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終乃刻  作者: コトノハ
14/14

1.OOO 11

「へい、怪談屋敷の御主人よ」

「いやぁ、大惨事になる予感がするね。ところで金平糖、君、今から辞退する気は無い? 私としては君を喪いたくないんだけど」

「いや、今更辞退できないんだけど。明日から予選だし、今日はもう誰も対戦しないだろうから。っていうか、日曜日はあんまり対戦しないんだよね、暗黙の了解っていうかさ」


 うわちゃー、と頭を抱える珍しい芹川が見れた。割と金平糖こと村雨俊哉のことはお気に入りらしい。年齢も近いし、話しやすいという点もあるんだろう。

 ところで喪うって何の話ですか? 金平糖の問いかけに、俺はあっさりと答えた。


「怪談話だよ。銀の腕輪をつけてる奴を探してる鬼がいるんだとさ」

「……そりゃまぁ、どのみち辞退は出来かねますね」


 軽く頭を掻いて金平糖は困ったように言う。一応友人から誘われた手前、そう簡単に辞退もできないのだろう。彼はそういう縁や筋を大事にする人間だ。

 まあ怪談と出会わないようにしますよ。言いながら金平糖は袋に玩具を詰め込み、屋敷へと戻っていく。芹川は大仰にため息をついて、暫く哀しそうな顔をした後、鉄瓶からグラスをお茶に注いだ。複雑なストローを通り、緑の液体が芹川の口へと消えていく。


「ま、しょうがないか。怪談の鬼に襲われないよう祈るだけだ」


 軽く手を叩いて何者かに祈る芹川。間違いなく神にではない。彼女は神になど祈らない。それは俺も同意だ。完全な存在に祈ったところで何になるというのか。

 陽は段々と落ち始め、辺りは燃え盛る火炎の色となる。夕刻、つるべ落としにはまだ時期が早いが、それでも夜まで後数時間もいらないだろう。帰りに何か買っていくか。カレーに合いそうなトッピングでも。金、あったかな。ポケットに手を突っ込み、財布を取り出す。それと同時に、零れ落ちる銀色の腕輪。澄んだような音ではなく、軽く硬い音を立てて玉砂利の上に転がる。


「……」

「……」


 二人して沈黙して玉砂利の上に転がった腕輪を見やる。

 数秒の沈黙の後に、腕輪に手を伸ばしたのは芹川だった。腕輪を矯めつ眇めつ眺め、お、と声を上げる。


「番号入ってるよ、時邦。『6』だって。それにこれ、何だろう、文字の羅列。ところで君も参加者だなんて、私知らなかったなぁ」

「俺だって知らねぇよ……! ああ、クソ思い出した……! 今朝、確かに赫利に渡されたソレ……!」

「へぇ? あの人、君に不利益なことはしないと思っていたんだけどな。ああ、つまりOOOへ参加すること自体は決して君の不利益にはならない訳だ」


 芹川は三日月に笑い、弄んでいた腕輪を陶磁器の机の上に置いた。OOOへの参加自体は確かに何も起きないが、それによって齎される悲劇は回避しきれるかどうか不安が残る。

 というか参加しないって言ってるものに強制参加させるような真似をさせるんじゃない……! 普通なら縁切りもんだろ、コレ!


「金平糖の予定を開けようか、私からだと言うといい。話を聞くなら急いだ方がいいんじゃない?」

「……助かる」

「君から素直なお礼が聞けるとはね。ちょっと赫利さんに感謝してもいいくらいだ」

「すんな」


 お茶を一口で飲み干して、屋敷へ向かう。夕陽になり、気温は下がり始めている。それでも今晩も熱帯夜だろう。

 屋敷の中は涼しかった。空気もほどよく乾燥している。過ごしやすいが、この屋敷の中には人間以外は存在しない。僅かな生き物の気配すら感じられない屋敷の中は、蒸留水に似た清潔さが感じられる。

 ここには、生き物という生き物がいない。蟲の一匹でさえ、ここには寄り付かない。ここは怪談屋敷芹川邸。底なしの恐怖の屋敷であることは、蟲にさえ解る話だった。


「……相変わらず気色悪いなぁ、この屋敷は」


 この屋敷で、例えアルバイトと言えど働いているだけでも大したものだと思えるのはそういう事だ。

 一切の生命が感じられない場所というのは、俺達にとっては異空間に等しい。無菌室等というが、一切の菌がいない空間などないはずだ。ましてやここは湖を脇に、森を背に抱えている屋敷。命の素など無限にあるはずなのに、この屋敷内にはそれらが無い。それこそ、消毒の必要さえなく、屋敷内で手術さえできる。

 空気を通し、水を通し、人さえ通すこの屋敷には、他の生命の立ち入りが許されない。許可された者だけが入れる、というのは吸血鬼だったか。怪談話には違いない。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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