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虹色のマーブルと運命の本 第一部  作者: 本堂モユク
第一部 空ろなる道連れ
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第百三十話 上に行くのは

 話はデンたちがイッチと合流する前に遡る。


 裏ゼイルーがロードヴィと交戦している間、ジーニャとアイハライトは気絶しているデンの状態を観察していた。

「デンくん、なんて無茶なことを……。スピネさんの治療を受けても体力や魔力が完全に回復したわけじゃないのに。満身創痍でロードヴィとやり合おうとするなんて」

 ジーニャはデンの背中を撫でながら嘆いた。

「私のバリアが『魔眼』は防げていたら君がこんな無茶をせずに済んだのに」

「そう悲観しなくても大丈夫。その子、元気だよ」

 アイハライトがデンの額に手を当てて言った。

「どういう意味ですか?」

「ちょっと深めに魔力探知してみて」

 ジーニャは言われるがまま意識を集中すると、デンのある変化に気付いて声を上げた。

「これって……」

「充電……だね。意識がないのに少しずつ魔力が回復している。すごいね。雷獣ってこんなこともできるのかな」

 パチッ、と何かが弾けるような小さな音がした。

「出血がある箇所は糸で塞いだけど、そもそも意識を失うほど大きなダメージを受けていないね。『魔眼』で気絶させられたと考えるのが妥当だけど、もしかしたらこの子……まだ戦っている最中なのかも」

「でも――」ジーニャが目線を上げて言った。「今にも決着がつきそうですけどね」

戦況は明らかに裏ゼイルーの方が優勢だった。繰り出す攻撃は悉くロードヴィに命中し、逆にロードヴィの攻撃は裏ゼイルーにかすりもしない。

しかし、裏ゼイルーの違和感は次第に増していった。

「しっつけぇんだよ!クソが!!」

 裏ゼイルーの放った蹴りでロードヴィが吹っ飛ぶ。裏ゼイルーは大きな舌打ちをすると、ジーニャたちの方を向いた。

「おい、おめぇら。知恵を貸せ」

ジーニャとアイハライトが立ち上がる。

「あのヤローの相手はもう飽きた。いい加減とどめを刺してぇけどよ、途中からいくら殴っても手応えがなくなりやがった。平気なツラで立ち上がってくるくせに単調な動きしかしねー。人形を相手にしているみてぇだ」

 人形、と二人がほとんど同時に声を出す。すぐに思い当たったのは、アイハライトが糸の魔法を駆使して動きを制していた何百人もの生徒たちだ。彼らはロードヴィの魔眼の能力で洗脳され人形と化していた。

「あいつ、まさか自分を人形に?」

「いや、他の人形とは違うよ。さっき試してみて確信した。あいつは私の糸を切って動いている。刃物では切れない強度の糸に魔力を流して焼き切ったんだ。そんなこと人形にできるわけない」

「じゃあ生身だって言いてぇのか?とてもそうは思えねぇけどな」

「魔眼の能力で攻撃が当たっているように思い込まされている可能性は?」

「ねぇな。魔眼はあたしには効かねえ。だから真っ向からやり合えるんだ。第一そんなことをする意味がわからねぇ。あのヤロー、何がしてぇんだ?」

 事実、闇の魔力に耐性を持つ裏ゼイルーにはロードヴィの魔眼の効果はない。

ロードヴィは百種を超える攻撃魔法を習得しており、他の属性魔法で攻めていれば魔力の総量で劣る裏ゼイルーはかなりの苦戦を強いられていたはずだが――。

 ロードヴィにとって優先すべきものは、目先の勝敗などではなかった。

 すべては、『王』のために。

(リ・)魔眼(ドゥームズヴィジョン)

 自身にかける魔眼。その効力は肉体と精神の反転。

裏ゼイルーが攻撃を加えているのはロードヴィが魔力で固めた精神体であり、肉体ではない。よって物理的な攻撃は意味を成さない。ロードヴィの肉体は今、一切の介入を受けない幻惑の世界を駆け、闇大帝の下へと向かっていた。

 闇大帝の『焦握』を受けてなお、犬房一志はまだ生きている。その事実に許しがたい憤りを覚えたのは闇大帝ではなく、その信奉者であるロードヴィだった。

 闇大帝は夜闇の吸収によって魔力を回復させたが、まだ万全とは程遠い状態にあった。得たばかりの肉体が馴染むまでにはまだ幾ばくかの月日を要する。『焦握』の本来の威力であれば、犬房一志は骨肉ごと消し炭になっていた。おそらく本来の威力の二割程度しか発揮されていないとロードヴィは推察した。

 犬房一志は今確実にここで殺す。

 肉体と精神が分かれている状態では魔法を使うことはできないが、死にぞこないにとどめを刺す程度ならば魔法は必要ない。ナイフで刺せば終わりだ。

 よし、もうすぐだ。

 この段差を駆け上がれば父のもとへ――

(ようやく見つけたぜ。クソヤロー)

 ロードヴィの疾走を阻んだのは、デンだった。

 馬鹿な。

 なぜ君がここにいる。

 ここは私の世界だ。外から侵入することなど絶対に――

 バチッ、とロードヴィの肉体に電流が走る。

 まさか……!

(お前が言ったんだろ。脳を共有しているってな)

 私の『魔眼』にわざとかかったのか。その上で、幻惑の世界から目覚めないようにしていた。私自身が幻惑の世界に入るまで息を潜めていたのか。

 ありえない。ここは外の世界とは時間の流れが違う。君は……一体ここで何年過ごした。何年間ここで死に続けたんだ?

(二年と百十八日だ。まさかこの世界に生身で現れるとは思わなかった、とんだ幸運だ。寝ながら電気を溜める方法も学んだ。この世界ではもうお前に負ける気がしねえ!)

 デンの魔力が急激に上昇する。バチバチと音を立てながら強力な電気を身に纏うと、ロードヴィの肉体も同じように電気を纏い始める。

 ま……待て……、待つんだ!

 あと少しなんだ!あと少しで私は父の下へ――

(上に行くのはお前じゃねぇ。おれだ)

 ぐあぁああぁああぁぁああぁあ!!

「――!?」

 デンの強力な電撃を浴びた生身のロードヴィは、裏ゼイルーが応戦している精神体と入れ替わった。

 直後、裏ゼイルーの攻撃が当たる。

「ぐああっ」

 先ほどまでとは明らかに異なる打撃の感触を、裏ゼイルーは見逃さなかった。

「よう……やっと戻ってきたみてぇだな!」

 裏ゼイルーの渾身の打がロードヴィに命中した。

次回は12月12日(木)配信予定です

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