60.
屋根の上で身を屈め、テトラさんは煙突の影から彼らの様子を監視しています。まさか、わたしの居所を突き止めてここまで来たのでしょうか。彼らとの最後は靴を買ったあの大きな街で、そこから移動があっただけに見失っていたとか?でもテトラさん達に捕獲の依頼が来た時には既に場所は突き止めていたはずで……。
「いや、貴女とは無関係。そう話してる」
そうなのですか?この距離とこの人混みでよく彼らの話し声まで的確に聞こえるものです。
「ちょっとした技術。何も私だけのものじゃない」
それでそれで、何の話をしているんですか?
「急かさないで。……技術……占有……」
テトラさんはゆっくりと言葉を拾っている様子です。
「ねぇ、あの魔法陣って、アムシースの魔法技術が使われてるの?」
何言ってるんですか!あれはアルカさんの大発明です!全くの無関係です。
「……成程……」
あの、あの、何の話をしていたのですか。独り納得はズルいです。
「曰く、転移魔法陣はアムシースの教団が私物化するものだと。技術上アムシースが秘匿すべき魔法技術が利用されており、無断で使用することは赦される事ではない。それ故に、現在の管理者についての情報を集めている様子だった」
なんですかそれは!まったくもって嘘っぱちです!わたしは頬を膨らませます。
「アムシースはあんな摘発をすることも多い。技術秘匿を目的にしてるけど、考えてみれば、その魔法がアムシースのものかどうかなんて全然分かんないから素人目には正当な主張に見える」
それで、せっかくのアルカさんの頑張りを奪い取ってやろうということですか?
「十中八九。アムシースもあの噴火で人も資金も困ってるだろうから。魔法陣を調べて失われた技術を補填したいって目的も考えられる」
まさに横暴というやつです。しかも連中はアルカさんたちのことを一方的に連れ去った挙げ句噴火の後に見捨てたのです。それを今度は自分たちの勝手な都合だけでアルカさんが作ったものを奪い取ろうなんて。今すぐにでもあの不届きローブたちの前に行って文句を言ってやりたいところです。
「ダメ」
テトラさんはわたしの頭にポンと手を置きます。
「貴女、あの連中から狙われてるんでしょ。それにこういう時は結局人数がものを言うから、今行っても無駄」
わたしの臨戦的な態度はテトラさんに窘められました。一理あるだけにわたしは引き下がります。でも、黙ってもいられません!好き勝手に人の頑張りを横取りする悪事を、ただ見ているつもりはないです。
「勿論。あの市長だし、詰め寄られると日和見でアムシースの意見に従うと思う」
テトラさんは顎に手を当てます。
「貴女、仲間は今どこ?」
アルカさんは多分今も魔法陣のところでお仕事中です。ハーツさんはベリルマリン側、ウォーレンさんはまさにわたしが探していた人です。
「なんだ、人探しってそういう事」
今回の標的にアルカさんも含まれていると言えます。早く合流してこのことを伝えなければ……。
「それもあるけど、ひとまず主様への報告と、貴女を貴女の保護者に送り届けるのも先決。なるべく人も集めて彼らへの対応を―――」
言い切られるかどうかというとき、背後から人の歩く音がしました。ここは屋根の上。通りすがりなんてありえません。
「盗み聞きとは行儀が悪いなぁ」
その言葉がなくても、当然二人で振り向いたことでしょう。
「……っ、誰っ!」
黒色のローブを羽織ったその人の所属は、もはや語るまでもありません。ただし集団では動いておらず独りです。しかし他の黒ローブとは身なりが少し異なり、腕には金鎖が巻き付いていて、首には濃紫の宝石が嵌った装飾品を掛けています。リーダー格……幹部などに該当する方でしょうか。
「名乗る必要もないだろう?君等、こっちの話をずっと聞いて……ん?」
幹部のローブはわたしの方を見ます。まずいと感じてわたしはテトラさんの背後に隠れますが、大した効果は望めません。
「……あぁー。確か、魔法陣の移動先がベリルマリンだったか。なるほど……こいつはいろんな手間が省けたな。外界の事務所も口だけで役に立たないからねぇ」
わたしを見る目線が急に変わった気がします。わたしは『獲物』なのだと再認識しました。
「後ろについてて」
テトラさんは既に構えを取っています。助けてもらえるんですか?
「言った。魔法陣の所まで送るって」
間合いはわたしが十二歩で相手の足元にたどり着くような距離感で、一瞬の気の許しが大きな一撃に繋がることでしょう。胡椒を嚙み潰したような緊張感が張り付きます。
「察するに、あんたが報告にあったそれの保護者気取りか」
「勝手にそう思えばいい」
「なるほど違うのか、残念だ。うちの連中が世話にになったようだから、礼の一つもしておかないと上司として示しがつかなくてね」
嘘どころか誤魔化しも効かなさそうです。魔法ならその辺りも簡単に看破できるということでしょうか。
「まぁ構わないか。さぁ」
幹部のローブはその腕を前につき出―――
""来い""




