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ことの始まり
ードクンードクンーあぁ。あの方が何かおっしゃっている。
あの深く、深く、青の吸い込まれそうな瞳が私を見る。
そう。このために私は20年間も耐えて、耐えて、生きてきたの。
でも残念ね。せっかくあの方の瞳が心がこちらを向いたのに、視界が霞む。
あの方の言葉を聞いていたいのに、自分の心臓の音がうるさくて聞こえない。
ふと何か熱いものがせり上がってきて、吐き出す。
吐き出したものが私が着ている純白のドレスを真っ赤に染める。
あぁ、せっかく新調したものだったのに汚れてしまった。
でも、吐血したということはもう終わりなのね。
ならばせめてあの方に見られる顔は笑顔でありたい。
だから、ニコリとあの方と出会ってから初めて浮かべる心からの笑顔で幕引きといたしましょう。
痛みでこわばっている頬の筋肉を無理やりあげて微笑んで目を閉じた。
あぁ、あの方に見つめられながら死ねるなんて、なんて幸せな最後なのでしょうか。
生まれたからこのかた感じたことがないほどの満足感に包まれながら、ゆっくりゆっくり重たくなった瞼を下ろした。