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終乃刻  作者: コトノハ
8/14

1.OOO 05

 昼間に外に出ることがあんまり俺だが、それでも必要とあらば外に出る。日射病になりそうな熱量の日差しの中を歩く際は、帽子と氷嚢の所持が推奨されている。少なくともペットボトルか水筒に冷たい飲料水は保持していなければならない。

 そうでないと本当に倒れかねない。夏場に熱中症でお亡くなりになられる人の数は、十年前より倍に増えたらしい。十年前の最高気温は45度だったらしいので、まあそれくらい増えるかと納得できる。お陰で五月頃から対策を始める人が続出して、エアコンの業界は五月から九月までが一番忙しいらしい。九月ごろになると故障対応が増えるとのこと。

 例に漏れず、俺も対策は五月頃から行うし、外に出る際にはきちんと帽子をかぶる。少しばかり鍔が広いソフトハット。色は青。涼しい色の方が気分がいい。熱中症を避けるため、なるべくならば長袖で。日焼け止めでも可だが、面倒くさい俺は基本長袖である。

 外に出ると先ず熱風に気分が盛り下げられる。高等学校の部活は、よくもまあこんな炎天下の中で運動を続けられるものだと感心さえ覚えるほどだった。

 さて、俺はといえば気分を盛り下げられながら家を出て大通りへと向かう。大通りから北上すれば湖があり、湖をぐるりと回り向こう側へ。ここまで徒歩で三十分を超える。少し歩いただけでぶわっと汗が噴き出る熱気の中、全く優しくない距離を歩くことになる。

 近場での移動も車での移動が推奨される現在、何故俺が徒歩で歩いているのかというと、単純に免許が取れていないからだ。後、車は使えないんで爺さんの逝去と共に売り払った。

 湖の近くを歩く際には熱風に煽られ、少しばかり気分が安らぐ。僅かだが、本当に僅かだが涼感を感じられた。湖の水も熱されそうな気温だというのに、この湖は全く持って蒸発の気配を見せない。山から湧いてる水が流れ込んでいるんだよ、とこの湖の主は言っていた。

 湖の主は湖を道路に沿って回ってきた箇所に家を構えている。古く、広い家だ。ただし見た目だけである。空調設備は今の時代に合わせて全部屋完備。トイレも二年前に全部総取り換えしているし、水道設備も何もかも更新されている。

 芹川邸。やたらと広い庭にはきちんと手入れされた草木が生い茂り、白の玉砂利が並べられている。巨大な門はよく知らないが、年代物の樹木を削りだしたらしい。こちらもきちんと磨かれており、古さを感じさせない。

 何でも昔は林倉町一帯の大地主だったらしい。駅ができた後も、自分の土地以外を踏まずに家に帰れる事ができたとか。嘘だろと最初は思ったが、どうにも本気であるらしかった。

 巨大な門を開く。別にアポイントメントなどは取っていないが、現在の家主から許可は貰っていた。

 そしてその家主はと言えば、玉砂利の上に置いた安楽椅子に腰掛け、ビーチパラソルで日差しを遮り、白い陶磁器のテーブルに鉄瓶を置き、氷のたっぷり入った硝子にお茶を淹れてストローを差して啜ってる。そしてその格好は赤いパレオの水着に色の濃いサングラス。その上でなんか物すっごい分厚い本を読んでいる。時代とか国籍とか景観だとか諸々無視しているアホである。


「……何アホな格好してんだ、芹川」

「お、やぁ、相変わらず聞き取りづらい声をしてるね、時邦」


 軽く腕を上げて挨拶をしながら、グラスの緑茶をストローで啜る芹川。当然のようにストローは奇妙な軌跡を描いており、グラスにはカラフルな花が飾られていたりする。

 フルネームを芹川美琴。どうにも女性は名前に楽器の名前を容れるのが芹川家の習いらしく、彼女の母親はそういった理由だけでここに嫁いできたと聞いたことがあった。


「おーい、グラスもう一つ頂戴。それから、お茶お替り! そろそろなくなるー!」


 芹川が大声で屋敷に向かって叫ぶと、屋敷からはすぐに人が出てきた。所謂女中さん。この時代に錯誤なことだと思わなくもないが、彼女らにとってはこれが当然の光景である。


「はーい、お嬢様。あら、時邦君、いらっしゃい。お茶はいいけど、おやつはなにかいる?」

「気を使わなくていいよ、ざらめさん。落雁に言って椅子、もう一個持ってこさせて。突っ立ってられても目障りだ」

「承知しました、お嬢様。お茶は緑茶でよろしいですか?」

「うん、大丈夫。濃い目に御願い」


 はい、と元気に頷きながら女中さんは鉄瓶を持って屋敷に戻っていく。その恰好が夏に合わせた服装なのか、スクール水着でなければ俺は言葉を失わなかったかもしれない。

 アホな屋敷なのは知っている。始めてきた時は正月も終わって久しいというのに振袖を着て餅つきをしていたし、男性使用人が板前装束など着用しながら突きたての餅を黄粉や餡子であえていた。家主は餅を喰いながら庭に積もった雪でかまくらなどを作って遊んでいるのだ。今もそうだが、ツッコミどころが多すぎる。


「……なぁ、何やってんの?」

「暑いから水着で過ごしてるんだよ」

「……海とかプールでやるべきじゃねぇの? ここ、泳げねぇだろ」


 屋敷の奥側にある湖や、西に拡がる森を見やる。林倉町三丁目に位置するあの湖や森は彼女の所有物だ。開発の手が伸びていない森や、未だに大量の魚が泳ぐ綺麗で濁った湖。

 不法投棄や不法侵入者の温床となるべきはずの場所であるが、なぜか湖は綺麗なままで、不法投棄の欠片もない。それに森も静謐なもので、人が立ち入った形跡の無い原生林の諸相を表している。

 これらに関して家主に問いただしたところ、彼女は只三日月のような細い笑みを浮かべて、


『さぁ? 無いって事は最初からなかったんじゃない?』


 等と宣ったのである。二度と聞かないようにしようって思いました。そうでなくとも芹川邸は怪談の塊。余計な恐怖は背負わないに限る。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

どうやら一週間はどうにか続いたようです。

次何処まで行けるか見ものです。

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