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お喋りオークの聖剣探索  作者: 彌七猫
第一章 オークのオルクス
1/37

1/オークのオルクス

よろしくおねがいします。

 キュートな鼻。

 黄金に輝く鬣。

 力強い蹄と牙。

 大きく突き出した腹。

 そして、つぶらな瞳。

 それが俺、オークのオルクス。


 この頃近くの街じゃ、森にモンスターが出ると話題になっているらしいが、失礼な話だと思わないか。

 こっちは人間たちや他のモンスターを刺激しないよう、慎重に慎重を重ねて生活しているというのに。勝手にやってきた冒険者が勝手に襲いかかってきて、返り討ちに遭った奴らが勝手に被害者面してるのだ。


 おかげで俺の討伐依頼が出ているらしく、最近輪を掛けて冒険者が襲いかかってくる。

 迷惑な話だ。

 こっちはただ静かに暮らしたいってのに。


「そうは思わねえか、相棒」


 ひいぃぃ、と足下で悲鳴が上がる。

 まだ隠れてるのが何人かいるが、足が竦んでんのか腰を抜かしたのか、まるで姿を現す気配がない。逃げ出したのも一人二人いたか。

 棍棒を担ぎ直す。


「ところでいい茶葉が入ったんだが、茶でもシバいてくか、人間ども」


 一応いつもの決まり文句で誘ってみる。

 そしていつものように青ざめた顔で、いままでと同じ悲鳴を上げる。


「うわぁあっ、オークが喋ったあああ!」


 てめえの武器へし折られるより、オークが喋るほうがよっぽど恐怖らしい。足下で倒れていた冒険者たちは、ケツを蹴り上げられたかのように跳び上がった。蜘蛛の子を散らすように逃げていくそいつらの背中を見ながら、なんだか物寂しい気持ちになる。


「オークが喋っちゃ悪ぃかよ、ったく」


 落ち込むぜ。森に棲む俺は毎日一人っきりだし、ちったぁお喋りくらい楽しみたい時もある。

 別にとって食いやしない。勝手に来て襲いかかってくるんだから、話し相手くらいなってくれてもいいだろうに。


 ……はあ。

 帰って寝よ。


     ▽


 俺が神と出会ったのは、三十歳を過ぎた頃。人間として漫然と過ごしていたとこに、突如としてやってきた死がきっかけだった。


 ――お前は星から弾き出された。星雲へ落ちるその魂、私が正しい命数律へ導こう。


 そうして生まれ変わった姿は、まさかのオーク。

 ……いやぁ、人間驚きすぎると声が出ないのね。もう人間じゃないけど。

 それからかれこれ五十年。人間で言うとおじさんだし、転生前から数えればお爺ちゃんな俺だが、そこをいくとオークの肉体は成長が遅い。


 人間なら五十歳でも、いまの肉体年齢は十六~十八歳程度。

 まだまだ若くてピチピチだ。皮膚は岩みたいだけど。


 そうそう、あの人間どもが言っていたが、オークは基本喋らない。知能が低く、粗暴で乱暴、当然言葉を理解する能なんてない。


 だが俺は喋れる。前世が人間だから、なんて理由にはならないが、いくらかは関係しているだろう。たぶん脳みその作り自体が普通のオークと違うのだ。


 そもそも俺に脳みそはあるのか。

 モンスターに脳みそはあるのか。

 頭を開ける勇気はないから、そんな疑問は忘れてしまおう。


 ――おっと、誰か来たようだ。


     ▽

 

 自慢の木造一軒家の壁が弾け飛ぶ爆音で、俺の意識は覚醒した。

 反射的に枕元の棍棒を掴み、殺意を感じた方向へ振り上げる。決して軽くない衝撃が左腕を襲った。


「チッ、起きてやがったか」


 乱暴な声は甲高い。

 女か、またはガキ。もしくは両方。苦手な類いだ。

 暗い室内を俊敏に移動する小さな影が見えた。俺が起きたからか、そいつは追撃をして来たりせず、さっさと壊した壁の穴から出て行った。


「おいそりゃあねえだろ。せっかく遊びに来たんだ、茶の一杯くらい飲んでけ」


 手作りのベッドを軋ませながら立ち上がる。

 夜襲なんて慣れたもんだが、このレベルの攻撃を受けたのは久方ぶりだ。攻撃を受けた手に僅かな痺れを感じていた。


「遠慮するぜ、豚野郎! オレはてめえの首をもらいに来た」


 壁の穴をくぐり抜けると、気を切り開いて整えた庭が広がっている。そのど真ん中にそいつはいた。

 やはり子ども。男か女かは正直わからん。匂いも獣臭くて堪ったもんじゃない。

 人にはないつり上がった耳と、腰から弧を描く尻尾。まさか人間ではないとはな、想像してなかった。


 こいつは獣人。肉食獣じみた獰猛な目を炯々と輝かせて、身の丈をゆうに越える長槍を、やる気満々で構えていた。

 俺は棍棒を担いで言った。


「どうでもいいがこんなでっけえ穴開けてくれやがって、すぐに伸してやるから直すの手伝えよ」


 そいつは鋭い犬歯を覗かせて嗤った。

突如現れた謎の獣人。

オルクスは見事、お茶に誘う事はできるのか!


次回『獣人戦士ルゥフェン・シー』

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