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終乃刻  作者: コトノハ
9/14

1.OOO 06

「泳げると思うけどね。まあ、何がいるかなんて保証しないけどさ。とはいえ、淡水魚以外はいないと思うけど」

「……虎、じゃなくて、落雁さんが偶に釣りして焼いてるよな。あれ、お前のメシ?」

「当たり前じゃん。あの森と湖は私の所有物だ。あの中にあるのは全部私のものだよ。まあ天命尽きた者たちが多くて、一人じゃ食べきれないから使用人や友人にも分けるけどね」


 ……持っている自分が持たざる者に分けるのは良いが、勝手に持っていくなら許さないということで納得する。

 持てるものであっても、他人に施す理由が無ければ、施すこともあるまい。勿論持てる者の理論であり、持たざる者にはさぞかし直視しかねる光景だろう。


「お待たせしました。ああ、客は君か、時邦」


 そして椅子を持ってやってきたのは虎丸さんこと落雁さんである。水着一丁で筋骨隆々の肉体を陽光に晒しながらやってくる。日光で火傷するぞ。

 この芹川邸で働く人物は全員砂糖、あるいは砂糖の使われた菓子の名前で呼ばれる。ざらめ、落雁、金平糖。なぜそう呼ばれるかなんて聞いたことは無い。これは芹川邸に伝わる風習であるらしく、美琴は只それに習っているだけの様子だった。


「ありがとう、落雁。今日、この後の仕事は?」

「大きな予定はありません。あの、お嬢様。火傷しそうなんでやっぱり水着やめていいですか……」

「今更? 金平糖、とっくに着替えてるよ」

「……アイツめ……ざらめはなんで着替えないんだ……」


 苦々しい顔をする落雁さん。日差しが強い中、半袖は普通に火傷する。上半身真っ裸だったし、そりゃ辛いだろう。

 それでも芹川邸はマシだ。湖が近くにあり、熱気をさらう涼しい風が吹いてくる。外を歩いていると熱気しか感じられない風も、ここでは涼し気に感じられるのは芹川邸にそういう風が入ってくる造りになっているからに他ならない。

 芹川邸は森と湖に囲まれており、熱気を貯め込まない造りになっている。冬になると寒いが、そうなると彼女らは屋敷の中に閉じこもるのだ。古い屋敷に見えて密閉性はとてもよく、中の熱気を逃がさない建物なのである。贅沢なものだ、金持ちという奴は。


「落雁、金平糖が部屋の掃除をしてるから、手伝ってあげて。もしも手伝い要らないなら夕飯の準備を始めちゃっていいや。時間あるなら、今日は手の込んだ食事を頼むよ」

「承知しました、お嬢様。夕食は何かご希望はありますか」

「任せるけど、今日は魚の取れは悪いと思うよ。ああ、時邦、座っていいよ?」


 解りました、と応じて落雁さんは戻っていく。進められるままに俺は椅子に座った。安楽椅子だ。よくもまぁ持ってきたもんである。

 続けてざらめさんが戻ってくる。鉄瓶に氷のたっぷり入った硝子のグラスと、それに付随したカラフルなストロー。俺にも様々なものを無視しろというらしい。


「ありがとう、ざらめ。落雁が夕食の準備を始めるだろうから、台所の片付けしておいて」

「承知しました、お嬢様。ではお替りなど御入用でしたら、またお呼びください」


 ニコニコ笑ってざらめさんは再び屋敷へと戻っていく。スクール水着のままである。

 彼等の他にもまだ数名、使用人がいる。確か全部で九人。金持ちってスゲェよな。自分の屋敷でそれだけ働かせられるなんて。


「それで? 今日はどうしたの」

「家に赫利さんがいるからちょっと居辛くてな。暑くて表に出たくないんだと」


 カレーは作り置きしてあるし、食事は問題ないので彼女は躊躇なく俺の家の清掃を始めた。確かに俺一人だと全然手が回らないところまで丁寧に清掃してくれるんでありがたくはあるが、正直なところ帰ってほしいと思う。


「あー、赫利さんか、良い人だよね」

「ストーカーな上不法侵入者だがな」


 適当に言いながら、鉄瓶から芹川のグラスに茶を注ぐ。注がれた茶は滑らかにグラスに溜まり、続けて自分のグラスに茶を注いで、ストローを使わずに飲んだ。高かった気温と、強い日差しに晒され火照った肉体に冷たいお茶が心地よい。

 二杯目も遠慮なく貰う。鉄瓶に並々と溜まったお茶はまだ半分も減っていない。


「風情が無いなあ。ゆっくり飲むものだよ?」

「この庭のどこに風情があるんだよ……」


 いや、庭は風情があるかもしれないが目の前のアホが全部台無しにしてる。異国の風情だとかそういうもんでもねぇだろ、コレ。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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