第1話
「私、翔のことがずっと好きだったの!だから、私と付き合って下さい!」
入学式の後、俺、羽川翔は幼なじみである矢田軽から告白を受けていた。
軽とは家が隣同士で小さい頃から一緒におり、小さい頃に一緒にお風呂にも入った程だ。
普通なら男女の幼なじみは中学生ぐらいで疎遠になるものだが、中学生になっても軽は俺への態度を変えずそのまま接してきてくれたおかげか、今でもその関係は続いている。
そんな幼なじみからの告白を俺は
「すまん。お前のことは本当に大事だしお前は本当に可愛いんだが、お前のことをただの幼なじみとしか見れない。」
と、断った。
恐らく他の男子ならそんなことは絶対にしないだろう。
何故なら、軽はそこら辺のアイドルなんか目じゃないくらいの美少女だからだ。
作られたもののように整った容姿に、部活のために短く切りそろえられたショートボブ。
透き通った肌に加え、好奇心旺盛な子供のような目に、長いまつ毛、そして顔から視線を下げると、年相応に膨らんだ胸。
ちなみに本当に近くで視線を下げると痛いビンタが待っている。
その上、人懐っこい性格も合わさって男女の両方から人気が高い。
さらに小さい頃からやっているバスケットボールでは県の選抜選手として選ばれるほどの実力で容姿、スポーツにおいて周りから群を抜いていた。
そんな軽でも苦手分野があり、それが勉強だった。
だがそんな一面は軽の周りにとって、人間味があって良いということもあり、これも人気の理由だった。
周りからは好感触だが、俺にとってはテスト毎に音を上げ俺に「勉強教えて!」と言ってくるので、正直めんどくさいところでもある。
そんな幼なじみからの告白を断ったのには理由がある。
そしてどうやら軽もその事がわかっているのか、告白を断られているとは思えないほどに落ち着いていた。
「やっぱり私よりアニメとかの方が大事?」
「あぁ」
そう、それはアニメ――いや、2次元だ。
俺は小さい頃から本当に2次元を愛していた。
どのくらいか、と言うと朝起きてから夜寝るまでまるでその事しか考えず、休みの日のには外に遊びに行かずにずっと家でアニメを見たり、ゲームをしたりすることがほどだ。
そのためリアルのことなど端から見ていなかった。
しかしそれを拒んだのは俺の両親だった。
俺の両親は、家でずっとアニメばかり見ていた俺に対して「次のテストで学年10位以内を取らなかったらそれらを全部を禁止にする」と言ってきたのだ。
恐らくずっと家にいる俺に少しは外に遊びに行ったりと、年相応遊びというものをさせたかったのだろう。
しかしそんな両親の思いも儚く砕け散った。
俺は2次元のためだと思って勉強した結果、なんと学年6位をとってしまったのだ。
それには俺の両親も言えず黙ってしまった。
そしてなんとやけになった両親は次のテストから5位、3位、1位とだんだんとハードルを上げてきたのだ。
しかし、俺はそれらを2次元のための一言で全て乗り越えて見せたのだ。
そして最終的に行き着いた先は「軽と一緒に県内一の進学校に入れ」という内容だった。
その時の俺ははっきり言ってなんで軽も?と思ったが、出来なかったら俺の趣味が禁止なので全力でやった。
正直、俺だけだったら余裕で合格していただろうが、軽もというのが本当にキツかった。
しかし俺が泊まり込みになってまで付きっきりで教えたり、嫌いな勉強に付き合ってくれた軽のおかげでなんと2人揃って県内一の進学校に合格することができたのだ。
そういう訳で俺は2次元のためならなんでも出来るというレベルで2次元のことが好きだった。
ちなみに高校に入っても両親からは「学年1位を1回でもとれ無かったらいつもどうりアニメとかを全て取り上げて禁止にする」と言われている。
高校生にもなってなんで?と思うがここまで来たら意地なのだろう。
しかしそれについては恐らく大丈夫だろう。
何故なら俺はこの学校の入試テストにおいて全教科満点を叩き出し特待生に選ばれた他、さっき行った入学式で新入生代表として挨拶を行ったからだ。
今後のテストでも負ける気なんてさらさらない。
「分かった翔がその気なら私にも考えがある。」
そう言った軽は、俺の事を指さしながら透き通った聞き取りやすい声で
「私が学年1位になって翔からアニメやゲームを取り上げる!それで翔に私のことをもっとよく見て貰えるようにする!」
と声高らかに宣言した。
その宣言に対し、俺は
「軽が、俺に勝つって?無理だろ」
冷静に現実というものをたたきつけた。
いや、流石に無理だろう。
軽はもともと勉強が苦手だし、俺と違って部活もある。
逆にどの部分で行けると思ったのか聞きたいぐらいなんだが……。
「無理なんかじゃないし!それに受験の時みたいに翔に教えて貰えば……」
「いや、普通に教えないぞ。」
「……え?」
あー、忘れてた。この子基本的にバカというか天然というか
「いや「え?」じゃなくて、なんで俺の趣味を辞めさせようとしてくるやつ相手に、それを手伝うようなことしなくちゃ行けないんだ。」
「た、確かに……。それでもやるの!絶対に翔からアニメを取り上げて私だけを見させるんだから!」
絶対に無理だなと思いつつも、俺はほんの少しだけ警戒もしていた。
軽は小さい頃からやると言ったことは絶対にやり遂げる性格をしていた。
最後にそれを見たのは受験勉強のときだ。
「翔と一緒の学校に行く」と言ってからはものすごい集中力で勉強をして俺の助けがあったとはいえ、県内一の進学校であるこの学校に受かってしまったのだ。
だからそれ以上軽に対して無理とは言わない。
その代わり俺は挑戦者を受け入れる魔王のような気持ちで
「分かった。受けて立とうじゃないか。」
と言った。
「うん!絶対に翔に勝って翔を私に振り向かせてあげる!」
そんな俺に対して、軽はどこまでも本気で真っ直ぐな視線を向けてきた。
そうして俺と軽の学年一位の座をかけた闘いが始まった。