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虹色のマーブルと運命の本 第一部  作者: 本堂モユク
第一部 空ろなる道連れ
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第百四話 第三の敵

「――うお!」

 自室で眠っていたジョットは飛び起きた。

「な、何だ……このとてつもない魔力は……」

 ルテティエ芸術魔法学校内のほとんどの教員と生徒は、突如発生した大魔力に戦慄した。就寝時間中の魔法の使用は一部の特殊エリアを除き制限されている。教員でさえペインの許可を得た者でなければ魔法を使うことができないのは生徒も知る周知の事実である。

 魔力の発生源はペイン校長の執務室がある最上階フロアだ。そんな場所で大魔力の使用が許可されるはずもない。つまり、あの魔力の持ち主か、あるいはその仲間が、何らかの手段でペイン校長の制限を解除した。これは――襲撃?ペイン校長を?馬鹿な!

 ジョットが急いで身支度を整えていると、非常事態用の放送が流れた。五年前、入学時の説明でその存在を聞かされていたが、実際に聞くのは初めてだ。

「全教職員及び生徒の皆さん。落ちついて聞いてください」

 シブラ助教授の声だ。ペイン校長とはどういう繋がりがあるのか、彼は以前から校長代理としてアナウンスすることがあった。

「ペイン校長は正体不明の魔法使いから襲撃を受けました。と言っても、ペイン校長は無傷ですのでどうかご心配なく。敵の数は二名。最上階フロアにて、ペイン校長と交戦中です。学外にも敵が潜んでいる可能性がありますので、こちらが指示を出すまで外には出ず、各自自室で待機していてください。繰り返します……」

 アナウンスは二度繰り返されると、ぷつんと音が切れた。

 正体不明の魔法使い、か。そう言うしかなかったのだと察した。ペイン校長のことだ、この学校のセキュリティが破られるとは考えにくい。外敵ではない。身内、それもペイン校長の執務室付近にいても不自然ではない教員の誰か――おそらくは、クロキ副校長。

 ……他に考えようがない。そもそもペイン校長と交戦しうる実力者など限られている。

 しかし、一体なぜこのような反逆を……。

 ベッドに腰を下ろすと、コン、コンとドアをノックする音がした。

「誰だ?」

「スティッキーだよ。ジョットさん、放送を聞いただろ」

 大会優勝者が、このタイミングでなぜ尋ねに来たのか。ジョットは困惑と同時に警戒した。ドアを開けずに声を張った。

「もちろん放送は聞いたが、なぜ自室にいないのだ。外は危険だと言っていただろう」

「逆だよ。この学校は危ない。外に出た方がいい」

「どういうことだ」

「あの放送はシブラさんじゃない。シブラさんはペイン様のことをペイン校長とは呼ばない。正しくはペイン理事長だ。ペイン様が校長を兼任する前からの仲だからね」

 言われてみればその通りだ。よくよく思い返すとシブラ助教授は時折「ペイン理事長とは旧知の仲でしてな」と言っていた。

「誰かがシブラさんに化けて、ニセの非常放送を流したんだ。この事実が示していることは二つ。放送には従うべきじゃない。そして敵は少なくとも三人いる」

「三人?なぜそう言い切れる」

「魔力探知してみなよ。最上階フロアにでかい魔力が二つあるだろ。ペイン様はそいつら二人と戦っているんだ」

 言われるがまま魔力を探ってみると、先ほどはなかった二人目の大魔力が感知できた。

「こ、この迸るような魔力は……まさか……」

「答え合わせしようか?最初に現れた魔力は『閃光のクロキ』。そしてもう一人、『火山のボアーラ』だ」

 やはり――。これほどの魔力、ペイン校長を除けばこの二人しか考えられぬ。

「では、この学校のNo.2とNo.3が手を組んでペイン校長を襲撃したということか?いや、しかし……」

 私が言わんとすることを察したのか、そう、とスティッキーは短く呟いた。

「二人がかりでもペイン様には勝てないよ。二人とも日頃からペイン様の近くにいるんだ、そんなことくらい重々承知しているはず。何か策があるんだろうね。もしかしたら、得体の知れない三人目の敵と関係しているのかもしれない」

「そうか。シブラ助教授に化けている者だな」

「うん。とにかく部屋にいちゃ危ない。出ようよ」

 ドアノブに手をかけようとした時、ふと疑問に思ったことを尋ねた。

「最後に一ついいか。なぜ君は私を尋ねに?」

「先輩の指示だよ。先輩は事態の全容をすでに把握していて、僕ら初等科の生徒には手分けして自室にこもっている生徒を外に出すよう指示したんだ。ちなみに、魔法を使えない芸術専攻の生徒の避難は完了しているよ」

「馬鹿な。アナウンスが流れてからまだ数分しか経っていないぞ。そんな短時間で――」

「指示をしたのはベリル先輩だ。あの人の能力ならそのくらいできるさ」

 魔法専攻でトップの実力を持つベリルの名を知らない生徒はいないだろう。超がつくほどの優等生だ。その高い知名度とは裏腹に、能力を知る者は限られているという。

「君は知っているのか?ベリルの能力を」

「うん。教えてあげてもいいよ、ドアを開けた後でなら」

「……ああ、分かった」

 私はドアを開けるや否や、来訪者に向かって攻撃を繰り出した。しかし手応えがない。避けられたか。

「びっくりした。いきなりどうしたんだよ」

「……君は確かにスティッキーだ。見かけはな。しかし、中身は別物!」

 ベリルのことはよく知っている。彼は常々言っていたのだ。自分の能力のことを知っている奴が現れたら、そいつは敵だと思え、と。

「シブラ助教授に化けていたのは貴様か?それとも他に仲間がいるのか?」

「やれやれ。これだけ情報を与えたのに僕を敵扱いとは……なぜわかった?」

「質問しているのはこちらだ」

 サーベルを構え、魔力を高めた。自分の未熟さゆえ、相手を死に至らしめる可能性のある武器は大会では使うまいと思っていたが、事態が事態だ。こいつは危険すぎる。

「ははは。ずいぶん強気な物言いだね。まあいいや、騙そうとしたお詫びに教えてあげよう。シブラに化けてアナウンスを流した人は別にいる。そして僕はスティッキー本人だ。ただ、もう一つ別の名前があってね。今はそっちの方でやらせてもらっている」

「別の名前……だと」

「うん。僕の名前はアティス。よろしくね」

 次の瞬間、ジョットの意識は途絶えた。

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