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お喋りオークの聖剣探索  作者: 彌七猫
第一章 オークのオルクス
11/37

11/A級討伐対象

 俺は悩んでいた。

 多かれ少なかれ思惑はあっても、俺は見事冒険者になることができた。オークなのに。冒険者に討伐される側なのに。


 まあフルプレートメイルで全身覆い隠して、オークである証拠なんて微塵も見えなくなってしまったが。

 周りに受け入れられるなんてはじめから思ってはいなかったが、やっぱりという気持ち半分、これからどうしていこうかという悩み半分。


 だってこんなのいつかバレるし。貫き通せる自信ないし。

 そしていつかバレるのであれば、バレた時のことを考えるべきだろう。

 AランクならAランクらしく、それなりのモンスターを討伐しまくって、戦果を上げれば問題ない。はず!


「というわけでこれを」

「え、いきなりAランクモンスターの討伐クエストですか?」


 窓口のお姉さんが驚いている。俺はドズの爺さんに渡されたプレートを取り出して見せた。何が書いてあるかわからないが、たぶん冒険者ランクも書かれているんだろう。


「い、いきなりのAランク。ギルド長の言ってたこと、本当だったのね」


 言ってたことというのはおそらく、Aランクに課せられたスカウト活動のことだろうな。

 ひええ、と言いながらお姉さんは奥に引っ込んでいく。しばらくして戻ってくると、依頼書には赤い判子が押されていた。


「ではオルクスさん、お気をつけて。健闘を祈っていますね」

「……」

「? どうしました?」


 急に固まってしまった俺はただの鎧の飾り物に見えただろうか。

 咳払いをひとつして、指を一本立てる。


「もう一度、言ってくれないか?」

「え、あ、お気をつけて。健闘を、祈ってますね」

「名前も」

「お、オルクスさん」

「ありがとう、お嬢さん。このクエスト、必ず成功させてみせるよ」

「が、がんばってください」


 なんだこの感情。長らく忘れていた懐かしいこの感じ。

 これが癒やしか。癒やしなのか!





     ▽





 いまさらだが俺は文字が読めない。AだかBだかのランクくらいはわかるから、正確には読めないこともないのだが、ギルドから発行されるあれやこれやに書かれた文字は難しすぎてちんぷんかんぷん。

 今回の依頼も、内容はてんでわからないが、たぶんこの書いてあるイラストのモンスターを倒せばいいんだろう、程度しか理解していなかった。


 地球でいうところの熊みたいなモンスターで、後から知ることになったが、アーミィベアという名前らしい。

 ハリネズミと配合した熊みたいな巨大モンスターなら森でも倒したことあるし、問題ないだろうと簡単に考えた。

 それがまずかったと、今はただ冷静に思う。モンスターの討伐依頼なんて基本命がけだし、自分が何を討伐しようとしてるのかなんて、知っておいて当たり前のことだろう。


 そう、俺は油断していたのだ。


「うおお、誰か助けてくれえ!」


 モンスターの住処だという山の中腹あたりで、俺の悲鳴が響き渡った。山を降りようと全力疾走する俺の後ろには、討伐対象のアーミィベアがいる。

 その数ざっと、百体以上。

 しかも一体一体が大型犬くらい大きい。


 「くそ、埒が明かねえ!」


 逃げても逃げても追い縋ってくるベアたち。しかもじわじわと周りからも追い詰められていっているらしく、木や草の影からもちらちら様子を伺ってきてる。


「これ合ってるかのか! Aランクのクエストってこれで合ってるのか! それとも俺のランクがやっぱり間違えてないか!」


 そうして気づけば崖に追いやられていた。そこは大地の裂け目で、落ちたらたぶん一巻の終わり。

 だがここで止まれば、百を超えるちっさい小熊に集られて、俺の身体は貪り食われる。一か八か反撃するにしても、こいつらの総数が見えないのはキツイ。

 まずは逃げたい。逃げて体勢を立て直したい。そのためにはもう、道は一つしかなかった。


「跳べねえ豚は、ただの豚かぁ!」


 対岸を見据え、全パワーを蹴り足に集中させた。

 真っ暗な奈落を見下ろしながら、俺の身体は宙を駆ける。

 きっと絵がシュールすぎるが、俺はマジだ。


「どっせい! 飛び越えた!」


 地面を陥没させながら、俺の両足は無事に対岸の土を粉砕した。

 人間と同じように汗腺が生きてれば冷や汗脂汗ダラダラだろうが、俺オークだし! 跳べるんだし!


「よし、これで一先ず安全だろ! 早いとこ対策をお゛ぉ!」

 振り返ろうとした直前、鎧で守られていないケツに激痛が走る。まさかと思いながら確認すると、いつの間にかこっち側に渡ってきたベアにガブリといかれていた。


「てめえ、どうやって――ええええ!」


 崖を見ると、ベアたちが何体か連結して橋を作り、その上を後続のベアたちが渡っていた。おいおいドシドシ渡ってきてる! そんなのありか!


「え、Aランクモンスター、ふさけすぎたろ!」


 自分のことを棚に上げながら、俺は今日心に決めた。




 絶対に読み書きできるようになる、と。

迫り来るAランクモンスターの脅威。

同じくA級討伐対象であり、Aランクの冒険者となったオルクスに勝ち目はあるのか。


次回『アーミィベア』

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