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プロローグ

 猛暑だった。灰に沈んだ地面を踏みしめ歩く。ここでは息をするにも注意が要る。男は地図を手に、遠景からおよその場所を特定する。ちょうど、目的はその付近だった。盛り上がった灰の山をまた踏みしめ歩く。丘になっている部分に差し掛かろうとすると、灰がどさりと崩れていく。足を取られてよろめくのを踏ん張って様子を見れば、さっきまでなかった空洞が口を開けていた。男はそれを慎重に下ってゆく。

 途中から灰がなくなり、人工的な石階段にも差し掛かると、足音は大きな空洞の中にコツコツとよく響く。光がとおらなくなって徐々に暗くもなるはずが、とあるところからぼんやりと青白い光が階下から漏れ出てきていた。光は階を降りるごとに強くなり、最下層まで下りる頃には一段と強くなり、その光の正体もそこにあった。既にここにまで灰が高く降り積もっているものの、中央に鎮座した硝子張りの棺と、そのなかに横たわる白髪の少女は無事である。警戒しながらも男が近づくと、少女の目がゆっくり開いた。


 目を覚ますと、わたしは暗い場所で横たわっていました。起き上がろうと体を起こそうとして、何かに頭をぶつけてしまい、ガラスケースの中にいることがわかりました。手で押してみれば簡単に開いてしまいましたが、いろんな疑問は残ります。

 まず、わたしはわたしが誰なのかがわかりませんでした。それ以外でも覚えていることが全くありませんでした。なぜこのような場所にいるのか。考えようと息を吸い込もうとすると、喉の奥あたりが強く痛んでせき込みます。空気そのものにとげが生えているようなそんな痛みを感じます。

わたしがわたしの置かれたこの状況に戸惑っていると、コツコツと足音が聞こえて、すぐさま身をよじりました。怖い、何か、いる。

「落ち着いてくれ」

 足音の主はわたしに語り掛けているようでした。

「そのままだと息苦しいだろう、これをつけなさい」

 暗くてよく見えませんが、その人はわたしに仮面のようなものを手渡しました。見ず知らずの相手に渡されたものへの警戒はぬぐえないものの、いうことを聞かなければどうなるかもわからず、怯えを抱きながらも意を決してそれをつけました。するとどうでしょう、喉奥を突き刺すような痛みは消えて、呼吸が楽になったのです。そうして深く呼吸を繰り返すと心も落ち着いてゆき、あたりがよく見えるようになってきました。足音の主は背の高い男の人で、どうやらわたしと同じ仮面……ではなく、マスクをつけているようです。

「ひとまず、外へ出よう。話はそこでゆっくりしたほうがいい」

 その男の人が手を差し伸べるものですから、わたしはそれに応じます。しかし、一人で立つのも覚束ないほど長く眠っていたようで、それを見かねてかその人はわたしを両腕に抱えてくださいました。

 階段を上るごとに、ゆさりゆさりと体の全部が揺れます。階段の先に急に現れたまぶしい光がわたしの目に突き刺さって、それに少しずつ慣れてくると、周りの様子がよくわかってきたのです。世界の底は真っ白な灰に包まれていました。溶けることのない雪が太陽のもと地面を覆っていたのです。


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