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虹色のマーブルと運命の本 第一部  作者: 本堂モユク
第一部 空ろなる道連れ
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第百四十九話 マーブルとラズワルド

「ラズワルドさんは“自分に勝ったら何でも教えてやる”と言いました。教えてほしいことがありますので勝ちます」

 要領を得ない言い方は相変わらずだ。俺とデンは代わる代わるマーブルに質問をして、どうにかマーブルの言わんとすることを整理した。

「どうじゃ、小僧。この小娘は何の話をしておるのか、わかったか」

「まあ、なんとなく。ええと、マーブルは昔ラズワルドさんに会っているみたいなんです。その時に、ラズワルドさんがさっきの言葉を言ったそうです」

「なぬ?儂はこんな奇天烈な髪の小娘は知らんぞ。一度会ったら忘れそうもないしのお」

「俺が初めてマーブルと会ったのは十年前ですけど、髪の色は今と同じでした」

「すると少なくとも十年以上前に儂と会っていると?年はいくつじゃ」

「同年代くらいじゃないかと」

 17歳か、16歳。もしかしたらもう少し下かもしれない。そう思ってマーブルの方を向くと、意外な答えが返ってきた。

「19歳です」

「え!年上!?」

 俺より2コ上?身長も低くて小柄だから余計に幼く見えていたのか。

「髪の色は十年くらい前にこうなりました。その前の色は分かりません」

 ふうむ、とラズワルドはあごひげをさすった。

「では儂と会ったのは8歳以前か。儂とはどこで会ったか覚えておるか?」

「ヤマト国です」

 ラズワルドの太い眉が吊り上がった。

 ヤマト。日本人である俺には比較的聞き慣れた単語だ。この世界にも日本と似た国があるということなのだろうか。

「まさか……」

 ラズワルドさんが呟く。その見開かれた瞳はかすかに潤んでいるように見えた。ラズワルドさんはマーブルに歩み寄ると、マーブルの両肩を掴んだ。

「生きておられたのか……」

「お久しぶりです。ラズさん」

 マーブルは少し微笑んだように見えた。ラズワルドさんはそこで我に返ったように、マーブルの両肩から素早く手を放した。

 ラズさんというのは言わずもがなラズワルドさんの愛称だろう。やはり二人は顔見知り、いやもっと親しい間柄だったのかもしれない。

 不思議な感じだ。これまでにもマーブルは少し笑ったような表情を見せたけど、今の顔は何だか別人のように見えた。けど、嫌な感じはまったくしない。俺と初めて会ったよりも更に昔、マーブルは感情表現豊かな子だったのだろうか。

「うむ……うむ!」

 すべての疑問が氷解したのか、ラズワルドさんは何度も嬉しそうに頷いた。でもこっちは聞きたいことだらけだ。

「待たせたな!では、マーブルの勝負を受けよう!」

 俺たちの方に顔を向けるとラズラルドさんが声を張り上げた。

 ギャラリーはほとんど減っていなかった。マーブルから事情を聞き出す前、ラズワルドさんは「言いたいことは言ったから今日はもう解散して良し」と聴衆に宣言したが、続きが気になるのか、あるいは帰りづらかっただけか、ほとんどの人々はじっと待っていたらしい。

人の目を惹きつける魅力。その一点においてはマーブルとラズワルドさんには共通点があると言える。

「よし!ではマーブルよ、勝負の内容は何とする?」

「相撲です」

 まるで最初からの決定事項かのようにマーブルはあっけらかんと言った。

「無茶だ!」と俺とデンは声を揃えた。

「お前は知らんだろうが、あいつはエリアとかいう反則技を使ってだな、魔法が通じないんだ。魔力のないこいつが馬鹿力で健闘していたんだが、それでも歯が立たなかった」

 デンはまくし立てるように先ほどまでの状況をマーブルに伝えた。

 マーブルはこくこくと頷くと、デンの口元に人差し指を添えた。

「デンさん。私、見てました」

「え?」

「見てましたし、聞いてました。ですから、説明はしなくても大丈夫です」

「いや、寝てたろ」

「身体は寝てたんですけど、心は起きてました。イッチ様の試合も見てましたよ」

 あの辺から、とマーブルは虚空を指差した。

「な、何だ……何もないところだぞ」

不気味がるデンが説明を求めるように俺を見た。

「もしかして幽体離脱とか?」

「幽体……あっ、あの時のか」

 デンが思い当たったのは、幽霊列車に乗った時のことだろう。黄泉の国へと向かう列車には生者が乗れない。そこに迷い込んだマーブルを助けに、俺とデンは霊魂体になって列車に侵入した。

「あ、それです。コツを掴みました。いつでも魂を抜くことができます」

「いやそれ大丈夫なのか?魂ってそんなにホイホイ抜いていいのか?」

 俺の心配をよそにマーブルは何でもないことのように頭を掻いた。

「物騒な特技を身に付けたな」とデン。

「まったくだ」と同意しながらも、自分にもできるのか試したくなったので今度こっそり練習してみることにした。

「って話が逸れたけど」と俺は無理くり話の流れを戻した。

「あのじいさん、めちゃくちゃ強いよ。本の力を使うんだろうけど、通じるかどうか」

「今の自分の力を試してみたいんです」

 マーブルは本を開いた。

「私が全力の絵を描いてもラズさんなら死にませんから」

 そこで俺は初めて、闘志のようなものをマーブルから感じた。今回のペイン暗殺騒動の戦いで、俺もマーブルも限界を超える必要があった。自分の持てる力以上の実力を発揮したことで、マーブルの力は以前より増しているのかもしれない。俺とデンがそうであるように。

「わかった。でもマーブルは目覚めたばっかりだ。くれぐれも無茶しないで」

「止めたところで聞かないしな、お前は」

「二人ともありがとうございます」

 マーブルは俺とデンに頭を下げると、ラズワルドの前に出た。

「積もる話もあるが……今は約束を果たす時」

「はい。私は容赦しませんので、全開でどうぞ」

 二人が向かい合った後、互いに距離を取る。その間にスピネさんが入ると、手刀を構えた。「見よう見まねですけど、私が審判を務めます」

 その言葉に両者の返事はない。互いに互いしか見えていないようだった。

「はっけよい……のこった!」

次回、5月15日(木)更新予定です

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