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虹色のマーブルと運命の本 第一部  作者: 本堂モユク
第一部 空ろなる道連れ
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第百四十八話 挑戦者

 ラズワルドはあごひげをいじりながら眉をひそめた。

「あまりピンときておらんようじゃの」

 俺とデンは同時に首を傾げた。あんな説明で誰が分かるんだよ。

「仕方ない、説明しよう!」

 ラズワルドは羽織っていたローブを乱暴に脱ぎ捨てた。

「“賢者”とは精霊を味方につけた者!自身の魔力と精霊の力が融け合う時、生み出される膨大な魔力質量は空間をも支配する。こんな風に!」

 ラズワルドが柏手を打つと、パアン、と鋭い破裂音が響いた。人間が手を叩いた音がこれほど強く響き渡るのか?このじいさんはやることなすことがいちいち規格外で驚かされる。

「”エリア”を拡大した」

 そう呟いたのはスピネさんだ。いつの間にか側に立っていた。

「ううっ……!」

 突然デンが苦々しい表情で屈んだ。

「どうした?」

「きゅ……急に、身体が重くなった……お前は平気なのか?」

 デンは不思議そうに俺を見つめた。

「平気って……」

 辺りを見回すと、その場にいた全員がデンと同じように苦しそうにしていた。

 ――いや、よく見ると全員ではない。ゼイルー先生や車いすに乗ったペインは平気な様子で周囲を見回している。

「デンさん。魔力をゼロにコントロールすることはできますか?」

 スピネさんが屈んでデンに語りかけた。

「おじいちゃんのエリア内では一定以上の魔力を持つ者に極端な負荷がかかります。魔力を高めて抗おうとするほど負荷は大きくなります。今できる対処法は魔力を抑えることだけです」

「じゃあ、スピネさんもゼイルー先生も」

「はい。私は小さい頃からおじいちゃんに鍛えられましたから。ゼイルー先生たちもエリアのことは知っているみたいですね」

 ゼイルー先生にペイン、あと反対側に立っているベリルやアイハラさんもその対処法を実践しているのだろう。周囲の生徒たちに何やら呼びかけている。

「ほう。知っとる者もいるようじゃの。どれ、一旦解除しようか」

 すると、すぐにデンが「戻った」と呟いた。魔力のない俺には何が何だか分からない時間だったが、魔法使いにとっては大変なことが起きていたようだ。

「対抗手段を知らぬ者は辛かったろう!悪かった!だが聞いてほしい!もしも闇大帝がこれを使えるまでに力を取り戻したなら……今苦しんだ者は確実に死に至る!」

 そこでどよめきが起きた。当然だ。かくいう俺も身震いがした。闇大帝の恐ろしさは身をもって思い知ったばかりだ。

「ディステマ。古い言語で空間という意味じゃ。先ほど主らが体感した重力は魔法ではなく外法に近いもの。したがって通常の魔法では対抗できぬ。ディステマにはフィールド、エリア、ゾーンの三つの範囲区分があっての。魔力量に応じてその範囲は拡大し、儂のエリアは視界に入る範囲であれば、一定以上の魔力を持つ者に負荷を与える効力を発揮する。闇大帝は更に広大な範囲であるフィールドを使う。その効力は凶悪極まりないものでの、闇の魔力を持つ者以外の命を奪う」

 むちゃくちゃだ。もし闇大帝がその技を使っていたら……俺たちはほとんど全滅していたってことか。そんなもん初見殺しもいいとこだ。

「ディステマの効果や範囲区分は使い手によって異なる。儂の場合は魔力を消せば負荷からは逃れられるが、儂は魔法を使い放題じゃ。に魔力抜きで戦えるはずもなかろう。ディステマ持ちに対抗する手段は三つ!その一、こちらもディステマを使い両者の空間支配効果を打ち消し合う。これがもっとも有効な手段じゃが、今の主らではまだまだ無理じゃろう。その二、身体能力のみで応戦する。あまりおすすめはできんの。もっとも活きのいい小僧でも儂相手にはこの様じゃ」

 ラズワルドは俺の背をバンと叩いた。その勢いの強さに思わずむせてしまう。

「その三。今から短期間でできる対抗手段はこれしかない。ディステマの範囲を正確に感知し、その領域から逃れた上で遠距離攻撃をすること。ディステマを一度体感した主らなら、訓練すればその範囲を感知することは可能となる。遠距離攻撃はおのおの得意な魔法を磨いていけば自然と身につくじゃろう。じゃが敵も馬鹿ではない。当然、自身のディステマから獲物を逃さないようにするじゃろう。ここまで言えばわかるじゃろう。先ほどの儂のエリアも、魔力を消すという対抗手段を知らずとも逃れることはできたのじゃ。ある程度肉体を鍛えた者ならばな」

 そこまで話した後、長く息を吐き、隆起した土の山にどかっと腰を下ろした。

「ふう。いっぺんに喋って疲れたわい。長々と話したが、要は身体を鍛えんことには話にならんということじゃ。すべての魔法使いは成長の過程で必ず身体能力の壁にぶつかる。魔力頼りでは通用せぬ世界があるのじゃよ」

 その時、ふいに。マーブルが眠っている木のベッドに目が向いた。特に何か考えがあったわけではなく、何となく見ただけだ。すると、ゆっくりと布団が盛り上がったかと思うと、すぐにその山は沈み、代わりにマーブルの上半身が起き上がった。

「マーブル」

「やっと起きたか」とデンが駆け寄る。俺も慌てて後を追う。

 マーブルは寝ぼけた眼で俺とデンを交互に見ると、両腕を上に、大きく伸びをした。

 う~ん、と声を発すると、おもむろにベッドから身体を起こした。

「おはようございます」

 ぺこりと頭を下げ、顔を上げた時に、あ、と何かに気付いたような声を出した。

「ラズワルドさん」 

「む?儂のファンか?」

「私と勝負してください」

 おそらく、その場にいた全員が。同じ言葉を発したに違いない。そのくらい盛大な声が響いた。

「はあ!?」

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