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虹色のマーブルと運命の本 第一部  作者: 本堂モユク
第一部 空ろなる道連れ
109/151

第百九話 皹

 スティッキー。

 ペインはその優れた頭脳からスティッキーに関する情報を抽出した。

 本名スティン=ゴオトは、名もなき小国に生まれた。9歳の頃に両親を失くし、遠縁のクティム家に引き取られる。以後、スティン=クティムへと氏名を改めるが、発音のしづらさから『スティッキー』という通称を登録。

 クティム家は魔法の名家であり、本校の教員であるロードヴィ教授はクティム家の当主にあたる。スティッキーはこれまで魔法とは無縁の生活を過ごしていたが、クティム家での二年間の学びが彼の魔法の才能を開花させた。

 11歳の時、本校の生活魔法コース初等科へ転入学、その一年後の現在、魔法技能大会に優勝し、初等科No.1の座についた。

 二日後には私と謁見する予定だった、この少年が――アティス。

 一瞬で情報を整理したペインは重く口を開いた。

「ウェルを解放しろ」

「はは。するわけがないでしょ――ボス」

 アティスは目には見えない何か――ウェルマクスを黒い鎧へ放り投げた。鎧は自ら変形し、胴体の部分がぽっかりと開いた。ウェルマクスはその穴へ飲み込まれると、鎧は閉じた。

「架空の悪魔は殺せないけど、闇の檻に捉えることはできる。僕が本当に捕まえられるのか、不安はあったけど挑戦して良かった。いや自信はあったんだよ。何せ僕はあなたの息子だから」

「……ウェルは私にしか認知できない悪魔だ。なぜ捉えられる」

 アティスは眼鏡を外すと、レンズを丁寧に布で磨いている。

「僕はあなたの息子だ。あなたとほぼ同質の魔力を持っている。だからあなたの魔力網には引っかからないし、僕が接近していることにも気付かなかったはずだ。その逆もしかりだけど、あなたにみえて僕に見えないものはないんだよ」

「なぜ私の息子などと宣う。私に子はいない」

 ペインのその言葉にアティスはかすかに目を伏せたが、眼鏡をかけ直すとその瞳はぱっちりと開かれた。夜の海を想起させるような、深く暗い瞳だ。

「そりゃ父さんに心当たりはないだろうね。でも、いるんだよ。ここに。あなたの息子が。僕は父さんの遺伝子から作られた存在なんだ」

「なんだと……」

「僕は、僕が存在していることをずっと父さんに教えてあげたかった。あなたは一族の呪いを自分の代で終わらせるつもりだったろうが、そうはいかない。呪いは僕が引き継ぐ。そのために僕が作られたんだ。そのためにここまで手の込んだことをしてあなたに近付いたんだ」

「……本物のスティッキーはどうした。殺したのか」

 アティスは白々しく口に手を当てて驚いたような顔をした。

「さすがは父さんだ。僕がスティッキーではないことを一瞬で看破したんだね」

 アティスを睨みつけ、眉間を穿つように念じるが、軽く避けられる。

「でも大丈夫。殺してはいないよ。死体の処分が面倒だし、だいいちそんなことをしたら足がつく。僕はみんなの認知を書き換えただけだよ」

「認知……まさか、禁忌の魔法か」

「正解。誰もが僕をスティッキーだと認識する。容姿も能力も、本物といくら食い違っていてもバレることはない。本物のスティッキーには適当な認知を上書きして保健室に寝かせておいた」

「貴様は一体何者だ。なぜそんな魔法が――ぐ!」

 研ぎ澄まされた魔力の弾丸がペインの腹部を貫く。

「……揺らいでいるね。さっきからずっと。僕の魔力値は父さんにはまったく及ばないけど、どんな魔法使いも動揺すれば脆くなる。しかも父さんの最大の武器であるウェルはこちらの手中にある。勝負はついたかな」

「よく喋るな。私の遺伝子から作られただと?貴様がか?」

 ペインは腹部の傷を修復すると、掌の紋章から薙刀を召喚した。

「切り刻んで確かめてやろう」

 アティスはぐにゃりと顔を歪めた。

「はは……ははは……はははは……」


 迫り来る電撃と風の刃を縫うように棍棒をスイングする。

「ボウ!」

 モコロカの胴に命中する。奴の動きは素早く変則的だが、ようやく行動のリズムがわかりかけてきた。

「ボ……ホウ。やるじゃねー・カ!“トリブレッド”!」

 やばい、またあれがくる!

 モコロカの激しい動きに合わせるように、突風が巻き起こると炎と雷が次々と襲い来る。

「――あ!」

 凄まじい応戦の中、破けたポケットからセーフシェルが零れ落ちた。

 慌てて拾い上げると、ぎょっとした。

 シェルには、大きなヒビが入っていた。

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