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虹色のマーブルと運命の本 第一部  作者: 本堂モユク
第一部 空ろなる道連れ
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第百三十一話 戦線復帰

 冷たくて暗い沼の中で目が覚めた。

 どうしてこんなところにいるのだろうと思ったけど、すぐに思い出した。

 ペインさんが私を結界に閉じ込めた後、どうしてもじっとしていられなくて、何とかここから出ようと思った。きっと、前にもこんなことがあった。

 私がここから出たいと言うと、本は答えた。

『今までに描いた絵の分だけ力を貸してやる』

 本の力が自分の中に流れてきて、私は目を閉じた。自分の頭の中の世界に、私は沈んでいった。

 私の頭の中は、真っ白なキャンバスがどこまでも続くような景色が広がっていた。何かを描かないと不安になるほどの無色な背景にどんな絵を描こうかワクワクしていたのに、私のキャンバスを汚す悪い人が現れた。自分でもどうしようもない怒りがこみあげてきて、全部めちゃくちゃにしてやりたくなった。

 この世界では思い描いたことがそのまま実現できる。

 私は真っ黒な力で悪い人を叩いた。動けなくなるまで、強い力でたくさん叩こうとした。

 アティスくんを倒したと思った時、もっと強い力であっという間に私は動けなくされた。

 どこまでも果てしなく広がる夜のように黒くて、とても怖い人だと思った。

 やがて本の力が抜けていって、ようやく。私は目を開いた。

 でも、目が開いているのに真っ暗で何も見えない。

 全部なくなってしまったみたいな感覚。手足も動かせない。

 どうしてだろう。身体中が冷たい沼に沈んでいっている。筋肉も骨も溶けちゃったみたいに流れていく感じがする。

 ……寒い。

「き……か?」

 どこかから声が聞こえる。

「マー……きこ……すか?」

 私を呼んでいる……?あなたは誰ですか……?

「……あ、あ!これで聞こえますかね。耳がどこにあるのかわからないので、頭蓋骨のありそうな位置に直接話しかけています。私はスピネと申します。デンさんたちと一緒にあなたを助けに来ました」

 スピネさん……ここは危ないです。逃げて……。

「お気持ちはありがたいですが、私は有事の際の救護班です。傷病者を放置するわけにはいきません。それに敵は闇大帝です。どこに逃げても安全な場所なんてありません」

 やみたいてい……。

「簡単に言うと悪の親玉です。大昔に賢者たちが退治したそうですが、復活してしまったようです。非常に恐ろしい魔力の持ち主ですが、復活して間もないせいか、肉体と魔力のバランスがぐちゃぐちゃです。今なら……いえ、今しか倒せる可能性がないと思いますが、私たちは満身創痍で闇大帝を退けるにはあともう一手が足りない。マーブルさんにも力を貸していただきたいところですが……今のあなたを治すのはなかなかに難儀です。とりあえず枯渇した魔力を回復させてみますが、正直に言うとあなたを元通りの状態に治せる自信がありません」

 目が見えないし……声が出せないし……手足も……。

「はい。マーブルさんが伝えたいことは何とか信号を読み取って理解できるのですが……。イッチさんから聞いた話だと、以前もこのような状態になったことがあるそうですね。その時は一体どうやって戻ったのですか?」

 このような状態……?

「自分で気付いていないのですか?身体が液状化して原形を保っていません」

 えきじょうって何ですか?

「骨も筋肉も煮込まれたみたいにドロドロなんです」

 ああ……だから立てないんですね……とても不便です……。

「魔力が戻れば自力で治せそうですか?」

 分かりません……昔はどうやって元に戻ったのか、記憶がないんです……。

「そうですか。やはり一筋縄ではいかないですね。しかし手をこまねいている余裕はありません。私の治癒魔法の知識と技術を総動員して、何とか元に戻せるよう――!」

 スピネさん……?どうしたんですか……?

「~~~ッ、効いた……!」

「イッチさん、大丈夫ですか」

「はい……何とか。でもヤバいっス……こっちの攻撃がだんだん当たらなくなってきた。ゼイルー先生がいるから何とか食いついているけど……『魔犬モード』もさすがにガス欠ぎみだし」

 イッチさま……そこにいるのですか?

「はい。敵の攻撃でここまで吹っ飛ばされてきたようです」

「マーブル……」

「イッチさん、戻るのは少しだけ待っていてください。額の血を止めます」

 血……イッチさま、大丈夫ですか?

「イッチさん。マーブルさんが――」

「うっす。俺は大丈夫だ」

「これは驚きました。マーブルさんが何を尋ねたか聞こえたんですか?」

「え。いや、全然?ただ、マーブルならそう聞いてきそうだなと思って。――なあ、マーブル。腹減ったよな」

 はい。それはもう、ペコペコに……。

「俺もだ。あともう少しで終わるから、そしたらうまいものをガッツリ食べに行こう」

 はい、是非お願いします。

「どこにでも連れて行くからさ。もう少しだけ待っててくれよ」

 そう言って、イッチさまは唸り声を上げて敵に向かって行った。

 見えなくても、聞こえなくても、心で分かる。

 私は――。

「マーブルさん。立てますか?」

「……はい、なんとか」

 イッチさまの血が、その命の温かさが私を完全に目覚めさせた。

「私は戦います。イッチさまたちと一緒に」

 闇大帝。私たちはあなたを倒す。

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