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同じクラスの美人コスプレギャルをオタクな俺がプロデュースする話  作者: 波瀾 紡


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26/42

【26:最高の一瞬を切り取る】

 俺のシャッター音に合わせて、仁志名がどんどん乗ってくる。

 次から次へと決めポーズを作りながら、撮影は進む。


 くるるのアドバイスに従って、いつもよりもシリアスでダークな雰囲気が出てる……か?


 いや、楽しそうな笑顔だぞ。

 あかんやろ。


「ちょい待て仁志名。めっちゃ楽しそうな顔してるぞ。ポーズも元気はつらつな感じだし」

「だってぇー、楽しいんだもん!」

「だもん! ……じゃない!」


 いやいや。

 楽しそうな笑顔は、これはこれで可愛いんだけどさ。今日の趣旨はそうじゃない。


 ダークヒロインの雰囲気を出すって話だったろ?

 いったいどうしたらいいんだ?


 ──俺は思わず頭を抱えた。


 くるるとはるるが仁志名に近寄っていった。

 何やらアドバイスしてくれている。


 仁志名は真剣な表情でアドバイスを聞きながら、一生懸命表情筋を動かして表情を作っている。


 そしてくるるとはるるは仁志名の手先や足先を手で触りながら、具体的にポーズの付け方も教えている。

 それに従ってポーズを取る仁志名。


 おおっ、劇的に変化した。

 いい感じだ。

 表情もシリアスでダークな感じが出ている。


 よし、今だ!


 くるるとはるるが仁志名から離れたのを見て、シャッターを押す指に力を入れる。

 シャキンと心地よい音が響く。


 それから何枚か写真を撮った。


 一旦撮影をやめて、タブレットで写真を確認する。

 みんなも俺の周りに集まってきた。


「うーむ……」


 写真を見て、思わず唸ってしまった。

 どれもこれもイマイチだ。


「どーなん? ダメなん?」


 仁志名が不安そうにタブレットを覗き込む。


「いや。仁志名はいい表情を出しているんだけど、ちょっと気を抜くと、緩い表情が出てるんだ。どうしてもタイミングがずれて、緩い表情の方しか撮れてない」

「そっか……」


 最高の表情は一瞬しか出せない。


 そこに俺のシャッタータイミングが合っていない。

 微妙にズレて、仁志名の最高の表情を切り取ることに失敗してる。


「ごめん。俺のせいだ」

「そんなことないって! あたしがちゃんとできないのが悪いんだって!」

「いや、どんな被写体だって、最高の瞬間はきっと一瞬だ。それを切り取れないのは俺が悪い」

「いやいや日賀っぴじゃなくてあたしが……」


 俺と仁志名がやいのやいのとやり合ってたら、クスクス笑い声が聞こえた。


 男装レイヤー天国あまくにさんだ。

 隣で精霊ジャンヌの格好をしたはるるもニヤニヤしてる。


「いやあ君たち、ホントにいいコンビだね」

「え? あ、いや……」


 天国さんの言葉に、俺がリアクションに困って口ごもったら、横から仁志名が、


「でしょー!」


 なんて、嬉しそうに言った。


「ま、ここは日賀君が頑張るしかないね」

「そうだそうだっ! がんばれarata君!」


 天国さんに乗っかって、はるるまで囃し立てる。

 そうだよな。俺が頑張るしかない。


「よし仁志名。撮影を再開しよう」

「りょっ!」


 仁志名はいつものように敬礼してる。


 よし。俺が──


「最高の一枚を切り取ってやるからな」


 思わずボソッと呟いた。

 それが聞こえたのかどうなのかわからないけど。

 仁志名は満面の笑みで俺を見た。


***


 ──仁志名の、最高の瞬間を見逃すな。


 ほんの少しのチャンスを逃さないように、極限まで集中力を高める。人差し指の先に思いを込めてシャッターボタンを押し込む。


 そうやって、何枚も写真を撮った。


 そして再びみんなで集まり、タブレットで写真を見る。


「お、これはいいんじゃかな?」


 一番良く撮れたと思える一枚を選び、拡大してみる。


 表情にもポーズにも、シリアスでダークな雰囲気が溢れんばかりに出ている。

 まさにアニメの影峰かげみね喰衣くらいそのもの。


「「「おおーっ!」」」


 タブレットを覗き込んだみんなから、一斉に歓声が上がった。


「いいね。すごくいいよ、ゆずゆず!」


 天国さんが仁志名に満面の笑みを向けた。


「完璧だよっ! さすが!」


 はるるが大きく、パンっと手を叩いて絶賛した。


「わらわの教えたとおりだ。素晴らしい!」


 くるるが陰陽寺おんみょうじ歌憐かれんに成り切ったまま褒めた。


 うん。俺が見ても、仁志名の最高の一瞬を切り取れた。そう確信した一枚だ。


「うわぉぅっ……いいっ! コレいいよ日賀っぴぃぃぃー! ありがとーっっっ!!」

「うわっ!」


 いきなり仁志名は両腕を俺の首に回して抱きついてきた。

 頬同士が触れ合って、仁志名の体温が伝わる。

 柑橘系のすごくいい香りが鼻腔いっぱいに広がる。

 そして俺の胸に当たるふくよかな肉感。


 やめてくれ……頭がくらくらして卒倒しそうだ。

 女の子にこんなふうに抱きつかれるなんて生まれて初めての体験。

 童貞の俺には刺激が強すぎる。


「えっと……公衆の面前で抱きつくのは良くないと思う……」


 突然くるるがそんなことを言った。


「あ、ごめんて。嬉しすぎてついつい」


 慌てて離れる仁志名。

 恥ずかしそうに頭を掻いている。


 俺が倒れてしまう前に事態が収束して助かった。

 ちょっと残念ではあるけど。


「あはは、よかったねゆずゆず」

「すごいじゃんゆずゆず! 日賀君もがんばった! さすが!」


 天国てんごくさんやはるるも、嬉しそうな顔で祝福してくれる。


 本当にありがたい。

 こんなに素晴らしい写真を撮れたのは、ここにいるみんなのおかげだ。

 そう思うと涙が出そうになる。


 仁志名も目がウルウルしてる。


「よかったな仁志名」

「うん、ありがと日賀っぴ」


 みんなでひとしきり盛り上がった後に、さっき約束した通り、くるるの写真も撮ることになった。


 真っ黒なドレス姿の陰陽寺おんみょうじ歌憐かれん

 冷たく美しい、物憂げな表情。

 ガラスのように感情のない瞳。

 そして怪しく艶やかなポーズ。


 さすがの演技だ。

 ぞっと背筋が凍るような美しさ。

 元々整ったくるるの美しい顔がさらに引き立つ演技。


 素晴らしい。


 仁志名と違って安定の演技をするくるるの写真は、とても撮りやすかった。

 快調に撮影は進み、あっという間に何十枚もの写真を撮り終えた。


arata(アラタ)様に写真を撮ってもらった……むふ。ありがとう」


 そんなに大げさな喜び方ではない。

 けれどもこのくるるの態度は、はるるに言わせれば最上級に喜んでいるのだそうだ。良かった。


「ねえみんな。イベント終わりにアフターしない?」


 ひと通り撮影が終わった後、天国あまくにさんが突然そんなことを言った。


「アフター? なんですかそれ?」

「コスプレしたあとに、みんなで素の姿で交流するんだよ。反省会したりアドバイスしあったり、まあ単に美味しい物食べて楽しむってこともあるよ」


 なるほど。面白そうだな。


「うっわ、めっさ楽しそーっ! やろやろっ!」


 仁志名が飛び上がるくらい嬉しそうにみんなに笑顔を向けた。

 はるるとくるるも「ぜひ」と答えている。


 楽しそうなんだけど……こんな美人ばかりに囲まれて、男は俺一人なんだってことを思い出した。


 大丈夫か?


 地味でコミュ障なオタク男子がたった一人、女性アイドルグループに混じってカラオケ行くことを想像してみろよ。


 それって天国なのか地獄なのかどっちだ?


 ううむ……まあ、天国……なんだろうな。たぶん。


 まあとにかく。

 イベント終了後に、近くのカラオケルームでアフターをする約束をして、俺達は一旦解散した。

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