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65.

 重い、重い衝撃音。散々踏み荒らされた後の雪の上にわたしたちは降り立ちました。誰もがこちらに注目したことでしょう。どころか、そもそも戦闘中におけるこの位置こそが……。

「……気絶しているらしい。だが命に別条はないだろう」

 落下地点に居た黒ローブと、黒ローブが担いでいた碧色のローブの少女が地べたに。片方はわたしたちが放っておいても良いやつで、もう片方はわたしたちの大切なアルカさんです。

「なっ、なんだこいつら!?」

「上から降ってきたのか……?」

 ローブ共はおそらく上空の巨大生物に気が付いていないのです。つまり、透明の魔法を破るすべがない……?

 ウォーレンさんはわたしを背に負ったままアルカさんの側に立ちます。度肝を抜くような登場だったことでしょうが、敵意で真っ赤な人は動揺から立ち直って判断早くこちらに眼光の切先を向けてきます。でも急なことで連携もないなら、ウォーレンさんの……わたしたちの敵ではありません。それに、視線が集まった。それは別の誰かから視線を逸らしたという意味も持ちます。瞬きひとつのうちにわたしとウォーレンさんから見て奥の二人ほどが背後から蹴り飛ばされ、大きな跳躍。味方が増えました。

「遅くなった」

「問題外よこんな奴ら。でも助かるわ」

 ハーツさんはアルカさんを担ぎ上げて、ウォーレンさんと背中合わせに立ちました。

「……そっか。クロルで?」

「そうだ」

「なるほど、ねっ!」

 駆け出すと矢のように早く、そこから繰り出される蹴りの一撃は敵を家一つ分先まで吹っ飛ばします。

「しっかり掴まっていてくれ」

 ウォーレンさんはわたしの背に手を回して優しくあやします。もちろんです、絶対離したりません。むしろわたしも、黙って重荷になっているつもりはないのです。そのために引っ着いてきたのですから。

 額の先から意識を集約し、目を閉じる。身体から無数の手が生え広がっていくかのように、インクの黒染みが水中を広がっていくように、わたしの『眼』でわたしの外を照らします。そして、ウォーレンさんもハーツさんも……さあこれで、自分の後ろまで全部『視える』はずです。

「……ああ、よく見える」

 ウォーレンさんは自身の銃を構えます。……右から来ます!わたしが反応するよりももっと早くウォーレンさんは姿勢を変えて銃身を円弧に振ります。警戒されてこの打撃は当たりませんが、威嚇は相手を躊躇させただけでも功と呼べるのです。即座、雪を踏み込んでの腹への一蹴りが決まり、悶え膝を付く彼の脳天にいとも簡単な殴打。

 当然、一連を黙って見られているはずもありません。しかし……基礎防陣(ガード)

「……くそっ!」

 打ち出された炎の塊は、わたしとウォーレンさんを前にして空気の障壁に阻まれ、爆ぜて消滅します。見えている魔法の対策なんて簡単です。向きを変え、狙撃を三発。的確に敵を無力化し、攻撃を妨害します。

 背後、大斧を掲げて飛び掛かる人。それは……。

「はぁっ!」

 ハーツさんが蹴っ飛ばしてくれます。彼女はまた踵を変えて踊るように軽やかに飛んで行き、低姿勢からの斬り付け、蹴り上げ、掴みかかって投げ飛ばし。もはや敵なしです。

 奇襲的に首を掻かれる心配もなければ、人数に押し潰されることもありません。アルカさんを抱えているはずのハーツさんは、かかる火の粉は払い、容易い身の熟しで一人、もう一人と相手します。相手しきれなさそうなローブはわたしとウォーレンさんが分担します。最終目標に気を取られているお間抜けさんも良い狙い目です。

 二人とわたしだけの抗いは想像以上に厄介に映っていることでしょう。まさか、一騎当千が二人も居たとは思わなかったはずです。しかし一方で、わたしたちも苦戦を強いられていることは間違いありません。何より、

「……流石にキリがないな」

 以前の接敵とは人の数も、そしておそらく魔法の練度というのも変わっているのでしょう。遠隔的に魔法を用いる人間も増えています。一人一人なら何とかはなるものの、一手にこの数を相手にしているというのは、むしろ互角に持ち込めていることが不思議なくらいです。手負いのものを増やしたとしても、魔法使いにそのような物量戦が有効とも思えません。状況はひっくりかえせたように見えても、何かもう一押しが必要です。

 ……っ!急に空気の流れが変わったように感じて、わたしは奥の方にいるローブに目を遣ります。大きな魔法の準備でしょう。光の束が集まって、強い力が今にも解き放たれようとしています。狙いはハーツさん……ではなく、こっちです!アルカさんのいないこっちを対処すべく動いて来たと見えます。ウォーレンさん、気をつけてください!

「……っ!」

 一瞬ですが、ウォーレンさんの動きがピタリと止まり、それが大きな隙になりました。照射された光は一直線にこちらへ。当たったら火傷どころじゃありません!基礎防陣(ガード)

「……す、済まない」

 避ける暇もありませんでした。絶えず放たれ続ける光線は不可視の障壁を前に辛うじて散逸します。しかし、長く浴びせ続けられる光線を付け焼刃でしかない防御の術で跳ねっ返し続けるにも限度があります。もう少しだけ、保って欲しいのですが……。

 防御の姿勢に入って攻撃の手が緩んだわたしとウォーレンさんへ、他のローブが一斉に攻め手を仕掛け、それらをハーツさんが弾き返し、それでもこぼれた分はウォーレンさんが何とか防ぎます。

 防御に加勢しつつも、ハーツさんはこの光の束の原因そのものを刈り取りに動くのですが……。

「……あぁ、もう!」

 当然、このローブを徹底して護るのが良いと、アムシース側は考えるものです。ウォーレンさんという駒が居ない以上、遊撃的な攻撃も決め切れず、防御の魔法で幾らでも往なされてしまいます。

 わたしもできる範囲では基礎防陣(ガード)をいろんな方へも展開して援護し、探しの魔法も絶やさず使い続けますが、だんだんと、頭の奥の方が焼き切れるようにパチパチと視界が瞬き、腕の痺れ、喉奥からは何かが込み上げてきます。口元まで何か垂れてきました。鉄の匂いと味……どうやら鼻血です。こ、これ以上は……。

「マリー……」

 眩む視界の中でも何としてでも前を向いていると、突如上空から、巨大な何かが光線の源へ飛来しました。強風が巻いて思わず目を閉じ、魔法の集中を切らせてしまいます。けれど、わたしたちが閃光に貫かれ身共に灼かれる、なんてことはありませんでした。

 わたしの心臓をも大きく揺さぶる程に大きな咆哮。地鳴りを起こして積もった白は崩れ落ち、付近の家の窓はガタガタと震えあがり、うち何枚かは独りでに割れました。淡い青。もちろん、わたしたちのドラゴンです。

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