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虹色のマーブルと運命の本 第一部  作者: 本堂モユク
第一部 空ろなる道連れ
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第百六話 タッグマッチ

 ノーパラシュートのスカイダイビング。あるいは飛び降り。

 その落下速度を遥かに超える速度で、俺は最上階フロアから吹き飛ばされていた。

「うわぁあぁあああ~~!!」

 床に激突する直前で、俺の落下はぴたりと止まる。その一秒後、無防備な顔面が床に衝突する。

「いてて……ペインめ、無茶苦茶するな」

 でも、仕方ない。マーブルを置いて逃げることを拒否したものの、あの三人の戦いは俺にとって桁違いのスケールだった。レベルが違いすぎる。助太刀どころか足手纏いにさえなれない。あのままあそこにいても自分の身を守ることもできなかっただろう。

 マーブルの側から離れないという決意したものの、マーブルからすれば俺なんかよりもペインと一緒にいた方が余程安全だった。それなのに、マーブルを保護しているセーフシェルは、今俺が持っている。

「セーフシェルは君が持っていろ。それでここにいる理由はなくなるだろう」

 ペインは二人の攻撃をはね返し、激しい爆炎が舞い上がる中で俺にバリアを張っていた。

 攻防が速すぎて何がなんだかわからない。まるでSF映画を早送りで観ているような気分だった。ただ、戦況は明らかだ。ペインが二人を圧倒している。

 俺を包むバリアの中にはいつの間にかセーフシェルが漂っていた。俺は両手で包み込む。

「どうして俺に託す気になったんだ。自分で言うのも情けないけど、雑魚ですよ俺は。あんたが持っていた方がよっぽど安心できる」

「だからこそだ。言うまでもないが敵の狙いは運命の本とその持ち主だ。有事の際に彼女と本をセーフシェルで保護することはクロキに知られているが、私以外の人間がシェルを持つことは想定にない。私にとってもな」

 ペインの言っていることは一理あるようにも思えるけど、それ以上にもやもやを感じた。

「分からないな。俺の手に渡ったことで、クロキたちにセーフシェルを奪われる可能性が増えたようにしか思えない。あんたがわざわざ裏をかかなくても、このまま圧勝できる相手なんじゃないのか」

「君の言うことは全面的に正しい。だが今は私の予感を信じてくれないか」

 ペインはそう言うと、バリアに包まれた俺を下層へと飛ばした。

「ゼイルーに会え。彼女の能力なら安全な場所に行ける」

 落下中、自身の絶叫の他にペインの声が聞こえていたことを思いだした。

 このフロアーに飛ばされたってことは、ここにゼイルーがいるのか?

 セーフシェルがポケットに入っていることを確認し、走り出そうとした時、妙な男たちと遭遇した。

「ホウ!ホウ、ホウ!」

 でかいサングラスをつけた緑色のドレッド男が変な声を出しながら現れた。

「マジック・ゼロ!とは珍しい、ゼ~!」

「……早速変な奴が現れたな」

「てめーの顔は見たことある、ゼ~!そう!その名は……イヌ……イヌなんとか!ダ!」

「犬房だよ!」

 なんだこいつ。ばかに陽気な奴だな。

「ヘイ、メ・ロ・オ!イヌブサはオレサマたちがいただく、ゼ!……ウプス、オレサマたちはゴロ悪い、ゼ。『オレたち』は普通。『オレサマーズ』はちとダサい」

 メロオと呼ばれた長髪の男が杖を取り出しながら近付いてくる。一見、線の細い優男だ。

「ブツブツ言ってないで、目の前の敵に集中しなよ。魔法が使えないからって油断していい相手じゃないよ。モコロカだって、この人の試合見てたでしょ?」

「シ・ア・イ~?――ホ・ホウ!ジーニャを倒した、スゲエやつ!ダ!」

 モコロカという男が両方の人差し指をこちらに向ける。

「変なビート刻みやがって。ラッパー気取りか」

「だがスゲエのはパワー・オンリー!」

「無視か、おい」

「力だけじゃない。耐久力も相当なものだ。二人がかりで確実に殺そう」

 殺意の込められたメロオの台詞に、自然と筋肉に力が入る。

 本気だ。こいつら本気で俺を殺そうと……なんでだ?こいつらもクロキたちの仲間なのか?

「ホッホウ!殺る気マン・マン!メロオ&モコロカ、最強コンビでぶっ殺しー!ダ!!」

 ――速い!

 モコロカが地面を蹴って飛んでくる。カウンターを狙って棍棒を横薙ぎするが、モコロカの姿勢がぐんと低くなる。フォークボールさながら腰を落とし低くなった体勢から、俺の胸元から首を抉るような一撃が繰り出される。

「くっ!」

 仰け反るような形でかろうじて攻撃を避ける。

 バランスを崩した。やばい!来る!

「ホーホホウ!」

 モコロカの横蹴りが俺の腹部に命中する。「ぐっ!」

「ま・だ・ま・だ、ダ!ダダ!ダッダダ、ダダ!!」

 変なリズムだが息をつく間もないパンチとキックの散打が飛んでくる。

「いてーな、この!」

 棍棒を振るが当たらない。また避けられてしまった。

「ホッホウ!殴られながら反撃!さすがのタフネス、ダ!ガ~!そんな攻撃、当たらねえ、ゼ!」

 モコロカがパンチを繰り出す瞬間を俺は見逃さなかった。

 頬を殴られた瞬間、左手で奴の袖を掴み、右手で振りかざした棍棒をモコロカの胴に当てる。

「当てたゼ」

「~~ん、な・ロー!」

 すかさず追撃しようとすると、俺とモコロカの間に突如壁が出現した。

「うおおおっ」

 壁をぶち破る勢いで棍棒を叩きつけるが――ダメだ。衝撃が壁の中に沈んでいく。壊せる感触じゃない。

「サンクス、メロオ!」

「一人で突っ走るからだよ」

 壁の向こうから聞こえる会話を察するに、この壁はメロオの仕業らしい。

「ホ~ウ……バット、ダウンロードは済んだ、ダ・ロー!」

「うん。早速やってみよう。戻れ、ヌリカベ」

 モロオが声をかけると壁は消え、目の前に強烈な光が見えたかと思うと――

 バリバリバリッ

「うぐぁあああっ!!」

 これは――電撃?雷獣とやり合った時と同じ衝撃が……こいつもデンと同じ雷の魔法を使うのか。

「倒れもしない。ショックだな。やっぱりこいつの魔力だとこんな程度か」

 メロオはダルマのような怪物の背中に乗っていた。その怪物の腹には――

「デン!?」

 傷つき、血を流すデンが丸まって眠っていた。

「デン!おい、どうしたんだ!デン!」

「無駄、ダ!こいつの意識はすでにネエ!モロオの召喚獣の装備品なの・サ!」

「お前ら……!」

「待ちなよ、イッチくん。君一人じゃ無理だ」

 怒りのまま二人に詰め寄ろうとした俺を制止するように、目の前に降り立ったのはジーニャだった。

「ここは私も力を貸そう」

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