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67.

 病み上がりのアルカさんに無理強いはできないものの、実際の問題として魔法陣の修復作業は直ぐにでも進めなければならないお仕事です。ドラゴンフライトが可能なわたし達とは違って転移魔法無しではベリルマリンに帰って来られない人が大勢いるのです。予めそのような状況は予想できていただけに、わたしがアルカさんの不足を補うつもりで作業を進める心積もりでした。宿に戻ってすぐから、アルカさんが残していた転移魔法の扱い方メモを何度も確認し、せめて仮動作ができる程度にまで漕ぎ着ける……。魔法について少しは直感が働くようになってきたとはいえ、どう転ぶか正直分からず、イチかバチかと覚悟を決めて臨んでいたわけですが、アルカさんのメモが丁寧だったことに大きく助けられて事前に立てた予測よりもずっと円滑に事が運び、つい数刻前から帰りの方向に限って稼働しています。本稼働は相談を交えながらというところでしょうが多くの人がベリルマリンへの帰路に着いている最中です。これがすべきことの一つ。もう一つ懸案事項が残っています。

「全くの論外だ」

 黒い背広がネクタイを触ってそう言いました。

「どうも何か隠していると思えば、まさかドラゴンの子だったとは。そもそも、知っていたのならば初めから私に報告すべきなんじゃないのか?そんな危険因子を……」

 背広が宿のご主人さんを睨み付けて指を突き立てます。この横柄さに小さな抵抗をするようにわたしは頬を膨らませて睨み返しました。

 一件がすべて片付いた後にこんな短時間でどこから聞きつけたのか知りませんが、この階級上位者は颯爽と現れてクロルさんのことに関して話がある、と。もちろん街を救った英雄としてなどではなく、ただケチをつけるためです。受け入れてもらえていたとはいえ、クロルさんの扱いはあくまで『人』であり、ドラゴンとしてのクロルさんを知る住人は限られています。もちろんご主人さんも長々と隠し通せると楽観してはいなかったでしょうが、こんなに早くもバレてしまうことも想像外だったことと思います。

 クロルさんについて、市長側の意見は一つ。

「万に一つも、ドラゴンとの共存などあり得ん」

 今ハーツさんの陰にでも隠れていなければ、今すぐにでも引っ張り出してあらゆる手段でその息を止めようとするような剣幕です。

「いやだがしかし、この子の協力がなければ街は雪に閉ざされて……」

「そんな事は問題ではない!中央からは依然として根絶の勅令が出ているんだ。もし匿っているのがバレたら、時代が時代なら中央から大隊規模の兵が派遣されて街は取り潰し、私の首だって吹っ飛ぶんだぞ!」

 どうにも理由をつけて街のための様に語っていますが、どうも自分の保身が第一に考えている気がします。前はクロルさんも含めあんなに評価していたというのに、自分にとって都合が悪いとなればこうも手のひらを返すのですね。

「好意的な態度を見せているのだって、私達を油断させて襲う策略だとも考えられる。それこそ、一匹が人に化けていたというのなら、協力していたという連中だって怪しい」

「この人達もただ偶然この街に居合わせただけだ!何の関係も……」

「ないと、どうして言い切れる!むしろこの豪雪だって本当はそいつらが仕組んだことなんじゃないのか?魔法だなんだと色々できるようなら……」

 シュッ、と空気を切る音がすると、ハーツさんが小ナイフを背広に突き立てていました。

「それ以上適当吐くなら、口ごと切り落とすわよ。根拠もないのにべらべら好き勝手言って……」

「なっ、なんだ!!私に歯向かうようなら、中央が黙っていないぞ!私は名家たる……」

 以降全くわたしの興味のないことを話す背広は、ハーツさんが前に言っていた通りにムカつくやつ、で間違いありません。

 しかし、背広が喋っていることもわたし達の耳に痛いことは間違いありません。ドラゴンとは怖い生き物です。わたしが初めてクロルさんと出会った時に抱いた感情に嘘はつけません。それは、初めてクロルさんと出会った人がどのような感情を抱くか、その答えにもなっています。そして実際に、先程の戦闘の中で大通りの家一軒、壁をぶち破ってしまったことがその気持ちを増幅させる体のいい証拠にもなっています。

 人は相手の今の気持ちをそのまま目で読むように感じ取ることができません。クロルさんが街の人々を食べてしまおうだなんて考えていないことは間違いないのですが、それをいくら説明したところで理解してもらえるはずもないのです。嘘つきが世界に存在することの皺寄せとも言えます。

「とにかく!」

 背広の耳障りな声が公会堂の一室に響きます。

「その化け物はおとなしくしているうちにこっちに引き渡してもらう。加えて行旅人である四名は街からの追放処分とする。これは決定だ」

 それ以上は話をする気がない、と背広は椅子にもたれ掛かります。ふんぞり返ってどうやらわたし達を見下しているようですが、見下されるべきは自分だということに気が付いていないのでしょうか。しかし、この目の前の人間は悔しいことに発言能力だけは持ち合わせているようでご主人さんもだんまりを決めてしまいました。ハーツさんは……多分このまま何もないようなら暴力に訴える算段で睨み付けています。青ざめてブルブル震えるクロルさんはただ等身大に少年で、おそらく反論するような心の余裕もないでしょう。背にした扉からは誰かがこちらを覗いているようですが、突如現れてわたし達に助け舟を出す人ではないのでしょう。引き下がれば、わたし達は自分たちへの理不尽を受け入れたことになります。ならば当然、わたしの出番です。そのためにわたしが来たのです。ウォーレンさんには、わたしが頑張りたいと言ってアルカさんの看護を任せてきたのですから。

「……ま、マリーちゃん……」

 クロルさんの手を握って、わたしは大丈夫とささやきました。少なくともクロルさんは悪いことをしていないのです。……家を壊したのは、目を瞑るとして。悪いこともしていない、ずっと良いことをした。それなら胸を張ってふんぞり返ってもいいはずです。何もしてないのにお小言を取り付ける人達よりも。


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