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終乃刻  作者: コトノハ
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前章 高崎邸回顧録 02

 そんなわけで高崎邸である。本当に近かった。徒歩五分圏内か、凪原規模の発症だったら我が家は崩壊してた。

 しかしとりあえずのところ安心である。家は変化しているようには見えない。後は鍵が開いてなければいいんだけど。

 願いはあっさりと裏切られて、ドアノブを引くとあっさりと扉が開いた。ジーザス。扉を開いた状態でチャイムを鳴らす。音が鳴らない。ファッキン。

 家の中は薄暗い。先ほど軽く一周して外観を見たところ、カーテンは閉め切られていた。室内に電気が点いていないところから、ブレーカーが落ちてるっぽい。こういうブレーカーって入口とかにないのか? 無いなあ……。

 入口から見えるのは一本道。そして二階に上がる階段。一本道の奥には扉があり、その手前に扉が二つ並んでいる。中流家庭のよくある二階建ての建物。とりあえず、土足のまま高崎家に上がる。傍から見れば良くて泥棒か、強盗だ。困ったことに広義的な意味では間違っていない。

 床から軋む音が上がる。手前の扉を開くと、中ではテレビが流れていた。そしてエアコンつけっぱなし。ニュースが林倉ニュータウンで泥棒が捕まった件が流れている辺りタイムリー。置いてあるテーブルの周りには四つの椅子。二つばかり滅茶苦茶に壊されていて、そのうち一つの傍に女性が倒れ込んでいた。頭が凹んでいる上顔面が酷く潰れている。目が合った箇所は空洞になっていて、口からは歯が何本も無くなっている。

 居間とは台所が直通になっている。台所では水が出しっぱなしだし、なんか赤いソースと刃物が大量に散らばっている。汚いうえに電気と水道に優しくない家だった。キッチンには大きめの鍋に腐ったカレーが入っていた。蓋閉めろ。

 一階には高崎某はいないらしい。台所には裏口がある。病的なまでにガムテープが貼られていて開けるのは面倒くさそう。冷蔵庫はかなり大きく、値段も相応。中から黒い液体が漏れてなかったら欲しかったかもしれない。開いたりはしない。中に何が入ってるかは想像したくないし、夕飯が食べられなくなるのは勘弁願いたい。

 とりあえず一階にはいないか。後ありそうなのトイレと風呂場だけど、一応覗いていくか……? トイレはまあいいや。とりあえず風呂を覗くが、誰もいない。となると二階か。

 ……しかし普通の家だな。こんなんだったのか、アイツの家。来た覚えが無いんで解らんが、なんか……既視感あるな。俺の家とは違うんだが、こう……ドラマとかアニメとか、そういうのに出てくる家に似てる、気がする。

 ……まあ普通か。普通の家。二階行くか。ところどころなんか液体や内臓っぽいものやプリン状のなにかやらが階段や壁に張り付いているのが実に嫌。少なくとも素足で歩きたくない。


「……?」


 階段を上がっていくと少しずつ足元からの感触が変化していく。木造の感触から土の感触へ。土の感触から石の感触へ。

 ……狭域とはいえ異界化してやがる。こりゃダメだ、帰るか。そう思って後ろを振り返るが、既に入口は見えなくなっている。慌てて階段を下りようとするが、下の方では出来の悪いスナッフフィルムが展開されてた。包丁で男性を刺してる少年が一人。近づいたら俺もめでたく被害者入り。しかも最初の階段を見る限り、多分死体を引きずって上に上がってくるよね。逃げよう。

 階段を上がると、扉が三つ。床は完全に石になっていて、窓はカーテンが掛かっているが鉄格子がかけられていた。通路には扉が三つあり、どれも重たい鉄のもの。石造りの監獄、そんなイメージだった。

 そんでもってその通路にうつ伏せの死体が一つ。警官の制服で執拗に刻まれている。最初の一撃でショック死か失血死してれば楽だったことだろう。辺りは血の海でちょっと行くのが躊躇われる。遺体は後で丁寧に埋葬してもらおう。

 とりあえず鉄の扉を一つ開く。……重っ! そりゃまぁ普通に考えて鉄の扉だしな! 扉は引いて開くし、クソ!

 どうにか半分ほど開き、中に身を滑り込ませる。硬いベッドに机と硬い椅子が一つ。そんでもって膨大な本とゴミの山。窓は大きいが有刺鉄線できっちり封鎖されてる。

 ……高崎某のイメージがコレか。そんなに酷い両親だったのかねぇ。

 俺には親というものが解らない。小学生の時に死んだ。爺さん、婆さんが両親の代わりだった。それに対して別に不満は無い。別にそれを嫌がったことも無い。けれども親かと言われるかと、それは違うとも思うのだ。

 とりあえず高崎某いないし出るか。次の部屋も同じ重さの扉なんかな。嫌だわぁ。外に出ると死体を引きずって包丁を持つなにかと目が合った。慌てて閉じて部屋に閉じこもる。最悪だ。能面みたいな顔が脳から離れない。

 あれ多分高崎信也本体じゃないよな。異界化してて変な回想状態になってやがる。となると本体みつけねぇとならねぇ。廊下にいる警官の死体と同じ末路はできれば勘弁願いたい。

 かといってここから出ないと脱水症状で三日後には死ぬだろう。どうするかな……。あー死体放り込んだらまた下行ってくれるかな、アイツ。暫くしたらちょっと開いてみるか。……音が何も聞こえないだけマシだな。

 携帯電話を取り出し、時間を確認する。表示板がバグってた。ネットにも勿論つながっていない。高崎、お前どうやって電話かけたんだよ。電波通じてると思って完全に油断してたじゃねぇか。

 暫くして扉を開いて辺りを見回す。能面ヤロウはいなかった。そして警官の死体は変わらず放置されている。アレは能面さんと出会って状況が解らずああなった、って考えていいだろう。

 基本的に異界化した世界では、発症者本人以外は無敵の存在だ。地形の一つも壊せないのが当然。警官さんは多分、病葉の発症については余り知らなかったのだろう。

 とりあえず次の部屋行くか。こっちもやっぱり鉄の扉。開いて、中に入る。中は隣の部屋と似たような状況だが、ゴミは無かった。本も丁寧に整頓されている。机にはノートパソコンが置かれており、最大の違いは、窓に有刺鉄線が使われていなかった。よし、ここから逃げられるな。

 そう思ってカーテンを開くと、そもそも窓は嵌め殺しだった。その上硝子じゃなくてなんだこりゃ、アクリル板? 何枚か重ねてある。……簡単には壊れないな。逃げ道は見事に塞がれてる。つまりここも監獄には違いない。

 パソコンは点かない、そもそも電源が通じていない様子だった。異界化したせいで電気系統全部死んでるな。二階なだけまだマシなところ。パソコンは20年前の古い代物って感じ。

 なにも無さそうだし、次行くか。部屋を出て、次の部屋の扉を開こうと掴む。そうして開けようとしていると、能面さんが飽きもせずエンドレスに死体を持ち運んでくるのにかち合う。うわ、ヤバいヤバい! 急いで力ずくで扉を開いて中に飛び込む。勢い良く扉を閉じた。軽く息を吐いて、後ろを振り返り――。


 ――高崎信也と目が合った。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

キリのいいところまでは続きます。

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