1.OOO 09
「怪談でしょう? ただ、ちょっと違うかな。この鬼が欲しいのは銀色の腕輪なんかじゃなくて、多分もっと違うものを探してるんだ。だから銀色の腕輪を身に着けた人は殺しても、銀色の腕輪を奪ってはいない」
「……銀色の腕輪、んで病葉の夜、最後に死者か」
うん。まあ怪談として十分に有りだな。それだけの要素は備えている。なんでか銀色の腕輪を身に着けている相手を狙い定めるあたりがそれらしい。ただし『身に着けている相手』が対象であり、銀色の腕輪が目的ではない。
「その鬼、目的は?」
「さぁ? でも殺された三人は全員『お前じゃない』って死体に吐き捨てられたらしいよ?」
ひでぇ話だ。アクセサリで身に着けていた銀色の腕輪を見掛けられたら襲われて殺される。結果としてその鬼の目的とは関係が無い。ああ、つまり――。
「誰か特定の人間を探してんのか、この鬼」
「正解。その為に態々墓の下から蘇ってくるっていうのも健気だよねー」
キシキシ三日月に笑う芹川。コイツにとって人間の死は一つの娯楽に過ぎない。最も、それは俺達にとってもそう違いは無い。画面の向こう側の痛みなんて、俺達には想像できないのだから。
人と人との争い、そして人の死はそれがどのようなものであれ娯楽でなければならない。そう語ったのは誰だったか。そうでないのならば、それは君にとって娯楽になり得ない何かの喪失なのである、等と。
「そんでもって、何? 銀色の腕輪を付けていて、それが違ったら殺すのか? なんか理不尽過ぎねぇ? いや、怪談って言えば怪談だけどさ」
「追いかけられる怪談は大抵ろくでもない結末だよね。追いつかれれば死ぬ、追いつかれなくとも恐怖で衰弱する。原因を突き止めない限り、鬼は追いかけてくるのを止めないし、殺したら相手を変更するだけ。今回の場合は?」
言うまでもない。特定の誰かを見つけるまで、この鬼は銀色の腕輪を付けている相手を探し続けるだろう。
病葉の夜に死んだはずの誰かが鬼となって蘇り、その誰かは銀色の腕輪を付けた人物を探している。対象の人物でなければ、お前じゃない。そう言って殺すのだ。何のために?
鬼の動機など決まっている。目的となる人物を見つけ出して殺すのだ。違った相手は運が悪かった、それだけの話だろう。銀色の腕輪なんてつけないに限る。金目の物を付けていると襲われるという話ならば、まあ教訓話として十分。
「ま、とはいっても銀の腕輪なんてそうそう無いだろうけどさ。銀メッキしてたって、そうそう腕輪なんてつけないだろう? 特にこの暑い盛りだ、日差しが強すぎて腕輪をつけてるだけで火傷しそうだろ」
「いや、犠牲三人出てる……夜か?」
「鬼の活動時間は夜だけだね、今のところ」
今のところ。それだけの話でしかないと言わんばかりに、芹川は三日月に笑う。
……ま、夜に出歩かなけりゃいいだけの話か。銀色の腕輪なんてアクセサリ、俺はつけたこともない。
「お嬢、ご歓談中ゴメン。やぁ、時邦さん」
足音を立てて、男性の人物がやって来た。村雨俊哉。この屋敷では金平糖と呼ばれている最年少の少年。年齢は僅か十六歳。この屋敷では只のアルバイトだが、ここでアルバイトをしているだけで大したものである。
背は俺よりも頭一つ分低い程度。今は長袖に何やらビニール袋を二つ持っている。買い物の帰り、というわけでもなさそうだった。全体的に薄汚れているところから、掃除でもしていたのだろう。
「うん? いいよ、ちょうど一区切りだった。どうしたの、金平糖」
「さんづけいいって。金平糖、お前この怪談屋敷で働いてるだけでスゲェよ」
軽く嘆息して、俺は鉄瓶を手に取り、自らのグラスにお茶を注ぐ。
「ああ、掃除してたら、部屋から色々出てきてさ。捨てていいかの許可を取りに来た」
「色々……? うわ、懐かしいな、時邦、これ知ってる?」
ビニール袋から出てきたのは子供のおもちゃだった。ミニカー、塩ビ人形、カエルの玩具。塗装の禿具合からみても、相当長い間放置されていたのだろう事が伺える。
芹川邸は古い屋敷だ。怪談屋敷なんて呼ばれている原因の一端であるのは間違いない。古い屋敷であるが故に、使っていない部屋もたくさんある。それらの中にはこういった玩具が沢山あるのだろう。芹川美琴だけでなく、この屋敷に連なる者たちが集めたものが沢山あるはずだ。
塗装などは剥げているが虫食いの跡は無いし、汚れもほとんどない。埃に塗れている程度である。……これ、何年くらい放置されていたんだろうな?
「はは、カエルの玩具だ。母様がよく遊んでくれたなぁ、これを使うと私が這いずって寄ってくるんだってさ」
這いずってって言い方。芹川美琴の両親は彼女が子供の頃に自殺している。
理由は解らない。けれども二人揃って屋敷の寝室で首をつって死んでいたのだという。俺が聞いたのはそれだけだった。そして芹川美琴は、祖父母の存在さえ知らなかった。俺がふと話したら、それ物語上だけの存在だろう? と返ってきたもんである。
それでも彼女が母親のことを話すときはこうやって笑顔だった。少なくとも物心つく頃まではまだ生きていたのだろう。怪談屋敷のエピソード、その一端である。
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