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生徒会長は魔術師(彼女は知らない)に暴露する

作者: 速風

 俺の名は神月(シンヅキ)ヒカル、普通の男子高校生である。

 ……表向きは。


 本当の顔は、創作物にでてくるような魔術師だ。

 と言っても、俺は頑張っても中の下。

 俺よりも凄い魔術師なんていくらでもいるし、研究している内容もそこまで目立ってないものだ。


 それに、最近はあまり乗り気じゃない。

 子供の頃は、それはもう目を輝かせて一生懸命に学んでいたけど、時間が経てば学校でやる勉強とほとんど同じだ。

 行き詰れば嫌になるし、面倒になる、魔術なんてそんなもんだった。


 さて、そんな魔術に対して少々面倒な思いを持って生きている俺だが、今学園生活でも面倒なことを抱えていた。


「(ジー)」

「(見られてるなー、やっぱり)」


 ちらりと後ろを向く。

 さっと隠れる仕草が見えた。


 いわゆる俺はストーカーに遭っていた。

 別に自分がアイドル並の容姿を持っているなんて自惚れを言うつもりはない。

 普通に女子と接する機会は会っても、好意を持たれることはあんまりなかった。

 ましてや、ストーカーに遭うなんてことはなおさらであった。


 それに……問題はストーカーをしている女性だった。


 何度も目を疑って彼女を見た。

 しかし事実だった。

 間違いようがなかった。

 信じたくはなかったが、本物だった。


「何してんだ、生徒会長(・・・・)

「あっ……」


 わざと角の方に曲がって待ち伏せしていたら、恐ろしいくらいに罠に嵌ってくれた。

 俺を追いかけて走ってきたせいか、曲がってすぐに俺にぶつかった。


 俺の通う、東明高校には有名かつ大人気な生徒会長がいる。

 知らないという人が少ないくらい、学校では名が知られていて、教師にも頼られているという人だった。

 クールで真面目、おかしな噂など聞いたこともなく、勉強も運動もできるという超人……それが俺の知っている生徒会長の印象だったのだ……今日までは。


 彼女の名は陽波(ヨウナミ)ミナミ……先輩。

 俺の一つ上の二年生であった。

 後ろで一つにまとめたポニーテイルが生徒会長の特長であった。


「えっと、き、奇遇だな!」

「……」


 ……マージか。

 えっ、それで通ると思ってるのか、この人。

 やっぱり偽物なんじゃないのか。


 と言っても、追跡してることを問い詰めてもはぐらかすだろう。

 魔術で自白させることもできるけど、人前ではあんまり使っちゃいけないし、何より余計な面倒事になりたくはなかった。


「……奇遇ですね、生徒会長」

「お、おう、奇遇だ。に、にしても関心しないな、下校中にゲームセンターに寄るなどな!」

「だからずっと追跡してたんですか?」

「ああ、そのとお……君がたまたま寄るのを見て黙っていられなくなったのだ!」


 ツッコムな、つっこんだら負けだ。

 この人はこの人なりに色々と誤魔化してるつもりなのだろう。

 明らかにその通りだと言いかけたのだしても、俺はそれに何か言ってはいけない。


 本当に俺の知る生徒会長なのか、正直自信がなくなってきた。

 いつも凛とした姿勢で、てんぱった姿なんて見たことなかったせいかもしれないけど。

 そもそも会う機会なんて少ないからこそ、これがこの人の素顔なのかもしれない。


「で、俺をどうするんですか?」

「じ、事情聴取だ。そうだ、あそこのムックナルドでどうだ。理由をしっかり聞いてやろう」

「それ道草ですよね?」

「気のせいだ!」


 正直逃げたい。

 でもどっちに転んでもダメな展開しかないんだよなぁ。

 逃げたら逃げたでどうせ次の日に来るだろうし、行ったら行ったで見られたら変な噂流されるだろうし……最悪だ。


 仕方なく俺は会長について行くことにした。


「さて、飲み物は私の奢りだ。気にせず飲んでくれ」

「……」


 まるで取り調べでも受けてるかのような気分だった。

 目の前に置かれたカフェオレに自白剤でも入ってるんじゃないかと疑ってしまう。

 念の為浄化の魔術でもかけておこうか。


 正面にいる生徒会長は楽しそうだった。

 いや、そんな訳がない。

 俺とこの人では明らかに色々と差があり過ぎる。

 この人が俺に恋愛感情を……持ってる訳がない。


 目的が分からない。

 誰か紹介して欲しい人でもいるのか。

 この人が好きそうな友人に心当たりもない。


「えっと、話と言うのは?」

「ああ、そうだな……心して聞いて欲しい」

「はぁ」


 突然、生徒会長はいつも見る真面目な顔になった。

 釣られて俺も真面目になった。


 やはり本物なのか。

 生徒会長はカリスマもあることで知られている。

 周囲に影響を与えてる強い存在、噂は本当だったようだ。


 ……と思ったのも束の間だった。


「え、えっと、その、だな。じ、実は、私は……うぅ」


 ちょっとでも尊敬しようとした気持ちを返して欲しかった。


「あの、生徒会長?」

「わ、分かってる! ちょっと、ちょっとだけ待ってくれ。十秒、いや一分だけだ。頼む」

「……」


 カフェオレを飲む。

 こんな時でも絶妙な甘さと苦さを持つカフェオレは最高だ。

 こんな状況じゃなきゃもっと嗜んで飲んでいただろう。


 そして一分が経過した。


「よ、よし、聞いてくれ、実は――」


――ドガシャンッ!!


 その音と共に俺は音の鳴った方へと向く。


「おい、何してくれてんだ!」

「あ、あぁ……」

「ご、ごめんなさい、お兄さん」


 なるほど、状況からして子供が不良みたいな人にぶつかって、子供のおばあちゃんが謝罪してるって構図か。

 なんともまぁタイミングは悪い。


 しかもまずいな、仲間を連れてるのか。

 しかもああいうタイプだと――


「どうしてくれるんだ? 制服が汚れちまってるじゃないか!」

「そうだそうだ、兄貴のかっこいい姿が台無しじゃねぇか!」

「クリーニング代出せよ!」


 金銭要求だろうな。

 さて、どれくらい出させるつもりだ。


 て、おいおいマジか、財布ごと取りやがった。

 流石にそれはダメだと行こうとした時だった。


「それはやり過ぎではないか?」


 ……忘れてた、俺よりも明らかにそういう悪事を許せなそうな人がいたことを。


「あん、何だお前!」

「ただの通りすがりだ。それよりも、いくら子供に罪はあったとは言え、それは取り過ぎではないのか?」

「はぁ!? 迷惑料だよ! め、い、わ、く、りょ、う!」

「だとしても財布ごと取る必要がどこにある!」


 これは流石に平行線だ。

 どっちも引く気なんてないだろう。


 ……はぁ、仕方ないな。

 不良達の言い分も分かるけど、だからと言ってやりすぎなのも事実だし。


「あのー、ちょっと良いですか?」

「こんどはなんだよ!」

「し、神月君?」

「ここは任せて下さい……えっと、取り合えず財布は返してあげませんか?」


 もちろん、これで素直に返さないのは分かっている。

 傾向的に。


 さて、さっき魔術を人前で使っちゃいけないって言ったが、まぁ何事にも例外ってのはあるだろう。

 死んだ父さんも言ってた、『なーに、たまには自分の為に使っても大丈夫だって!』てな。

 今日くらいは見逃してくれ。


「(”来たれ闇、あるべき者の心を惑わせ、その心に従え――《マインド・ハック》”)そんな訳で、今日はこれで見逃してくれませんか?」

「……ちっ、良いだろう。行くぞお前ら!」

「えっ? いいんすか、兄貴?」

「急にどうしたんですかぁ? まぁ、兄貴がそう言うなら……おい、命拾いしたな!」


 兄貴と呼ばれた男と弟分達は、俺が渡した五千円を握りしめて店を出て行った。


 《マインド・ハック》、簡単に言えば相手の意志を自分の思い通りにさせる魔術だ。

 あの男が単純で心を乱していてくれたお蔭で、簡単に術にかかってくれた。

 油断でもしてない限りは絶対にかからない魔術だ……俺の場合は、だけど。


 俺は財布をおばあちゃんに返す。

 そして子供の方へと腰を落として視線を合わせた。


「良いか、今日のようなことにならない為にも、お店の中で走っちゃダメだぞ?」

「う、うん……」

「本当にありがとうね。お姉ちゃんの方も、割って入ってくれてありがとうね」

「い、いや、私は……」

「おにいちゃん、おねえちゃん、ありがとう!」


 その後、とても店にいられる雰囲気じゃなかった俺達は、一緒に店を出た。


「どうぞ」

「ああ、すまない」


 俺は自販機で買ったオレンジジュースを生徒会長に渡した。


 見るからに元気がない。

 自分が何とかできなかったから落ち込んでいるのだろう。


「それで?」

「え?」

「話ですよ。俺に何か言いたいことがあったんじゃないんですか?」

「あ、ああ、そうだったな」


 正直、あのまま別れて帰っても良かった。

 けど、流石にここまで来てさようならというのは、お互い良くないと思った。


 元々俺と生徒会長には接点のない関係だ。

 でもあんな真面目……真面目、か……な人が俺を誘うくらいに言いたいことがあった。

 またいつこうして二人になれるかも分からない以上、言いたいことは言っておいた方が良い。


 まぁ、またストーカーされたくないというのもあるけど。


 そう思って生徒会長を見たら――


「うぅ~、や、やっぱり言うの恥ずかしいぞぉ」

「……」


 もうやだこの人。

 俺もうよく分かんないわ。

 真面目になったり、恥ずかしがったり。


 先輩だけど言わせてくれ……この馬鹿野郎。


 またまた一分後、ようやく覚悟が決まったのか、再び真面目な顔になる。

 多分今の俺の目は酷くジト目になってるだろう。


「神月ヒカル。実は私は――」


 まじで告白なのか、いや仮に言ってもノーだな。


 さぁ、いつでも言ってこい。

 俺は準備バッチリだ。


 そして彼女は言った。




「――コスプレイヤーなんだ!」

「――ごめんなさい無理です」




 ……待て、今なんて言った、この人。


「神月君、今何か言ったかい?」

「いえ、気のせいです。というかすみません。もう一度言ってくれませんか、よく分からなかったんですが」

「なっ、君は私に二度も醜態を晒せと言うのか……だ、だが驚くのも無理はないか」


 あー、恥ずい。

 そして聞こえてなくて助かった。

 今のしっかり聞かれたら恥ずかしくて三日は寝込む自信がある。


 そしてもう一度、生徒会長は口に出して言った。


「じ、実は私、コスプレイヤー、なんだ……」

「……」


 この日、俺は一番面倒な人から、一番面倒な秘密を共有することになった。


 そしてまさか、魔術師である俺が、コスプレイヤーである生徒会長とあんな事件に巻き込まれることになるなんて、この時の俺は思いも寄らなかった――。




to be continued?

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