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第3話


「そういえばなんで汗かいてたんだ?」


あの後、ひとまず積み重なっているダンボールをどうにかしようと言うことになり、俺たちはダンボールの荷解きをしていた。

その時にふと、軽の方を見ると襟元に濡れたあとがあることに気づいた俺はそういえばこの家に入ってきた時、軽が汗をかいてたことを思い出したのだ。


「ん?あーそれね。あんまり言いたくないんだけど、私このマンション見た時本当にここかどうか信じられなくて、もしかしたら道間違えた!?って思っちゃってそのまま学校戻ってから貰った地図をもう1回よく見てここまで来たの。その時に走ったから。」


「……あーなるほど。」


それに関してはまったくの同意だ。

俺もここ見た時、流石に信じられなくてこの回りをぐるぐる回ったものだ。

とはいえ恥ずかしいから、軽にこのことは言わないが。

しかし俺なら学校に一旦戻るということはしなかったであろう。

実家に比べると学校との距離が圧倒的に近いこの家からでも片道2キロ弱ほどあり、徒歩で往復すると30分以上かかるのだ。

その距離をわざわざ戻ろうなんて思わないし、ましてや走るなんて論外というものだ。

そういうところが俺と軽の違いなんだろう。


「だったらシャワーでも浴びてきたらどうだ?あとの荷解きはやっとくから」


「え、いいの!?でも悪いよ……」


「いいって。お前はいつも自分のことは後回しなんだから、この生活でぐらいはもっと甘えてくれ」


軽は人気者が故に人からの頼み事が多く、さらにそれを断われない性格をしているので必然的に自分のことが後回しにしてまでやろうとするのだ。

中学の頃なんかクラス委員が誰も決まらない時、どこからか「矢田さんとかいいんじゃない」という声で、部活で忙しかった軽がクラス委員になった時もあった。

そんときは流石に見過ごせなかった俺は仕事を手伝ったりしたが。

そんな性格は悪くはないが、軽の場合だと他に大事なことがあってもそれをやってしまうので、この生活でそれを直していきたいところである。


「う、うん……ありがと。」


そう言ってダンボールからタオルと着替え用の服を取り出すと嬉しそうに脱衣所に向かっていった。

軽がシャワーを浴びている間、俺はひとまず荷物を俺と軽と2人で使う食器など分けて空いていた部屋にそれぞれの荷物を入れる。

その後、棚に食器などを入れていったが微妙に数が足らない。

これは近々買いに行かなくてはなと思っていると、


『お風呂が呼んでいます』


という機械の女性の声が聞こえた。

これはお風呂場に取り付けられた『呼びたし』のボタンを押すことで出る声で、つまりは軽が呼んでいるということだった。

にしても何の用だ?

翔は主にこのボタンはタオルなどを忘れた時などによく使う。

だから軽も何か忘れたんだろうと思っていた。


「でも……あいつ何忘れた?」


そう、軽は脱衣場に行く際ダンボールの中から確かにダンボールからタオルと着替え用の服、そして下着――


「いや、まさかな…」


普通そんなこと……軽なら起こりかねん。

あの子普通に馬鹿だし。

いや、まだ決まった訳では無いとりあえず聞いてみないことには――


「翔、どうしよ。下着忘れちゃった……。」


そんなことはなかった。

こうなったらやむを得ない。


「……分かった。ダンボールの中入ってんだろ?取ってくるよ。」


「え!?ちょっと、待って翔!きゃぁぁ!!!」


すると風呂場から大きな音と悲鳴が聞こえてくる。

恐らく軽が滑って転んだのだろう。

しかし、俺は冷静だった。

ここで心配して「軽!大丈夫か!」って行ったら軽のもう1回の悲鳴と、痛いビンタが帰ってくることは目に見えている。

とはいえ、流石に心配だった俺に何は声をかけようと、脱衣所から出ようとしていた体を再び風呂場に戻すとお風呂場のドア特有の吸盤の音がした。

ちなみにこの家の風呂場のドアは折れ戸と言うらしく、真ん中が折れることによってドアが空いたり閉じたりするタイプのドアだ。

そんなことより、つまりこの音が聞こえるということはつまり軽が風呂から出てきたということで、つまりすぐそこには裸の軽がいるということで、つまり……、

まずい、動揺のあまり「つまり」を連呼しまっくっている。

ひとまず落ち着こう。

つまり、目の前に裸の軽がいるということだ。


「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!」


出てきた瞬間、軽はさっきまでのものと比べ物にならない声を出しながら、勢いよくドアを閉めて風呂場に戻って行った。

幸のことに持っていったタオルで大事なところは隠れていたが。

しかしその勢いが強すぎたのか、今度は風呂のドアが外れ、勢い余った軽がこちらに倒れてきた。

もう散々だった。

その後、起き上がった軽は顔を見たことないぐらいに真っ赤に染め、ドアが無くなった風呂場の死角に隠れた。

一方俺はと言うと、軽が倒れてきた瞬間にそれを避けるついでにその場から逃げ出し、ついでに脱衣所のドアを閉めるという紳士プレイを発動したのだ。

しかし残念なことに倒れてきた瞬間に軽の体は見えてしまった。

倒れながらも湯気やタオルが身体を隠してくれるなんてことはなく、小さい頃に一緒に入ったお風呂ぶりに見た軽の体は、部活の影響もあり凹凸がしっかりした大人の体になっていた。

その後に行った、軽の下着のお使いはそれ以上に強烈なものを見てしまったおかげで楽々こなすことができた。

その際にはしっかりと脱衣場の扉を叩いて、風呂場のドアをしっかりと立てつけたことを確認した後に脱衣場に下着を置いた。

お風呂から上がった軽とすれ違った時、軽は俯きながら無言で俺の横をすり抜けていった。




その後、風呂から上がった俺は自分の部屋では無い方の空いていた部屋――軽の部屋へと向かった。

理由はもちろん軽にたいして謝罪をするためだ。

わざとでは無いにしろ、軽の裸を見てしまったのだ。

風呂から上がった軽は俺の顔を見ることなく――いや、見ないようにするためにすぐさま軽の部屋に入っていった。

中に入ろうとすると鍵がかかっていた。

多分軽が鍵をかけて引きこもっているのだろう。

だからドアを叩き


「軽、さっきはごめん。わざとでは無いにしろお前の体を見てしまった。」


と、謝罪の言葉を口にした。


「……。」


「軽、だからうも無かったことにして部屋から出てきてくれ。そうだ!昼ごはんは食べに行こう!」


そう言っても一向に出てくる気配がない。

どうするものかと迷っていると、


「……翔は私の体で意識した?」


という声が聞こえてきた。


「……は?」


「翔は私の体で意識した?」


「……あの、軽さん?」


「翔は私の体で意識した?」


あ、ダメだ。

軽が壊れたロボットみたいにこの言葉を繰り返して来る。

これは俺が正直に言うまで部屋から出てこないやつだ。


「そりゃ、2次元が好きとは言っても俺も男だし……。それに軽は、その……スタイルいいし」


そう言うと、カチッと鍵が開く音の後にドアが開いて軽が出てきた。

そして軽は上目遣いで指で俺の事を指す。


「だったら絶対に無かったことになんてしてあげない。」


イタズラをする子供のような笑顔を浮かべて言った軽に、俺は目を見開いた。

その小さな変化で満足したのか軽は自分の部屋に戻ってそのまま整理を始めた。

一方俺は、何故か軽の方から顔を背けずにいられなくなり思わず自分の部屋に戻った。

まだ春だと言うのに顔が熱い。







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