表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/101

48.

「つまり、このドラゴンをこっそり匿ってた人がいたってこと?」

 ハーツさんの問いには首肯が得られました。彼がこの街に行き倒れるようにたどり着いてすぐの頃、路頭に迷っていたところを優しくしてもらったと。

「お父さんとお母さんが巣に帰って来なくなって、でも自分で食べ物を見つける方法が分からなくて……人間に見つかった時に危ないからって言われてたからこの姿で巣の山の麓まで降りたんだ。それで、リンゴのたくさん入った籠を見つけてそれを食べてたら……」

「それが積まれていたのが、先程言っていた荷馬車だったわけか。よく見つからずにこの街まで行き着いてしまったものだ」

「とはいえ着いてから、怒られていろんな人に追い回されたんだけど……でも、ばぁばが僕のことを匿ってくれて、ごはんもいっぱいもらえたんだよ!羽根を伸ばして眠れる場所を用意してくれたのもばぁばだったんだよ!」

 ドラゴン少年はかなり気を許して一つを聞けば饒舌に三、四と付け足します。開いた口から、名残なのか変身が甘いのか鋭い歯と長そうな舌が見えます。『ばぁば』が目的の人物でしょう。今向かっているのはその『ばぁば』さんがこのドラゴン少年に案内した空き家とのことです。

「でも、あれを見ただけでばぁばの居る場所が分かるの?」

「使用しておらずとも家は家だ。所有者さえ掴めば現住所を辿ることはそう難しくない。大きい街だが多少骨が折れる程度で済む」

 ドラゴンは口元でウォーレンさんの台詞を反芻し、住んでるところ、お家、と呟いた後、やっぱり首をひねりました。人間ほど畏まって生きていない生き物は、一生を無縁に過ごすはずだった言葉たちなのでしょう。それこそ、ずっと気になっていたのですが、

「へっ?なまえ……?」

 おそらく名を持たないのだろう、という推測は簡単にできるだけに訊くだけ無駄だと割り切っていましたが、どうしても呼び方には困ります。

「『ばぁば』さんは君のこと、なんて呼んでいたの?」

「あっ、そのこと!えーと、ボウヤだよ!」

 多分それじゃないです。

「ち、違うの……?」

 名を名乗る必要のない身分というのは、思った以上に便利なのかもしれません。わたしなどは、出自の異質さに反して名前を持たなければ自分が何者かを説明することは難しいです。一方この少年は、わざわざ口に出すまでもなく、その巨体の威圧感だけで名前と同等の価値が出ます。

「自ら決めてもいい。名を持たないならばそれも許される。必要ならば誰かに決めてもらってもいいし、勿論無理に名乗らないのも選択のうちだ」

 ちなみにわたしのこの素敵な名前は、なんとこの素敵なウォーレンさんに素敵に頂戴致しました。

「じゃ、じゃあ……うーん……」

 ドラゴン少年は手をモソモソさせながら、瞬きを何度か行い、最後にドラゴン少年ではなくなりました。

「クロル……とか?巣のあった山を、麓の人間が確かそう呼んでた気がして」






 クロルさんが案内した家は家ではなく倉庫であり、思えばわたしの背丈二つ分を超える高さの天井をもつ空間などそうそうないことを思い出します。身近な建築としての食事処が、その大部分が都合二階まで吹き抜けなので実感がありませんでした。この一棟だけではなく、通りに出る道までは幾つか連なっており、中央街から少し外れたとはいえ人の住む気配のある家が多い中、ここはむしろ日向に出来た暗所に近く盲点になっているのかもしれません。ひとまずわたしの最初の人読みは正しく、クロルさんの言ったものは住所ではなく間借りした寝床の場所だったわけです。口頭では気が付きにくかったのですが、実際に現地に来てみれば倉庫群は住所としてあまり適切でもありません。

 以前わたしが悪役に捕縛されたのもざっとこんな場所だったことを思い出し、懐かしい気持ちを抱いていると、指示及び手順がもう行き届いているようで、大扉を開けて中に入り、からっぽの倉庫内の中央で彼はドラゴンに戻るつもりでした。遠目に見守ると変身は簡単に終わり、翼を折りたたんで首を下げた状態です。これがすっぽりと収まっていました。手のひらに収まる動物と倉庫ならそのまま箱として持ち運べたところです。羽根を伸ばすという言葉はあくまで的確ではなかったようですが、なるほどここは意外と外からは捉えづらく、加えてこの場所を通りかかる人間としては例えばわたしを誘拐する人やそれを追いかける人……そうでなくともたくさん並ぶ倉庫の中身を確認することもないということです。倉庫内天井にはドラゴンの頭のような大きな何かが衝突したと考えられる凹みはありますが、気にもならない程度です。クロルさんはこちらを見下ろして低く唸ります。これが一例だ、ということでしょう。改めて見ると可愛らしい顔かもしれませんね。

「番地は確認できた。私は商会で所有者の記録を調べて来る。場合によっては古いものまで当たらなければならないが、半日もあれば済むだろう」

 わたしも行きます!最近文字も読めるようになったのでお手伝いできます!

「それには及ばない。むしろ……」

 ウォーレンさんはさっとハーツさんの方へ視線を向けます。

「……なに」

 睨まれたと不満そうに眼光を飛ばし返すハーツさんは、ひとつ息を吐いて、

「別に何もしないわよ、何かしてこない限り」

「その点は信用している」

 ハーツさんは不機嫌そうですが、不機嫌でなくともずっと神妙な態度です。となれば、ウォーレンさんが言わんとすることは自然と分かりました。しゃがみ込んで目線を合わせ、

「アルカと二人で、任せても良いか?」

 わたしは、うんと頷きます。できます!

「ありがとう、苦労をかける」

 わたしはアルカさんの方をみます。首を下げたドラゴンの頬を撫でて親交を深めていました。ドラゴンは気持ちよさそうにしています。なんですか、わたしもやりたいです!

「あっ、代わる?ほらこっち来て〜!」

 わたしはたったと駆け寄り、駆け寄る前にウォーレンさんも頑張ってくださいを伝え、ウォーレンさんは小さく頷いて、

「では調べがついたら報告に戻る」

と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ