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終乃刻  作者: コトノハ
10/14

1.OOO 07

「まあそういうことならゆっくりしていくといい。夕飯、食べていく?」


 二つ返事で受け取ってしまいたいが、家の中で一人で食事をする赫利さんを想像するとちょっとばかり胸が痛む。間違いなくカレー一人で喰うだろうしな……。

 こちらの迷いを察したのか、芹川は苦笑に近い笑みを浮かべる。軽く茶を含んで、揶揄を飛ばしてきた。


「君、本当他人に甘いな。相手は犯罪者なんだろ? 住居侵入罪の時点で疑いようがないけど」

「……他人に厳しいよかいいだろが。まあ、警察には相談したよ……取りつく島もねぇけど」

「時と場合に因るな。厳しさだって愛情さ。常に優しくする、解答を教えるだけが愛情じゃない……ああ、君には解らないか」


 ごめんね、と一切心のこもっていない謝罪を受け取る。うるせぇ。

 まあ確かに、俺の両親は子供の頃に死んでいる。引き取ってくれた人たちも去年の内には全滅した。まあこちらは老人だったし、大往生といって良いはずだ。そんなわけで、俺は両親と過ごした記憶というものが薄い。

 両親が死んだのは事故だった。バスでの事故で、俺だけがギリギリで生き残った。なんかのツアーか、旅行の帰りだったんだろう。もう何年も前の、朧気な紅蓮の記憶だ。

 そんな訳で俺は愛情というものに飢えている上、かなり疎い。それくらいの自覚はある。ただ、あの人を直接的に受け入れられる訳じゃない。歪んでいることくらいは解っている。

 ただ、まあ単純に心配をしてくれるのも解っている。家を出る際に赫利さんから忘れものだよ、と財布と銀色の腕輪を受け取った。こういう事ばかりなら素直に受け入れられるんだがな……。


「まあ好きにしていくといい。数少ない友人なんだから、どのようにしても私は何も言わないよ」


 コイツも友人が少ないが、まあこれに関しては彼女自身は悪くない。芹川邸って怪談の塊だから、寄る人がほとんどいないのだ。

 そもそも使用人たちを砂糖菓子の名前で呼ぶってなんだよ。以前に尋ねたところによると、命があると盗られるからね、だと。何に。怪談過ぎる。


「ああ、まあそうする……それ、何読んでんの?」

「ん? グリム童話。初版が欲しいんだけど手に入らないんだよねぇ……」


 よくは知らんが初版のグリム童話とか手に入るもんなのか? ほら、と本を差し出してくれるので受け取る。予想はしてたが日本語じゃなかった。くそ、南蛮語は解んねぇよ。ていうか英語ですらねぇなコレ。


「何語?」

「やだ、時邦、高等学校通ってるんでしょ? ドイツ語位読めないと」

「残念ながら今の世の中すっごい便利になっててな。言語が喋れなくとも翻訳してくれる代物は沢山あるんだよ」

「無粋だね。言葉ほど人の作った物で美しいものは無いというのに」


 笑いながらグリム童話を開き、ぺらぺらと捲り始める。読めているんだろう。

 勉強というのは段々と趣味の領域になりつつある。それでもお偉い人たちは賢い人たちが多いから、知識や知恵の重要性は解っているつもりだ。学生が学ぶのがどれ程幸運なのか、俺達は噛みしめるべきだと思う。

 携帯端末のカメラ向けるだけで翻訳してくれる、お互いの声を携帯端末を通せば翻訳してくれるこの世の中で、知識とはどれほど役に立つだろうか。解答は解りやすい年収という結果で示されるわけだ。そして俺には事情があるので、割と勉強はしないとマズイ。

 軽く嘆息して茶を口に含み、本を芹川へと返す。真面目に勉強はしている。だが、ドイツ語にまで手なんか回らない。外国語は英語で精いっぱいだよ俺は。


「そうだ、そういえば時邦、ニュータウンで流行ってる怪談、知ってる?」

「怪談?」


 芹川邸は怪談の塊だ。曰く池で無断で釣りをしたものは行方不明になり、森から何かを持ち出そうとすれば還れなくなる。館に踏み込めば永遠に彷徨い続ける。屋敷の奥には奇妙な怪物が隠されている、等。そんな怪談が騙り続けられる場所なのだ。林倉市林倉町の方々は暇なのだろう。

 そんな屋敷の主人たる彼女が語る怪談とは一体なんぞや。ろくでもない予感だけはヒシヒシと感じる。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

よろしければブックマーク、評価などよろしくお願いします。

林倉町の方々は多分暇なんですね。

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