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82.

 ハーツさんによる着せ替え遊びは二着三着では済まず、あれよこれよと服を着せたところから脱がされるアルカさんはかなりうんざりした顔をしていました。このモードに入ったハーツさんの押しの強さはあのソニスさんにも匹敵し得ると感じさせられます。となればソニスさんとハーツさんがお洋服屋さんに入るとどうなるのでしょう。あのソニスさんがたじたじになりながらハーツさんに着替えさせられる様子は想像がつかないだけに見てみたい気もします。いや、二人で盛り上がるだけに思いました。

 時間をかけて試着した数多のきらきらひらひらな服は結局、ウォーレンさんからの冷静な提言のもと買うことはなく、アルカさんとわたしの分の新しい着替えと靴だけ入手しました。まあ当然です。むしろウォーレンさんだって予想の着いたオチでしょうにハーツさんのことを止めてくださればよかったのに。アルカさんの犠牲ももう少し軽くなったことでしょう。

「そうだよ!まったくひどい目にあった……」

「申し訳ない」

 ウォーレンさんは謝罪の一言の次に、

「ベリルマリンでの生活を通して、こうやって戯れるように君たちと過ごす時間を作る方が良いものと考えていた」

と述べました。ウォーレンさんなりの気遣いだったらしいです。わたしは今更ながらこの発言を意外に感じてしまいました。普段のウォーレンさんの口から出ない言葉でも無く、その理由をたどるうち、思えば、最初にアムシースで出会ったときからウォーレンさんも大きく変わったものだと感じました。やっぱりわたしが誘拐されてからの一件で考えが少し変わったのかと思いますが、それでも徐々に徐々に、ハーツさんやアルカさんの影響を受けて何というか……丸くなった、ということでしょう。以前のウォーレンさんは、切羽詰まったようにわたしのことを優先してくださっていて、そんなウォーレンさんももちろん王子様の様でしたが、今のウォーレンさんは心に少しゆとりを持っていて、余裕のある大人という感じです。どちらのウォーレンさんもとってもかっこ良い、というのは言うまでもなく。





 荷物を整えて明朝の日の高いうち、わたしたちの旅は再開されました。荷馬車や船、時にはドラゴンの背に乗っての移動で駒を進めてきたというのもあって、等身大に歩くというのはむしろ新鮮な行いです。ウォーレンさんから、

「足が疲れたら遠慮なく言いなさい」

とは言われていますが、こうして手を繋いで両の足をあげて歩くのも気分が良いです。古い靴は大事に大事にしてきましたが、底もややすり減り、キズや汚れも多くなっています。けれど買ってもらった新しい方の靴を履く気にどうしてもなれません。せめてこの旅が終わるまで、できれば旅が終わった後も一緒にいてほしいです。

 日暮れを見てテントを張ってそこで眠り、日が昇って辺りが明るくなったらまた歩みを進める。途中、木陰や平らかな草原で休憩をとり、そこで携帯食をいただきます。歩きながらアルカさんからまたいろんな魔法のお話を聞かせてもらったり、やっぱりウォーレンさんにだっこしてもらったり。眠るときは相も変わらずウォーレンさんが外で夜哨を続けていましたが偶には一緒に眠ってほしいと伝えた夜は、狭いテントの中でウォーレンさんが眠るわたしの隣に座ってくださりました。荷馬車を走らせるよりも明らかに遅くゆったりとしたペースで進むものですが、意識すれば草の香りや土のにおいも素敵なものです。通り過ぎた村もわたし達には今後関係することがないにしろ、いろんな人が生活しているのでしょう。その家の数が物語っています。そうして静閑な村景色を見ていたら、いつか訪ねたあの灰に焼けた村のことも思い出しました。あの少年は、今、何をしているのでしょう。




 旅の天気は移ろいやすいのか、不安定な空が続いて、テントの中や見つけた空洞の中でやり過ごすことが増えました。もちろん止まない雨風はなく、その隙間を縫い通すように歩みを進めてはいたのですが、

「あ、こっちこっちー!」

 別な村の石畳の広場で、わたし達三人は待ち人のウォーレンさんに手を振ります。

「済まない、待たせた」

「どうだった?」

「やはり先日の雨で増水しているらしい」

「予想通りってことね……今日は歩きやすい天気だってのに」

 港町を出発してからひと月が経過し、プラトナ、という名の川の近くまで来ました。プラトナはこの地域一帯の名前でもあるそうで、その平野に跨る大きな川であるからこそ、同じ名を与えられているのでしょう。途中から枝の様にいくつもの川に分かれ、そのうちの何本かがわたし達とカンランの街の間に横たわっているのだと、広げた地図はそう言います。ウォーレンさん達の懸念として、川というのは雨が降る水量が増して危険になるのだとか。陸の上で桶の水をひっくり返すとどうなるか、を規模を大きく想像すれば確かに、増水の危険性は直感的に明らかでしょう。わたしも夢の中で似たような経験があるだけに水の危険性は理解できます。でも昨日や一昨日くらいの雨なら全部流れ切っている頃じゃないでしょうか?それこそ、海のように大量の水があるというわけでもないと思いますが。

「それがそうでもなかったりするの。平地だし、雨の後の川はまず避けて然るべきよ」

 旅慣れしているハーツさんにそうまで釘を刺す様に言われるとわたしとしては何も返す言葉がありません。

「二日は様子を見るべきだろう。その間の食料もなるべくこの村で都合すれば少しは何とかはなるが……」

 長期滞在する余裕もそうないというのもまた事実なはずです。思わぬ足止めです。

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