聖女と悪女
本当は逃げたかった。逃げたいと心の底から思っているはずだった。
だって、それは挑戦する対象が私には大きすぎて怖かったから。
そういうはずだった。
でも違かったと気がついたときの絶望が分かるだろうか。
私は、本当の私自身はもっと醜く汚く最低で。どこまでも人間臭く。
人をひとたらしめる所以としてその人間臭さすらも愛すと言っていたくせに、私自身は嫌悪してしまったほど。
そう。私は挑戦して結果が得られなかったときに失望を受けるのが怖いのだ。
それはとてもとても醜い感情だった。底辺だと思っていた場所がまだマシだと思えるほどに。
つまりあの時諦めたことも、私しか周りにいなかったら、周りがそのことを知らなかったのなら、私は諦めなかったのかもしれない。否。あきらめなかっただろう。だって失望されることはないから。
私は聖女として、人を愛す。信じる。受け止める。と、人々に語ったはずなのに、その人々のことを心からは愛せていなかったのだろう。
失敗を恐れるなと言いながら、失敗した人々を下に見ていた。私はあのようではないと。あのようにはなりたくないとすら思っていたのかもしれない。
そんなの聖女としてどころか、人として最低だ。実際に、失敗を恐れずに立ち向かった人の方が何倍も素晴らしく、清く美しいではないか。
こんな私の祈りの言葉を一体誰が受け止めてくれるのだろうか。
こんな私の祈りの言葉で一体誰を救うことができるのだろうか。
神は許してはくれないだろう。こんな自分自身しか愛せない者など。
どんな人でも受け入れると言いながら、そのものの本質を実感した途端に嫌悪し、逃げ出す者など。
それでも私は祈るのだ。
幾つもの抱えきれない矛盾を胸に。
その身の可愛さゆえに。
それによって誰かを傷つけても。きっと、申し訳なく思っていても実際は自分の身が可愛くて、時を戻せても同じ選択をするのに。
それなのにイイ人のツラを被って心を痛める。
一番最低で醜くて汚らわしい。
あぁ。誰か、聖女という肩書をなかったことにしてくれないか。
本当の私は醜い悪女なのだから。