表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/101

21.

 ぴかぴかになったお宿を眺めて、これは良いことをした、と感じないわたしではありません。その晩は気持ちよくベッドにもぐりこみました。魔法使いの皆さんも今晩からは住所が変わり、きっと今までで一番落ち着いた夜を過ごしたことでしょう。

「ねぇ、マリー」

 夜半、ウォーレンさんは今日も寝ずの見張りをしていて、側にいるのはハーツさんだけです。まだ眠りにつくには早かったわたしはその呼び掛けに返事をしようとしましたが、どうやらそれを必要としたわけではなく、むしろ遮るようにハーツさんは続けます。

「あたしさ、マリーはまだ子供だから、危ないことしようとか、ひとりでいろんなことしょい込んだりとか、そうゆうのはダメだって思ってるの。……でも多分、マリーは子供じゃないんだもんね。なんというか、年とか、考え方とかは子供なのかもしれないけれど……でも、そういうのじゃないところが大人っていうか、マリーひとりでもできることがいっぱいあって、それをあたしが頭ごなしに全部だめって言うのは、確かに違う気がしたの」

 月光が部屋の窓から差し込んで、小さな長方形を作っていました。

「今日だって、あんな半端な連中、すごい力をたくさん持ってるマリー達にかかれば、全然へっちゃらだったし。……このご時世、守られてばっかりじゃ、例えばあたしやウォーレンがいなくなったら、いろんなことをできたはずのその全部ができないまま放り出されたら……それこそ不幸せだって思う。けど……けどね」

 髪が揺れて、息を吸い込んで、そうして沈黙が少し続きます。なにか、そこから何かが明らかに続くはずでした。そこから先に続く言葉に確かに大事なものが隠されているはずなのですが、結局最後まで教えてはもらえませんでした。言う必要がなくなったのか、言う勇気がなくなったのか、いずれにせよ、その言葉の続きがわからないわたしはその部分を類推しながら夜を更かしました。




 滞在時間はそれから二、三日ありましたが、魔法使いの皆さんはお宿の手伝いをして、わたし達はその様子をのぞき見したり、お暇な時間におしゃべりしたり、そんな感じで残りの時間はぼんやりと過ぎてゆきました。結局、あのゴロツキさんたちが再び現れることはなく、

「ちゃんときれいになってよかったわね」

「シミにならなくてよかった」

 汚れていたわたしの服と靴も、もはや以前以上にぴかぴかしているとすら感じます。わたしと一緒に小さな苦難を乗り越えたのですから、新品の時と比べてその質も段違いなわけです。

「ほらっ、……よいしょっと!」

 わたしのからだは腰あたりから持ち上がり、さっきまで肩あたりの高さにあった荷馬車の床板に乗りあがります。あとから乗りこんだハーツさんに、また腰元からつかまってしまい、お膝の上に連れ去られました。……子ども扱いやめてください!

「こうしとかないと動き出したときにコロコローって転がっていきかねないでしょ?」

 そんなことありません、と言いたいところでしたが、改めてその様を頭の中で思い描くと自信を失いました。

「なるほど、私もこれから気を配ろうと思う」

「あんたはあんたでなに真に受けてんのよ」

 ウォーレンさんが乗り込んで、これで全員だったようです。ようやく、数日停まっていた荷馬車が動き出します。この村ともお別れです。ハーツさんの腕から少し身を乗り出して、外の景色を見ます。お宿の前に皆さんがそろっていました。こちらに手を振っています。これからも皆さん、力を合わせて頑張っていくのでしょうね。そうあの六……あれ?六人じゃ、ありません。

「とりゃああぁぁぁー!!」

 突如荷馬車の後ろから迫るその声の主が、大きな跳躍のままこちらへとびかかります。濃碧のローブが空中にはためき、木杖に付いた金属装飾が、東の日の光をちらりと反射します。その突撃物体は、ゴロゴロッと転がり、この荷馬車の最後の乗客となりました。ただし、着地に関しては失敗しました。少なくとも、顔から衝突した着地は失敗と呼ぶはずですから。

「うぅ……いてて……」

「ア、アルカちゃん?」

「へへっ……最後まで悩んじゃったけど、やっぱり気になっちゃって……」

 鼻の頭を赤くしながら、にへへと彼女は笑いました。

「きっと、いろんな魔法に出会える旅ができると思うから……カルタ姉もみんなも、行ってきてって送り出してくれたんだ」

 ロッドを正しく持ち直し、ローブの裾を正して向き直り、

「僕も一緒に付いてっていい?……って、こんなギリギリで来ちゃったけど」

 ハーツさんは頭を抱えます。ついでに荷馬車の主人も、こちらのことを嫌そうに見つめています。まあ行きしなに邪魔をしてきた女の子でもあるわけですから。しかしわたしにはこのサプライズを喜ばない選択がまるで見当たりません。ウォーレンさんのお顔を見ます。

「……君の想いと私は全く同じ気持ちだ」

 軽く頷くウォーレンさんからの承認をもらい、次にハーツさんを見ます。ちょうど頭の上です。

「……いや、あたしだって別にイヤって言ってないわよ。でも先に言ってくれてたらあんなに睨まれずに済んだんだけど」

 えへへ、ごめん。とアルカさんは謝罪しますが、この謝り方はおそらく次もやる確信があります。

 お二人からの了承をもらえたということは、あとわたしがすることは、知りうる限りの最大の歓迎の気持ちをお伝えすることに他なりません。これから、よろしくお願いしますね、アルカさん!

「……っ!うん!これからよろしく!」

 あてのない旅に新たに加わった愉快な魔法使いさんは、にっと笑いました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ