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43.

 おかしい……どう考えてもおかしい……。

「さすがに海までは凍んないよ~マリーちゃん」

 わたしの推論はどこも間違えていませんでした。なのに。

 波打ち際、まさに波が打つ現場は海水がパシャリと跳ねてわたしの足元の少し先を濡らします。固まるなどという現象とは無縁とでも告げるよう。水塊は凍ることなく海に引き戻り、また次の波を打つ準備を図っていました。この様子では海には海の理があるのかもしれません。それこそ、わたしの夢の中と似た景観を持つ存在です。それなりに特別な力を持ち合わせていても不思議じゃありません。入念に調べる必要もありそうです。

「……ってちょっとちょっと!流石に近づくのはだめだよ。冬の海はヤバいんだよ。僕だって見張りを任されてるんだから」

 腕のあたりを掴まれ、もちろんこの制止は少し頑張れば取り去るのは容易ですが、そこまで愚鈍になれません。

 絶好の場所で夢に見た体験を夢の外でもできるかという期待は打ち砕かれました。海は人の心も知らないで。そうなるといつぞの夕方のように水平線を眺める二人です。雲の多い今日は日も差さず、空を焦がれる水たまりも機嫌悪そうに灰色の身体をうねらせています。改めて見れば今のこの海に嫌がらせでもしようものなら巨体をムクリと動かして気に食わない生き物を丸呑みにしてしまいそうです。それこそ、そんな生き物が水の中に何匹でもいることでしょう。夢の中の方がまだかわいいのかもしれません、

 こんな日にここに、わたしたち以外には人影が少々、というか暇を持て余したらしき同年代が一人といったところです。彼も人手として数えられなかったということでしょう。

 水平線のその先にあるものを考えました。目指す町の名前は、カンランと言ったでしょうか。こんな、世界の終わりまで続いていそうな水たまりのその先に、わたしの秘密に繋がる何かが待っている。もちろんそれは彼のリードが正しければ、という前提はありますが、何となく彼に限ってその裏切りは無いだろうと安心しています。もこもこの服の内側から、美しい装丁をこっそり覗かせます。独りでいるとき、ウォーレンさんと一緒のとき、ハーツさんといるとき、アルカさんが隣にいるとき、この本を何度かめくって中身を読もうと、または読んでみてほしいとお願いしましたが、洞窟に落ちていた紙切れと同様で文字そのものから読者を突っぱねるものですから棒にもかからないというところです。この本にどんなことが書かれてあるのか、カンランにたどり着けばそこも含めて答えをいただけるでしょうか。……いえ、今そんなことを考えてもどうもならないでしょう。海の先に夢を見るのは今のままでは雲の上に希望を見出すのと同じです。雪が解けるような頃には夢を見るだけにはならないのです。いつか手に取れる財宝は財宝とは呼ばず、目標と呼ぶことにしましょう。

 とは言っても考え事を無くせば暇潰しが終わるわけじゃありません。海岸に向かって足元の雪を小さく蹴飛ばしても退屈を吹き飛ばすことはできません。

「流石にもう雪は飽きちゃった?」

 わたしの深い想像力をもってしてももうこれ以上雪で遊ぶ手段を考えつけそうにはありません。

 こんなところに来てしまったせめてもの理由探しに海岸沿いに来ていたもう一人の少年になんとなく話しかけました。多分、わたしからでなくともアルカさんが話しかけたことでしょう。彼はたどたどしくも返事を返してくださいました。やっぱり雪遊びくらいしかすることがないお仲間のようです。わたしたち三人、ぼんやりと海の方を眺めるしかないというのも物悲しいというものです。やや傷のなめ合いを感じます、というのは卑屈でしょうか。

「なるほど〜、じゃ、僕らと同じくらいの年だね!」

 わたしが切り上げようとした会話をアルカさんが引き継いで続けます。お任せして大丈夫そうなので、わたしは護岸任務に戻ろうかと思います。

「へぇ〜、じゃあさ、お家はどのあたりなの?」

「うぇへっ!?えぇっと……街の、み、南の……その……」

 彼はボソボソと住所を……。いえ、何か、わたしにはそうして並べられた言葉だけ鮮明にわたしは聞こえました。より詳細に言えば、嘘をつかれた気がしたからそこがとても耳に残ったのです。すぐに指摘する気にはなれませんでした。住所自体はわたしが頭の中で思い出した地図の上、特に違和感がありませんし、そこに居着いていること自体を偽っているというわけではなさそうです。実際尋ねた魔法使いも特に気にしていません。そうなると何が嘘か、どこに嘘が混ざっているのか。あるいは嘘がないにしても何らかの歪みがあるのか。わたしのただの直感だけの話ですがわたしのただの直感ほど信頼できるものもありません。

「……うわあっ!」

「えっ!?マリーちゃん何してんの!?」

 青白髪の少年の心臓辺りに手を当てて、押し倒します。白雪の中に二人の身体がうずまり、わたしの白髪が垂れて彼の顔に掛かります。彼の表情、吐息、熱、すべてが届く距離。急な行動ですから狼狽えているようです。加えて、


―――――――――ᛢᚢᚨᛖᚱᛖ


 探しの魔法とは呼んできましたが、本来これは周囲のあらゆるモノの情報を汲み取る魔法です。広く浅く汲み取れば探すという動作になるだけです。真逆に狭く深く汲み取れば……至近距離でどこまでも奥深く拾い上げれば、これが、この存在が何か、何を隠しているかがわかるはず。手の先から光の束を拾い上げるように魔法はわたしの頭の中に事実を運び込みます。

「ちょっと!だめだって急にそんなことしちゃ!」

 アルカさんに腰元から身体をひょいと持ち上げられて作業は中断されました。少年は明らかに怯えた様子です。まだまだ不足ですが確定したことは一つありました。どうしてか。彼は明らかに人間ではありません。

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