表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虹色のマーブルと運命の本 第一部  作者: 本堂モユク
第一部 空ろなる道連れ
112/151

第百十二話 マーブルブラック

 黒い髪のマーブルはじっとこちらを見ると、俺の頬に触れた。

「けが、してる?」

 髪の色や雰囲気だけじゃなく、話し方も変わっている。敬語じゃなくなっているし、どこかたどたどしい言葉だ。

「俺は大丈夫だけど……」

 マーブルは俺の腕を掴む。ジーニャのおかげで痛みは引いているけど、怪我が治ったわけではないから火傷はそのままだ。

「けしてあげる」

 マーブルはそう言うと火傷に二本指を当てて、血管をなぞるように指を引いた。すると、火傷が跡形もなくきれいさっぱり消えた。

「え!?」

 驚いて声を上げたのは俺だけじゃなく、ジーニャもだ。

「ふく、ぬいで」

「ふぁっ?え、ちょ、マーブル!?」

 俺はマーブルに文字通り押し倒され、文字通り身包みを剥がされた。

「ここも。ここも」

 マーブルは目につく限りの怪我を次々と消していく。

「それも」

「いやいやいや!ここはいい!ここは本当に大丈夫だから!ね!」

 何とか最後の一枚だけは死守した。

「もう、いたくない?」

「いや、はい、もう大丈夫!ありがとうございました!」

 マーブルの“治療”を終えた俺は慌てて服を着た。

 ジーニャの視線に耐え切れず、俺は大きい独り言を発した。

「いやーまいったな。いきなりだもん。ま、まあ、おかげで怪我は完治したけど。はは……」

「…………」 

「そ、それにしてもマーブル、いつの間にこんなすごい魔法覚えたの?」

 一瞬の沈黙に耐え切れず慌ててマーブルに話しかけた。

「今のは魔法じゃない」

 マーブルの代わりにジーニャがぽつりと呟いた。

「じゃあ、どうやって」

「分からない。でも回復魔法じゃないよ、絶対。全然魔力を感じなかったし。何か別の……術?みたいなのかな……」

「まあ、魔法だろうと術だろうと俺からしたらあんまり変わらないけど……」

「それより、君の――」

「ねえ」

 ジーニャの言葉を遮り、ずいっとマーブルが顔を近付けてくる。

「だれが、やったの?」

 質問の意図はすぐにわかった。俺に怪我や火傷を負わせたのは誰か。きっと、マーブルはそういう意味で聞いている。

「あー……っと。これは……」

 俺は口ごもった。モコロカと戦った時の傷だと言ってしまうと、何か恐ろしいことが起こりそうな予感がした。

「だれ?」

 マーブルの眼が一際大きくなった気がした。

 髪だけじゃない。目の色まで変わっている。夜の海のような、暗く大きな瞳。

「え……?」

 見えない糸で操られているかのように、俺の腕がすっと上がった。人差し指がぴんと伸びる。その先には倒れているモコロカがいる。 

「な、何だ……腕が、勝手に」

 マーブルが俺の指の先を見つめる。かすかに唇が動いた。なんて言ったのか、はっきりとは聞こえなかったけど――。

『あいつか』

 そう言ったように感じた。

 ふいに、俺の腕がだらんと下がる。代わりに、マーブルの腕がすっと上がった。銃を模した指がモコロカへ向けられている。

 その瞬間メロオが――いや、かつてメロオだった怪物が、マーブルの前に立ち塞がった。

「こここれで、おおわ終わり、だだ」

 メロオは、自らが召喚した怪物たちと混ざり合っていた。全身の筋肉が赤く、不自然なほど巨大に膨れ上がっており、ジーニャが召喚した鬼以上の体躯を誇っているようだった。もし、大会で戦っていたとしたら、俺もデンもなす術なく敗北していただろう。少なくとも、そう確信できるくらいの力の差は確かに感じた。

 けど、登場したタイミングは最悪といえよう。

「しぃいいぃ、ねねぇええぇぇえ!」

 怪物メロオが巨拳を振りかぶると、マーブルに向かって一直線に振り下ろしてきた。

 次の瞬間、遙かなる脅威が、メロオを、モコロカを、周囲の人間たちを瞬く間に覆う。

「じゃま」

 マーブルは親指と人差し指で小さな「0」を作ると、人差し指を弾いた。

 すると、怪物メロオは激しい衝突音と共に吹っ飛んでいった。そして、そのまま二度と起き上がることはなかった。

「わたしのきらいな、におい」

 マーブルはそう呟くと、上を見上げた。

「みつけた」

 そう言うと、その場に蹲るような姿勢を二秒キープすると、「どん」と呟いた。瞬間、凄まじい勢いでマーブルは飛び上がっていった。ロケット花火よりもずっと速く、最上階フロアまで登っていく。

「す、すごい……マーブル、一体何がどうなっているんだ……?」

 呆気に取られた俺を尻目に、ジーニャは先ほど言いかけた質問を再び投げかけてきた。

「さっきの話だけど、君、その身体の痣はどうなっているの?」

「痣?ああ、これは昔からだよ。少し目立つけど、別に痛くもなんともないから、気にしないで」

「そうなんだ。でも、誰かに見てもらった方がいい。もしかしたらってこともある」

「いや、これは本当に大丈夫。子どもの頃からある痣だし、今更病院に行くようなものじゃ」

「そうじゃないよ。医者に見せろって意味じゃなくて、呪いとか、そっち方面に詳しい人に見てもらった方がいい。その痣、何となく見覚えあるんだ。魔術書か何か忘れちゃったけど……」


 一方、最上階フロアでは。

「やあ、マーブル。お目覚めかな?こっちは今ちょうど片付いたところさ」

 アティスはマーブルの到達を快く歓迎した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ