狂気
今日もかったるい授業が終わり、オレの友人である隣のヤツに帰ろうと声をかけようとしたら、やたらと深刻そうな顔をしながら話があると言ってきた。
なんなのだろうか。そう思いながらも、言われるがままについていくと誰も使っていない空き教室にたどり着いた。
そこでご丁寧にドアの鍵まで閉めたコイツは、一言、爆弾を投下した。
「あのさ、俺、イツワリなんだ」と。正直言って、意味がわからなかった。まさか人間ではなくアンドロイドなのだろうか。そんなバカげたことを考えている俺に気がついたのか、少し苛立った様子で詳しく話し始めた。
なかなか本音が言えないこと。ついつい良い人ぶってしまうこと。だからオレとの会話もイツワリだったのかもしれないと。
それを聞いた俺はかなりのショックを受けた。今までの時間は全てイツワリだったのか、と。でも嫌いにはならなかった。何より話してくれたことが嬉しかった。少しでも力になれるように心配だということを伝えようとしながらも「そんな生き方はさみしくないのか?」と聞く。
..........わけがなかった。今、俺は歓喜に溢れていた。やはり俺は正しかったと。だいたいこんなにイイヤツが世の中にいるわけがない。だからその行動は演技だと確信していた。
もちろん俺だって演技をしている。
”少しお調子者のムードメーカー”これが今のオレだ。この優しいエセ王子の本性に気づいているのは俺だけ。ならば苦しませて楽しみたい。...そう思うのは当然だろ?
まぁ、周りに本性をバラすつもりはない。必死にエセ王子として頑張るコイツを見るのも面白いからな。
そして、この仲を終わらせるつもりもねぇ。少しづつイジメて長期的に楽しんだ方がいいだろう?
だから俺は演じ続けながら、内心はショックを受けているのを隠すように、心配そうな優しそうな顔を作り、少し引きつらせる。
これで頑張ってカオを作っているように見えるだろう。そしたら少し苛立った顔の後、めちゃくちゃピュアなことをウソで言ってきやがった。
ホンットーに最高だぜ。ここへ来てイツワレルのか。しかも赤面までして、才能あるな。
イツワリに対する良心の呵責さえなければ俺に匹敵する演者になれるのだが。まぁもう少し演技力も必要だが。
想像以上のこいつの才能に思わず顔が綻ぶ。まぁこいつは俺にとって悪い解釈はしなかったようだが。
もちろん返答はこれ一択。「もちろんだ。俺もそっちのが嬉しいよ」いや、ほんと、これは本心から。
これからも楽しませてくれよ ユ キ ト。