仮面
淡々と口先だけのお礼を言いながら頭を下げる。もちろん顔には人の良さそうな笑みを貼り付けて。それだけで俺の周りのヤツラは俺をイイヤツだと勘違いする。
口先だけでも、心地よい言葉なら。貼り付けたものでも、気づかないのであれば。全て、全て、本物の言葉と顔になる。
”そんな生き方はさみしくないのか?”
本当の自分に気付いてくれない周りにストレスを感じていたあの頃、一番仲のいい奴に相談したことがある。もう二度としないという思いにさせられたが。
そいつが俺に投げかけた言葉。....さみしくないのか? 笑わせんな。んなもん、さみしいに決まっている。でもとっさに作っちまうんだよ。心から出る言葉なんて今まで吐いてきた言葉のうちのどれほどしかないのだろう。
ほら、お前だっていま、少し心配そうな優しげな顔を必死に作ろうとしているのがわかる。俺にそんなこと聞くならお前は素直にショックだって言えよ。
そーだよな。いつもいつも、優しいのが取り柄っていうくらい優しいこと言いまくってた俺の言葉のほとんどがツクリモノだってわかったんだ。
そりゃ、ショックだろうし、信じられなくもなるよな。そんな胸の内の言葉を全て飲み込んで、イツワリを吐き出す。
「そうなんだよ。やっぱちょっとキツくて...お前なら本心をさらけ出してもいいかなって思ったんだ。やっぱ嫌か?ごめんな。今まで嘘ついてるみたいになっちまって。でもお前といる時はほとんど本音を出していられたんだ。だから、素の俺とつるんでくれないか?」
目の前にあるカオが安心したようにホホエム。まぁ、それもそうか。普通はこんな恥ずかしいことなんて口に出せない。しかも今のオレは真っ赤だ。頑張って本音を伝えたヤツにしか見えない。
そして案の定、目の前にいるお前は、「もちろんだ。俺もそっちのがうれしいよ」って言うんだ。
わかっている。そうなるように喋ったし。ただこれは、俺が求めていた形ではないというのもわかっている。まぁ、何を求めているのかなどわからないのだが。でも、俺がコイツに失望したのも確かだ。
あぁ。かろうじて俺の中で鈍くも確かに暖かい光を発していたこいつは、完全に光を失ってしまった。
そこから俺の寒く冷たい日々がはじまったのだ。