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【1:陽キャ男子にバカにされた】

 ──静かにオタクライフを満喫していた俺の平穏な高校生活は、この日終末を迎えた。




 むふふ。何度見てもいいなぁ。まったく飽きない。

 この流線美。艶々と美しい素材。アニメの世界からそのまま飛び出してきた可愛い顔。


 視線の先にずらりと並ぶのは、美少女キャラのフィギュアを撮影した写真。

 より美しく、より生き生きと見えるように、俺が撮影テクニックを駆使した写真の数々。


 高校2年になって数ヶ月が経ったある日の昼休み。

 一人で弁当を食い終わった俺は、机の上に置いたスマホで写真のアルバムを眺めていた。

 周りのやつらはお喋りに興じてる者が多いが、ぼっちな俺は誰にも邪魔されない至福の時を過ごす。


「おい日賀ひが。なんだよその写真?」


 ──え?


 突然名前を呼ばれた。つい写真に熱中していたせいで、前の席の男子が振り向いて覗き込んでいることにまったく気がつかなかった。やべ。


「あ、いや、これは……」


 俺が隠そうと手を伸ばした先で、その男子、前島まえじまにサッとすくい上げるようにスマホを持たれてしまった。


「うわぉっ! すげ、これ……」


 大げさに目を丸くした前島が叫ぶ。彼はバスケ部所属の、いかにもな陽キャイケメン男子だ。


 前島の声に釣られて、何人か男子が寄ってきた。


「なんだなんだ?」

「ほらこれ」

「うっわ! 日賀、おまえやべぇな!」


 俺のフィギュアは、どれもこれもその造形の美しさに惚れ惚れと見とれてしまうやつだ。

 だが──非常に残念なことに、オタクでもなんでもない人が見たら、エロい人形にしか見えない。

 世間の目はガチのオタクに厳しいのだ。


 これは極めてヤバい状況である。ぼっちな俺の動向になんて、今までは誰も興味を持っていなかった。だからつい油断していた。


「こんな写真見てニヤけてるなんて、おまえキモオタかよ!」

「ホントだ。キモいぞ日賀! 二次元の女の子眺めて可愛い~ってか?」


 くそっ! 他の男子までディスってきやがる。


「うぐぅ……」


 なにを言っても言い訳になりそうで、悔しいけれどなにも言い返せない。ここは黙ってやり過ごすしかない。

 そうだ。そうしよう。そうすれば嵐は過ぎる。


「ん? なになにー?」


 やけに明るい女子の声と共に、綺麗な茶髪が視界を遮った。少し甘い柑橘系の香りがふわりと漂う。


 うわ、隣の席のギャルが興味津々な顔で、前島が手にした俺のスマホを覗いてる!

 男子だけならまだしも、女子にアレを見られるのはまずい!

 や、やめてくれ! いや、やめてください!


「あ……か、返して……くれ」


 新たなる嵐の到来にどうしたらいいかわからない。力なく伸ばした手が虚しく空を切る。


 ギャル── それはオタクとは両極端な存在の生き物。

 隣の席の仁志名にしな 柚々(ゆゆ)は、着崩した制服にやたらと明るい物言いの典型的なギャルだ。しかもめっちゃ可愛いくてカーストトップ。

 学校一の美人として他学年にも有名な女の子。


 こんな子にフィギュアの写真を見られたら、そりゃもう完膚なきまでにディスられるに違いない。


 ──キモい。死ねばいいのに。逝ってヨシ。


 そんな言葉が、コーヒーに入れたクリームのように頭の中をぐるぐる回る。

 はい、キモオタ認定確定。


「うっわ、これは……」


 仁志名は元々大きな目をくわっと見開いて、俺のスマホをガン見し、唸り声を上げた。

 ああ、俺の平和な学校生活はこれで終わた。

 女子達にも俺はキモいオタクとバカにされ、蔑みの目を向けられる日々が今日から始まるのだ。


「な、仁志名。キモいだろ?」


 おい、男子達。せめて煽るのはやめてくれ。

 しかし仁志名はその派手な顔にニンマリと笑みを浮かべて、あっけらかんと言った。


「コレ、日賀っぴが撮ったん? ちょーカッコいい写真じゃん!」

「へ?」


 あまりにも予想外すぎるセリフに、俺も含めて男子達全員がフリーズ。数秒の沈黙が流れる。


 えっと……日賀っぴって誰?

 確かに俺の名前は日賀だけど、今まで日賀っぴなんて呼ばれたことはない。


「あ、いやいや仁志名。美少女フィギュアだぞ? キモくないか?」


 だから前島よ。せっかく褒めてくれた仁志名を、悪い方向に煽るのはやめてくれ。


「はあ? なに言ってんの? 人の趣味をバカにすんな。そう言うアンタらの方が万倍キモいから」

「あ、いや……」


 前島は額に汗が流れるくらい焦ってる。学校一の誉れが高い美少女にあんな言われ方をしたら、さすがの陽キャ男子もタジタジだ。

 そう言えば前島って、よく前の席から振り向いて仁志名に話しかけていた。もしかしたら彼女に気があるのかもしれない。


「あああ、そ、そうだよなぁ。人の趣味をバカにしちゃいかんよな。あはは……あ、そうだ。ジュース買いに行こ」


 ありゃ。前島のヤツ、他の男子と一緒に、慌てて教室を出て行ってしまった。

 もしも好きな女子にあんなふうに言われたのならかわいそうに。


 それにしても、仁志名はなんで俺を助けてくれたんだ?

 ぽかんと横顔を見てたら、ふとこちらを向いて目が合った。

 少し色の薄い瞳がとても綺麗だ。


「えっと……ありがとうございます」

「どういたまして。にしし」


 ニッと口角を上げるギャル。

 目が合うのが恥ずかしくて、慌てて視線を下に落とした。


 ──うわ、胸でけぇ!


 襟元が開き気味のシャツを窮屈そうに押し上げる豊かな双丘。

 そんな危険物が目に飛び込んできた。


 こんなのをガン見してたらマジの変態認定されそうだ。だからさらに視線を下げた。


 ──スカート短けぇな!


 今度は白くて長い脚が眩しすぎた。目が泳いでキョドってしまう。

 どこを見ても色気が攻撃してくるなんて、こいつは童貞殺しモンスターかよ。


「あたしも飲み物買ってこよっと。いちごミルク飲みたーい」


 視線を上げると、大きな動きで手を振って教室を出て行く仁志名の背中が見えた。

 ミドルヘアの茶髪がふわふわと揺れてる。


 どうやら俺の視線には気づいてなかったようで、ホッと胸を撫でおろした。

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