ人間の心まじねーよ。石投げられて顔切っても無表情だったから」


「ひ、ひぃ!! なにそれ! 逆に怖いだろ」


「多分なんも考えてねーって」


「つかなんであんな面かぶせてんのよ! 失礼だろ! 絞首刑だろ!」


「だって顔だしてたら行くとこ行くとこで、文句言われて物投げられんだぜ? めんどくせーったらありゃしない。しかも何もしねえの。意味わからん」


「えー……、や、やば。大丈夫? それさ、顔覚えてて寝てる間に消されたりしてない? だって王女っつったらさあ。生粋の平民嫌いで超ワガママで贅沢三昧で三度の飯より男あそびが好きなんだろ? やばいよ。絶対報復されてるって」


「うーーーん、」



確かに王女の顔はなんていうかこう、キラキラしすぎて近寄り難いし、お綺麗な分表情が変わらないとなんか威圧感を感じる。

ツンとすましてる印象があるから劣等感を抱きやすいし何も話さないから馬鹿にされてる感もある。

まあでも少なくとも、俺が適当に選ぶ汚ったない飯屋の飯に文句言ったり、散財したり、寝床にケチつけたり、夜に男を連れ込んだりはしてないな。今の所。



フリックは未だにオロオロしながら何かをブツブツ言っていたが、しばらくして「もう帰るわ……」とトボトボ夜の闇に消えていこうとした。



「あ!! ちょっと待って」


「……なんだよ。俺は今日の記憶を消すんだ……お前となんか会ってないお前となんか会ってない……」


「王女の名前って何か知ってる?」



フリックは目をこれでもかというほど見開いて石のように固まり、それからポツリと呟いて今度こそ夜の闇に消えていった。












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