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お喋りオークの聖剣探索  作者: 彌七猫
第一章 オークのオルクス
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4/西の聖剣

予約投稿が出来てなかったです。

 木々の隙間から覗く太陽が頭の真上に来る頃、俺は最後の釘を打ち終わった。

 森の気温は涼しげなものだが、汗腺が死んでいるオークの身体は熱が籠もりやすくて、日中作業すると暑くて仕方がない。


 いまはとにかく一刻も早く水浴びをしたい。

 工具を纏めて家の中に入る。


「あれ、あの獣人は?」


 ソファに座ってお茶をしていたエルドラが、視線だけを寝室に向ける。まさかと思いながら中を覗くと、俺のベッドの上で大の字に寝転がっていた。

 思わず声を荒げる。


「遠慮ってもんを知らねえな、お前は!」


 突然の大声に驚いたらしく、ルゥフェンが跳び起きた勢いでそのまま天井に張り付いた。

 いや、そうはならんやろ。


 目ん玉ひん剥いてキョロキョロと周囲を警戒している。そうして真下、逆さまになっている奴からしたら真上、に俺がいることに気がついた。


「おい豚、いま何か爆発しなかったか」

「お前の頭だろ」


 んだと! と叫んでベッドの上に落ちてくる。


「俺はこれから水浴びに行く。もう壁も直したから、お前も帰るなら帰れ」

「げえ。豚のくせに水浴びとか、綺麗好きかよ」

「なめんな、豚は元来綺麗好きなんだよ」


 オークの臭いは嗅げたもんじゃないがな。

 群れで生活しているときはさすがに慣れていたが、いまもう一度嗅いだら我慢できる気はしない。


「正直、お前の獣臭さのほうがキツいぜ。あーあ、退いてくれ。シーツに臭いが移る」

「馬鹿言え。一週間前に水浴びしたばっかりだぞ」

「阿呆抜かせ。俺らみたいのは毎日洗ったって臭ぇんだよ」


 ルゥフェンは自分の身体に鼻を向けて臭いを嗅ぎはじめた。

 そんなのはお構いなしに、尻に敷いたシーツを引っ張り上げる。ルゥフェンはずてっ、と後ろに転がった。


「長居したってお前の寝床はないからな。適当なところで帰れよ」


 大体コイツ、壁の修理も手伝わないのになんでここにいるんだ。誰も引き留めてないんだから、やることないなら帰ればいいのに。

 数時間前に殺し合いをした相手の寝床で大いびきをかくなんて、どんな神経の図太さしてやがるんだ。

 転んだ拍子に頭を打っていたが、もちろんまったく気にしていないルゥフェンが、ぴょんとベッドから飛び降りる。


「おい。あいつ、何者だよ」


 ビシッと指で示した先にいるのは、ソファでお茶を飲む黄金の髪の人。


「言っただろ、エルドラド。たまに遊びにくる歴史学者だよ」

「なんで剣なんて背負ってるんだ。戦えねえくせに」


 おいおい、決めつけんなよ。たしかに見た目は戦えそうにない優男に見えるが、お前だってちんちくりん過ぎて人の事言えないぞ。


「あれは護身用の張りぼてだ。冒険者から奪……捨ててったもんで、俺が持っててもしょうがないから譲ったんだ」


 ルゥフェンがジッとエルドラを見る。


「張りぼてか。だろうな。あんな剣あったって、まるで意味がねえじゃねえか」


 チッと不満そうに舌打ちする。

 この短い間のやり取りから察するに、俺に負けた鬱憤を次の戦闘で晴らしたいのだろう。せっかく剣を持った奴が現れたのに、まともに戦えそうにないとわかって落胆しているようだ。


「オルクス」


 平坦で静か、だがよく響く声。

 いままで口を開かなかったエルドラが、ここにきてようやく声を出した。

 もともと無口な人間だが、今日は知らない奴がいて遠慮してるのだろうか。


「それは、いったいなんだ」


 それとはたぶん、ルゥフェンの事だろう。

 おいおいエルドラさんよ。あんたはまだ知らないかもしれないが、こいつの怒りまでの導火線は極端に短いんだ。そんな火薬の詰まったジャブは打たないでくれ。


「それじゃねえ。オレはルゥフェン・シーだ。憶えとけ、金髪」


 あれ、お前そんな大人しい返答もできるのか。

 俺の時とはえらい違いだ。たしかにエルドラのほうが俺よりちょっとばかしイケメンだが、そんなに対応変えられると傷つくぜ。

 するとエルドラは、ほう、と感心したように眉を動かした。


「シーか。珍しいな。両親は健在か?」

「殺した」

「ほう、それで?」

「喰った」

「ああ、そうだろうな。そうでなくても、碌な死に方はしまい」

「なにいまの物騒な会話、キツいんだけど」


 オルクスのピュアなハートが辛いんだけど。

 エルドラのわかったような物言いが気に入らなかったのか、ルゥフェンはケッと吐き捨ててそっぽを向いた。


「オルクス、戻ってきたら話をしよう。お前の探している物、大まかな所在が掴めた」

「お、仕事が早いねぇ、エルドラさんは」


 エルドラにはこの一ヶ月ほど、あるモノの調査を依頼していた。存在自体は有名ではあるが、それがどんなモノなのか、どこにあるモノなのか、国や地域によって異なる。

 そもそも実際にあるのかすら、この世界のほとんどが確信していない。だがエルドラは、この一ヶ月足らずで見事その痕跡を探し出したという。


「さすがに探すのは大変だったろ、アレを探すのは」

「アレの伝承自体は各地に散らばっている。集めていけば共通点があり、それを辿れば原典を探れる。探すのはそう手間ではなかった」

「まあアレだしな。そういうのには事欠かないか」


 ルゥフェンが「おい豚!」とグワッと口を開く。


「アレとかソレとかいい加減にしろ。オレがいるのを忘れるな。オレもここにいるんだからオレにもわかるように話せ。オレに言えないならオレがいなくなってから話せ。気になって寝れなくなったらどうしてくれる」


 なにその感じ、怖っ。

 まあたしかにちょっと失礼だったか。相手がいかにガキんちょの獣人で、最悪に口が悪くて暴力的でも……。

 いや許される気がしてきた。


「オルクスは聖剣を探している」


 答えたのはエルドラだった。


「大陸の遙か西にあるという幻の島。オルクス、聖剣はそこにあるぞ」


ルゥフェンの声は幼い中で強くドスの利いた感じ。

エルドラさんはブレス多めの落ち着いた感じの声で。

と、オルクスは思った。


次回『幻の島モラフェトピア』

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