前章 高崎邸回顧録 01
新作です。
とある市の悪夢の日々に巻き込まれる系物語。
不定期更新になりますが、よろしくお願いします。
電話の着信音で目を覚ました。
7月9日、土曜日。壁に埋め込まれたデジタル時計は『13:12』となっている。がなり続ける電話の音が鬱陶しい。
……電話? 電話だな。アラームとかじゃない。
俺に電話をかけてくるような奇特な知り合いは二人しかいない。芹川は会話は好きだが電話は嫌いという変わり種。アレが電話をかけてきたらそれだけで最悪。うつしは電話の用事は他愛なしの三流ホラー、できる限り電話はとりたくない。
頭痛に顔を歪めながら、充電器に繋いである携帯電話を手に取る。画面には見知らぬ番号。少なくとも知り合いからの電話よりはマシだった。とりあえず、何も考えず電話に出る。
「はい、もし――」
『ああ糸久だよな? 糸久、お前の、お前の顔がさぁ、頭に浮かんでしょうがないんだ。ああ、違う違う俺のせいじゃない俺のせいじゃない』
この時点で正直な話、切ってしまいたかった。クソ、何ラリってんだ、誰だよコイツ。
知らない声、とも言い切れない。クラスメイトの誰かだろうか。俺の携帯電話の番号、教師にしか教えた覚えが無いんだが、やっぱり教えるべきじゃなかっただろうか。
『とにかく今すぐ来てくれよ、俺せいじゃないんだ、それを証明してくれ! 俺の家族を殺したのは俺じゃないって、なぁ頼むよ、兄貴、兄貴は優秀でいいよなぁ……』
「今すぐ警察と病院に電話して寝ろ、先ず誰だよお前」
『高崎だよ、高崎信也だ、知ってるだろ? お前と一緒にメシもよく食べたじゃないか。なぁ聞いてくれ、病葉のワクチンは打ったんだ、でもおかしいんだよ、母さんと父さんが死んでるんだ。親父、俺の模試の結果を見て言うんだ、お前はなんで兄さんみたいにって。俺は、俺のせいじゃない、俺のせいじゃ、なんだよ見ないでくれ、こっちを見るな』
高崎……高崎。
記憶の底から掘り返す。えーっと、あれ、学年でも上位の人だった気がするんだが、うろ覚えだ。そりゃまぁ、この町における気色の悪さは薄れても、俺の人生経験まで否定できるわけじゃないんで、覚えていないことに罪悪感なんて覚えない。
「んで、その高崎信也? さんがなんで俺に電話かけてきてんだよ」
『だからお前の顔が浮かんできてるからだよ、お前を思い出すとどうしても気色悪いんだ。なぁ凪原がさ、お前を気持ち悪いって言ってんだけどあれが解るんだよ、ああくそ、なんだお前、この顔、化け物じゃねぇか……! クソ、こっち見るなよ、なんでお前が、俺を』
「あー」
真っ当な感覚を取り戻したようで何より。これで林倉市に来てから三人目。今度は行方不明にならないといいな。口ぶりからして無理っぽい。
「まあいいや、んじゃさっさと警察呼んで――待て、高崎、お前何処に住んでる」
『あ? なんだよ友達がいが無いなあ……4丁目27の4だよ」
電話を切って舌打ち。寝ていた布団に携帯端末を叩きつける。ふざけんな、すぐそこじゃねぇか。3,4件隣、もうちょっと遠いか? 道路挟んだ向こう側なら無視したのに。
クソ、コレ家の中異界になったりしてねぇだろうな。電話は……ダメだな、携帯電話だ。電波が通じてりゃイケる。クソ、家の中の状況がさっぱり解らねぇ。放置するか警察にでも連絡……被害が広がるだけ。ああー……まあとりあえず警察には連絡するか。こちとら只の十八歳の学生。やれることには限度しかない。
警察に連絡すると既に最寄りの交番の巡査が対応してるという話。どんだけ前の話ですか。三十分前だね。連絡あったんですか。まあそろそろあるんじゃない。だから警察って役に立たねぇって言われるんだよ。後手後手に周るのはしょうがないにしてもちょっと暢気すぎない?
警察が動くまでまだ時間かかるだろう。くそ、放置すれば俺の家まで巻き込まれる可能性が高い。一人暮らしのこの家には、結構思い出っていうものが詰まっている訳で、流石に捨てるのは惜しい。そして俺には頼れる人なんていない。残念ながら両親は他界済みで、俺を引き取ってくれた爺ちゃん婆ちゃんは昨年とうとう大往生。
……よし、お膳立ては出来たな。行きたくねぇが行くほかにない。駅向こうのニュータウンみたくなるのは歓迎する人もいるだろうが、その前に全部なくなるのを歓迎できる人はいないはずだ。
着替えて、外へ。夏の日差しが肌を焼く。林倉市では連日最高記録を更新中。今年は最高気温が四十七度まで上がる見込みらしい。まだ7月に入り立てだというのに、今日の最高気温は三十五度。今すぐに家に帰って冷房に当たりたい。かといって今更家に帰るのも億劫で、強すぎる日差しの中を進んでいった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
よろしければ今作もお楽しみください。




