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47.

 二手の分かれ方は当然と決まり、わたしとアルカさんは食料を貰ってくる係です。踏み跡で柔らかさを失った雪に足を合わせながら効果的に歩きます。

「マリーちゃん」

 後ろ向きの足跡に合わせてわたしはくるりと振り返ります。事は収まりましたがわたしの独断と勇み足が招いた危険です。そのことについてでしょう。ごめんなさい、結果はどうあれ巻き込んでしまったのは事実です。

「そ、それは大丈夫!って、そのことじゃなくってさ」

 アルカさんは斜め下を見つめ、木杖の先を降ろしました。

「夜寝る前ママに読んでもらった絵本でもね、ドラゴンってほんと怖いヤツだったんだ。街をいくつも壊して回って、人や、建物とか……」

 当然ですがわたしが目覚めたとき、失われた記憶はわたし自身のことだけではありません。それ以上に世間知らずだったのかもしれませんが。

 ドラゴンと呼ばれる生き物のこともあの場で出会ったものが全てです。怖いと思うのはその全長に関する強烈な威圧感とおそらく致死に至るであろう迫撃です。対峙した時、途中からは奇怪な興奮が先回りしてしまい、恐怖心はどこかへ置き去っていました。

「僕は山奥育ちだったけど、遊んでた近くの廃墟みたいなとこが昔ドラゴンに全滅させられた集落だった、ってこともあって。ハーツちゃんや多分ウォーレンさんも、僕なんかよりもっと詳しいんだろうし」

 つまり、昔々悪いドラゴンがいた、ということです。

「そう、それだよ!」

 アルカさんはこちらを見つめました。

「ママからもずっと、恐くて乱暴な生き物だって、もしも出会ったときはって、使う魔法も逃げ方も戦い方も全部事細かに教わってたんだ。でも、あの、あの少年くんがさ、僕らに攻撃してきた理由はそれなりにはっきりしてて、敵意を見せていたのはむしろ僕だった」

 白い息がその口から途絶えません。

「悪いドラゴンはいたんだと、思う。多分。……けど、あの少年くんと悪いドラゴンは別だもんね。なんだか僕もパニックになっちゃって、簡単なことなのに気が付かなかったよ」

 彼女は自分の頭をコツコツ叩いて、

「今からでも、仲直りしてお友達になれるといいなぁ……」

 アルカさんの行動は突発的な事態に対しては現状維持的で至極当然の対応でした。パニックになった、とは仰っていますが多分そうでもなかったのでしょう。むしろわたしが能天気過ぎたのです。結果わたしの能天気さが事を一番平和に収めてしまったのはアルカさんに不条理さを感じさせてしまったのかもしれません。ハーツさんが頭を抱えていたのも同じ理不尽だったのかもしれません。わたしは正しいことをしようとしたはずですが、正しいことをするだけでみんなの不満が解消されるわけじゃありません。

 その中わたしはといえば、ひとまずはまだ能天気でいるしかありません。なれますとも!お友達に、絶対!

「……!だよねっ、うん!」

 あの少年におはようを伝えて仲良くなったら、今日一日、ずっとおしゃべりして過ごしましょう。ちょうど今日は雪の日で時間潰しのタネを探していたところです。





 わたしとアルカさんのお夕飯になりそうな分も上積みしてカゴいっぱいになった果物や干し肉、お魚を、どうも美味しそうに食べる元ドラゴンを見ていると、わたしもお腹が空いてきます。初めて食べた干し肉もこんな風に感激した味だったものです。

「君も食べて構わない」

 いえ、ここでわたしもありつくのはカッコ悪いです。我慢です。

 持っては来たけれど無用だった火付けの道具を側において両手を解放します。しかし、こうも喜ばしそうに食事をする姿を見ると、どうしてもいたずらしたくなります。取り出したりんごを手渡すフリをしてひょいと取り上げます。裏切りを受けた元ドラゴンは感じたこともない程の絶望を味わったと思われ、徐々に目元に悲しみが溜まってゆきます。……おぉ〜、これはなんというか気分が良いです。

「ダメだよマリーちゃん、意地悪しちゃ」

 咎められると立場が危ういです。この愉悦感も惜しいですが、アルカさんの注意を大人しく聞き入れることとしました。再び手渡すとまた顔をくしゃくしゃにしながら喜びました。

「お腹空いてたんだね。いつもはどうしてたの?」

 アルカさんが訊くとほおばった物を一気に飲み込んで、

「ここひと月くらいはずっと、お店にあるのをこっそり……」

「盗みか。この街なら特段珍しくはないだろう」

 事情聴取が始まったと見て、わたしはちらとハーツさんの方を見ました。珍しくずっと黙って、輪の中へ入ろうとしていません。利手にいつものナイフ。あくまで堂々と見せないように隠してはいますが、合図一つで誰かの首元を切り裂くくらいはできるのでしょう。

「な、なに?マリー」

 もうちょっとこっちに来ないんですか?

「アタシはここでいいわ」

 どうも警戒を解かないご様子です。先程ウォーレンさんも言っていましたが、暫定的に相手はこの子供ドラゴン一匹で、しかも今はかなりご機嫌です。急に不機嫌になって暴れ出す可能性も露ほどは残されていますが、だとして。子供ドラゴンもさっき疲れ果てて倒れたばかりです。

 思うにハーツさんは、敵対の考えを払拭させない何かの記憶や知識に、相当に心を引き摺られているのでしょう。この暴食の限りに騙し討ちの機を見るくらいに。訳を尋ねるのは自然だと思うのですが、

「えっと……マリーはほんっとに何も知らないのよね?」

 はい、何も。

「そう。……全部説明するってなると、あんまり思い出したくないことも混ざっててさ、ごめんね」

 流されたのか、または本当に引き摺られているのか。いずれにせよ、曇った顔はハーツさんには不釣り合いでした。いっそ目の前の命を縦に裂いたら気が晴れるのに、とでも。だからと言って、そんなことはさせません。

「分かってるわよ……でも、もしもの事を考えないでは居られなくて……」

 ドラゴンのことではないです。わたしはハーツさんに悪いことをしてほしくないのです。

「悪いことって……」

 わたしが悪いことと決めました。ハーツさんも、わたしの大切な人で、大切な……家族、はもしかしたらわたしの考えが度を過ぎていますが、少なくとも大切なお友達だと思っています。このドラゴンともわたしはお友達になりたくて、ハーツさんもお友達になってほしいです。一番素敵な結末だと思うのです。

「……」

 複雑な顔。ずっと、ずっと心を連れてゆかれてるのでしょう。ハーツさんも実はお堅い方です。説得程度では利き手を緩めてくれません。


「……だってさ!マリーちゃんもいいよね?」

 いつの間にか佳境を越えたらしき事情聴取を全く聞いていなかったわたしは、アルカさんからの確認の意図を汲み取れませんでした。いつの間にかわたし以上に子供ドラゴンと仲良くなっています。

「ありゃ、聞いてなかった?」

 ご説明をお願いしたいです。同じく聴き取りを行っていたウォーレンさんも口を開いて、

「半年前までこの少年の世話をしていたという御仁に会いに行こうと思う」

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