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54.

 ウォーレンさんの案内のもとで、わたしたちは雪の終わりを目指して飛びました。空から見えた世界はベリルマリンに至るこれまでの旅を簡単に振り返ることになるかと思いきや、実状、白く覆い尽くされて地形や集落以外の全てが等しい景観です。それでも見上げた雲と雲間の青も、小さくなった世界も数刻のうちに簡単に切り替わっていきます。ようやくこんなにも近づけた空がある時再び灰色に覆われて、また雪がわたし達に向かって降り始め、鼻先に小指の先くらいだけ積って、溶けて、そして消えました。

「ここから更に向こうだ。大都市とは言えないが商会の屯所もあるらしい」

 翔んで翔んで、雪の中天を抜けて。するとまた、雪解けのように空の蓋が消え去り、大きな山の連なりが失っていた色を仕切り上げて、下界を途端に鮮色に染め上げました。土の色、草の色、水の色。すべてがこの目の中に映ります。今まで見えていた真白が嘘のようです。空気の冷たさはそのままですが、まさに世界が変わったという印象でした。

「あの街だ」

 感銘に浸っている間にも目的地です。雪が片付けられた先を目線で辿ると、周辺の原野の中に浮き立つようにまとまった家や建物が確認できました。小さな街……ではありません。が、出発の際に見たあの街景に比べると見劣りします。ベリルマリンの大きさを実感しました。最初にお洋服を買った街の方が相当に広く感じただけに実感が持てていませんでしたが、大都市と呼ぶには相応しい場所だったようです。

「よろしく頼む」

 ウォーレンさんのその声掛けに応じて、ドラゴンは一つ、高く呻り上げて、飛び方を一変、高度を徐々に下げていきました。山より高い場所からは見えなかったような僅かな雪の跡もちらほらと。ただの線にもなっていなかった道がくっきりと。小指の先もなかった木の一つ一つがはっきりと。そしてだんだん大きくなってゆきます。






 街のど真ん中に着陸できるはずはないので、近所の森の中にクロルさんの身を隠しました。透明化もわたし達のために一度解いています。森の視界に頼れば隠そうなんて努力も不要なはずです。再出立の時にかけなおすとして、それまでに万が一見つかった場合は……な、何とか誤魔化しましょう。空にはお日様がまだ悠長な様子で居座っていて、問題にならない程度には時間が残っています。

「私はマリーと取引を行ってくる。アルカは例の転移魔法の準備を進めて欲しい」

 ウォーレンさんから指示を受けて、アルカさんは合点と胸をたたきました。



 今回のお話だって、結局魔法の力ですべてを解決してしまえたならそれだけのこと。できると言うならば、例えば街の周りの雪をあっという間に全部溶かしてしまったり、降雪の外にある荷物を引き寄せたり、あるいは逆に……降雪の外へ人を瞬間移動させたり。それこそ『転移』という魔法技術の存在はいつぞやウォーレンさんが追い返したアムシース関係者さん達が何かの道具を使って実現していたものであり、夢物語ではないのは確かです。一番最初、わたしたちが雪の一件をお話しされたときに真っ先に考えつくべきはまさにこの魔法のことで、心当たりがあった以上は当然、提案はされました。魔法ならそれができる、そして簡単に解決……と、素人考えには思ってしまうところです。あの『転移』の時にはご一緒していませんでしたが、エキスパートもここに居る。ならば、と。しかしながら、

「僕の知る限り、テレポートは転送先の情報もないとほとんど現実的じゃないんだ。転送元と転送先、その両側に術者や結界を用意しておかないと魔法自体が安定しないし、事故が起こる可能性もずっと高いね」

 現実はそう上手くできていないわけです。それこそ何処へでも簡単に瞬間移動ができるというのなら、アルカさんたちもあの村で足止めを食らうこともなかったのでしょう。彼や彼の仲間は出来たのかもしれませんが、それでもわたし達ができないようでは意味がありません。また一つ、彼に対する不満が増えました。

 しかしながら、クロルさんの存在で状況は一変。一度でも雪の外を目指す翼を手に入れたわたしたちは、その功を何倍にも膨らませる術として魔法の力を借りることができるわけです。

「地脈と空間要素を解析するのにまずは……半日かな。それが終わったら無難に魔法陣あたりから始めてみるとして……」

「独りで問題ないか?」

「当分は解析するだけだし、クロル君と一緒に置いてってもらっても大丈……あ、いや、仮拠点になるところは欲しいかも」

「分かった。ハーツ、任せてもいいか?」

「オッケー」

 わたしは、ほらやっぱりという顔でハーツさんを見ました。ね、必要だったでしょう?

「まぁ、そうだったみたいね」





 小麦、保存肉、比較的日持ちする果物をいくつか、そして薪。なるべく優先されるのはそのあたりで、ウォーレンさんは買い付けた側から持てるだけ持って拠点の森へ運び込み、往復します。半端な量よりは街全体に行き渡らせられる量にすべきとはいえ、圧し潰されるのではという量を一手に持つものですから心配になります。わたしも手伝いたく一つを持ち上げようとしたのですが引きずることすらできません。

「無理をすることはない。君がその帳簿を使って管理してくれるからこそ、私も作業に集中しやすい」

 と言われても、ウォーレンさんから受け取った台帳の白紙に、言われた文字をそのまま書き込んでいるだけです。むしろわたしの理解らない文字に出会うたびに行程が逐一躓いているので却って非効率です。次にこんな機会に立ち会った時のためにも、もっと綺麗な字が書けるように練習しておきましょう。

 急かしに出入りし動き回るわたしとウォーレンさんの様子はこの街の人の目にもかなり物珍しく映ったようで、商売人の方々はこれ見よがしとお得意客への物腰と振る舞いでわたし達に近付いてくるようになりました。ウォーレンさんに声をかけるならまだしも、傍を引っ付いて回る私までとっつかまえて事情を訊ねたり商品自慢を行ったり。もちろんわたしの一存では決め兼ねることなのは明らかで、ウォーレンさんについても他人のお財布でお買い物をしている都合から太っ腹な姿勢は見せられません。結果として買い物の量は想定と変わらず、わたしは重い荷物を運んだわけでもなかったというのに、色々を経た後にはわたしはすっかりと疲れてしまいました。森の方までついてこられないように上手く撒くことは出来ましたが、美味しそうな物をウォーレンさんと食べ歩くちょっとした企みもあったというのにこの有様です。

「お疲れ様、マリー」

 それでも拠点に戻って労いの言葉があるだけで全然違うというものです。加えて抱っこもわたしは要請します。

「はいはい」

 お尻から身体が浮き上がって近付いた肩に体重を任せると、疲労感が一気に雪解けていくようです。

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